第22話なんちゃて皇帝と気まずい再会
「ごほん!?」っと軽く咳払いをするのは信盛だったどうやら彼なりに助け舟を出したつもりらしいがお生憎くなんの助けにはなっていないのだ。そもそも叔父上にだけでも伝えべきだったと思う。
若干フリーズしてしまって動く気配がみじんもなかったのだ。
無理もないかと俺は思った。こんなとこで見知った顔と会うとは誰も思わないからだ。しかも異世界という場所でだ。
「では、貴殿等に今回の報酬を与える」
若干目が泳いでいる叔父を見て、近くにいた信盛の方に視線を向けると、奴は顔を逸らし見て見ぬふりをするつもりでいるようだ。
「さて、今回の戦での報酬はまず、其方達をS級として扱うことを私自ら認める、そのための勲章を渡す」
叔父上の言葉を聞いた瞬間、昌景達は目を輝かせてすぐに臣下の礼をとる。感極まったのか信春の瞳には涙が溢れそうになっている。
S級冒険者、冒険者の中でも特に優れた功績を持つパーティーが受かる称号の一つである。帝国内でもこの称号を持っているパーティーの数は少ないまさしく冒険者として認められた証でもある。ちなみに軍人として扱われるようになる、その時の地位は大尉クラスらしくそこまで高くないがそれでもある程度の敬意は払われる為そこまで悪くないと思う。
「さらに、劣勢ながら魔王軍に対して獅子奮迅の活躍と敵勢を追い返した功績を加えて君達を名誉騎士として扱いたい。それか新しくできた侍大将の地位もあるがいかがかな?」
叔父上の提案に謁見の間が一気にどよめきが上がり始める。昌景達も彼等とは違うが少し困ったような表情をしていた。
騎士は、帝国内で部隊を率いる地位をいう。一部隊では無く一軍を指揮する権利を与えられることになる。一応騎士だけを集めた騎士団もあるのだが、あくまで臨時の部隊の見方で本来の役目は指揮官としての面が正しい。
侍大将は、それよりも上の旅団つまり司令官としての地位を与えられる、極めて高位なもので将軍クラスではないとならない。ちなみに信盛は少将の為彼は実質侍大将でもある為帝国の重臣なのだ。
問題は、そんな重要な地位を冒険者に与えようとすることに対して今、混乱が起きている状況だ。確かに帝国は人材なんかもしれないが、無理に冒険者という身分の低いものに与えてしまうのはどうかと今武官達が話し合いを勝手にはじめてしまっている。
それは、こちらも同じで昌景達もあまりにも出来すぎた話に不安でいっぱいになっている。ここで言葉を間違えると謀殺されるかもしれないからだ。
ここは既に敵地に変わりつつあると皆思い始めるほど殺伐とした淀んだ嫌な感じが肌に突き刺さってくるのだ。
(「まずいな、叔父上が気まずさのあまり判断が鈍ってしまったようだなここはおれがーー」)
なんとか、円満に事態を終わらす為にと破ろうと思った矢先俺よりも早く動いた者がいた。
「恐れながら、これほどまでの地位を与えていただきありがたい。ですがまだ我々はまだ経験浅くとてもお役目にそえませぬ。ですのでこの件は一旦保留にしてもらい、我等の実力が帝国臣民にも認めていただきましたら再度此度の騎士襲名か侍大将の任をお受けしたいと思う次第であります」
跪き、叔父上に具申したのは昌信であった。彼はこの状況をいち早く察知し動いてくれたのだ、しかもあまり波風立てない方法で。
「そうか、ならそうとしようではこれにて授与式は終わりとする。各々すぐに持ち場戻るのだ!!」
叔父上の号令と共に波乱になりうだった気まずい授与式は無事終わりを迎えることができたのだ。
ぞろぞろと一斉に全員が出ていく中、不意に誰かに首根っこを掴まれてしまう。
慌てて振り向くと今回の黒幕に近い信盛が笑顔で俺を見ながら。
「兄上、叔父上が呼んでいますぞ」
「お前、この状況たのしんでいるだろう?」
「いえ、別に〜」
「おい、目を逸らすなこっちをみろ!!待て急に早足になるなコイツッ!?」
まるで人をおちょくるかのようにいや、完璧におちょくっている信盛の後についていくとそこには一際大きい扉が俺達の前に立ち塞がる。
よく見ると扉の真上には武田の家紋と知らないどこかわからない虎のような龍のような絵が一緒に彫られていたのだ。
「おい、あの上にあるのは一体何のやつなんだ?」
俺の質問には無視をして信盛は手招きしながら扉の方に吸い込まれていく。
「こっちの話は無視なのかよ!まったく前はこんな奴では無かったのにな」
愚痴を言いながら扉の中に入っていくとそこには頭を抱えている、叔父上の信龍が信盛を睨みながらこちらに視線を向けるとため息をつきながら。
「まさか武田の一門衆が三人も揃うとはこれは奇跡なのかそれでも嫌がらせなのか?ワシには見当もつかないぞ。まったく皇帝とか安請け合いするでは無かったわ」
頭を掻きながら、さらに深いため息をする叔父に俺は思わず尋ねてしまう。
「安請け合いとは一体どういうことですか?」
「いや、何ここの本当の王族の方にな、少しの間なって見ないかと言われてな、それで少しだと思っていたら気がついたら5年経っていてな…あの王女殿下は一体何をしているのやら!早くワシを解放してくれ!!」
ほとんど自業自得みたいなものだが、なぜ叔父上が皇帝になってしまった理由がわかった。
「で、これから叔父上はどうするつもりなんだ?王女さん探すって言ってもこの魔王軍との戦をどうにかしないと……」
失踪した王女殿下を見つけるより魔王軍に滅ぼされるのが早いと思う。
「それもそうだが、冒険者で穴埋めしようと思うと他の奴らがうるさくてな、やっと信頼してもらえるようになったんだが、まだワシを皇帝として認めない奴が多くてな」
苦虫を潰した顔で言う叔父上に対して信盛はお茶を手渡しする。少しお茶を飲んだことで落ち着いたのか、少しだけ昔の叔父上に戻った気がした。
「さて、ここからが本題だ。今回お前を呼んだのは他でもない。対魔王軍戦線についてだ」
一際眼光が鋭くなる叔父上を見て俺達二人は気を引き締める。かつて父上に頼りにされていただけありどことなく似ている気がするのだ。
「いきなりでわるいんだが、お前達にはワシ等と共に魔王軍と戦ってもらいたいのだ。現在我が軍は足並みが揃わず劣勢になっている、そこでお主達には遊撃部隊として動いてもらいたいのだ」
「それと……」
俺の答えを聞く前にズイッと俺の前に出ていのるように俺の手を掴むと。
「頼む!!ワシの代わりに皇帝をかわってくれ!この通りだ」
歴代のこの国の皇帝で一番情けないのではないかと思うほどの交渉であった。
俺は一つ目は承諾し二つ目は断った。叔父上は血を吐きそうな勢いで倒れてしまう。よほどショックなのだろう。だが俺は結局厄介事を引き受ける形になったことに大きくため息をつくしかなかった。
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