第25話魔王七大天王と海津砦

 俺たちは、周囲を見て周り城門があるか確認するのだが、既に門は朽ち果てておりとても通れる場所では無かった。


 「参ったなどうしようかな?」


 どうするか、考えていると上から梯子が降りてきたのだ。


 「あなた達は、少将の言っていた先遣隊か?」


 ひょっこりと出てきたのは海津砦の中にいた兵士であった、姿を見ると所々包帯があり痛ましい傷跡まで見えて痛ましい姿であった。がその目はまだ死んでおらずまだ戦えると訴えている気がするほどに伝わってくる。



 俺たちはコクンと頷きあい、出された梯子にゆっくりと足を乗せ登り、城内に入る。


 入った瞬間に辺りを見渡してみると戦慄する、海津砦には三万もの兵士がいるはずだったのだがここにいる負傷兵達は、五百も満たないほどであった。


 「ここにいる兵士が全てなのか?」


 「いえ、もう少しいます、あと三千程はいると思いますが、今すぐにとはいきませんが二ヶ月程すれば全員動けるようになります」


 「だが、これで全てと言うことだな」


 俺の言葉に兵士は無言になり、ゆっくりと悲痛な面持ちで頭を下げる。


 「そうか、よくやったな」


 労いの言葉を言うと兵士は泣き崩れてしまう。


 どうやら、かなりの緊張感に苛まれていたのだろう、援軍が来た事に安心したのだろうその様子を見てかなり壮絶な戦を経験をしたのだろうとわかるがこれほど憔悴しきった兵士を見るのは長篠以来だ。


 「では、とりあえずラザル大佐のところに向かうか、昌景」


 昌景の方を見るとどうやら死臭や消毒の混ざった臭いを嗅いでしまったらしく、口元を抑えてコクコクと頷くだけで喋れない状態だ。


 「あまり、無理はするなよ昌景」


 そういった途端に吐瀉物を吐く音が聞こえ後ろを振り向くとどうやら昌景は限界だったらしくその場でぶちまけてしまった。


 俺は昌景の背中をさすりながらラザルの元に向かう、その横で兵士達が淡々と吐瀉物の処理をしていくのをみる。どうやらよく見慣れているのだろうと思うと彼らはここでいろんな地獄を見てきていたのだろう。



 半壊した城に向かうと数人の負傷兵が俺たちを出迎えてくれた。


 俺たちは所々に痛々しい城内の傷を見ながら城主の間に向かう。


 軋んだ城の襖をゆっくりと開けるとそこにひとりの老人が座っていた。騎士の甲冑を身に付けていた本当なら銀色に輝いていた鎧のはずだったのだが今では見る影がなくなるほど錆びれてボロボロの鎧だった。


 「いや、よく来てくれましたな、こんな今にも落城しそうな城に」


 鎧と同じ銀髪の髪のオールバックの男がラザルだと一瞬でわかった。


 「いえ、あの足は……」


 軽く会釈したあとに彼の左足に違和感に気づいてしまいつい、たずねてしまう。


 「あぁ、これは敵にな。」


 なくなった左足を名残惜しそうにさすりながらラザルは告げる。


 「かなりの手練れでな、まさかあの七大天王の一人とやり合う羽目になるとはな、この帝国内でまずやり合った事があるのはこの年代ではわしが初めてあろうな。最後に良い勝負できてよかったわい」


 ラザルは少し微笑みながら満足そうに呟く彼の言葉通りもうラザルは戦える状態ではない事は見てわかる。


 「だが、まだ止めるわけにはいかんまずは一矢報いてから堂々と引退したいそれまではワシを城主から解任するのは辞めてもらいたい」



 既に体は限界で見えてない部分からでも所々包帯から滲む血が見てとれた、それに右手の部分から見える火傷を見るとどうやら全身を焼かれたのだろう本当に生きているのが不思議な状態だ。


  だが、まだ彼の目は獲物を狙うは猛禽類の様な瞳を宿している、彼の戦意はまだ死んでいなかった。


 (「この状況でまだ目が死んでいないとは…信春の爺さんを思い出すな」)


 彼の瞳を見てかつての部下を思い出しそうになるがその思いを堪える、ここで感傷的になるのは場違いにもあるからだ。


 「その、七大天王とは?なんなのです?ラザル卿アタシははじめてきいたのですが?」


 軽装な鎧をが暑かったのか、いつのまにか鎧を脱いで薄着になっていた。身体から滴り落ちる汗を手で拭いながら彼女は素朴な疑問をする。


 「お嬢ちゃんの歳ではわからないかもしれないななら教えよう。」


 お嬢ちゃん呼びに若干不機嫌になる昌景をなだめながら俺は大佐の言葉に耳を傾ける。


 「かつて帝国と勇者が揃っていた時代建国して数年しか経っていない時、一番魔王軍と激しかった時代当時最強の勇者と帝国全盛期の彼らをギリギリまで追い詰めた。三体の魔族がいた。結局当時の彼らは倒す事ができなかった。その後、新しいメンバー入れ替えながらいつしか七体、それと魔王クラスという事で七大天王と言われた」


 

 「では、大佐がやり合ったのは」


 「あぁ、七大天王だと思うが、人であった。だがあの強さはまさしく化け物クラスであった、ワシらは一度奴に城を攻められてな。突然の事でワシらはなす術なくここまでの被害を出してしまった。我ながら情けない」


 そんな風に言われるが、彼はその魔王の最高幹部を退ける事に成功している。だが問題はというと。



 「その七大天王は最初の三人のうちのひとりなのか?」


 

  ラザル大佐は無くなった左足をさすりながらこう答える。


 「あぁ、そうあってほしい。何せワシのレベルはこれでも八十九でな、こう見えて勇者と同じレベルには達していないのだ。単に今はこうやって強さの水準みたいなものがレベルでわかるが当時の彼等にはなかったから昔の勇者達が強かったかどうかは分からんよ」



  ラザルはゆっくりと立ち上がる、片足だけでバランスを保ちながら俺たち二人を見定めるようにじっくりと観察する。


 「だが、あの強さは英雄の域は越えていたよ。それにまだ本気を出している様子ではなかったからなお嬢ちゃんは既に英雄の域に届いている事に驚きだが、若いあんちゃんは戦うには厳しいくれぐれも命を粗末にはしないでほしい」


 それだけ言うとラザル大佐は小姓を呼んでそのまま奥の部屋に向かわれてしまい今日の話し合いは終わったことになる。



 その後、俺たちはすぐに援軍を送るようにとまだ生きていた水晶魔法での連絡を済ませてそのまま寝る事にした。



 問題は山積みだが、やるしかないと俺と昌景は、腹を括る。はっきり言うと現状七大天王に対抗できるのは昌景と俺しかいないからだ。全ては俺たちにかかっている。瞼が重たい目を擦りながら俺たちは無事に帰れることを願うしかないのだ。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る