第21話皇帝がまさかあいつだと……

 俺たちは、宿屋のの豪華な料理を食べた後すぐに明日に備えて寝ることにした。


 あの料理の豪華さは異様な様な気がした。どうやら信盛が用意したらしいのだがもう少し安い宿屋でもよかったと思う他の人々には白い目で見られていて気が気でなかった。


 さて、難なく俺たちは遅刻することなく宿屋から出発し皇帝がいる宮殿という場所に向かう事にした。


 まだ朝だった為か人通りが少なく安心することができた。そんな俺を見て昌景をはじめとする他の奴らは笑いをこらえている。まぁ、理由がわかっている為に俺は全員を少し睨む。


  さてそんな一幕がありつつ、俺達は宮殿の門のところまで着いた。


 「お待ちしておりました。皆さま」


門の前に立っているのは慇懃な言葉で俺たちを出迎えてくれた信盛であった。今回は鎧はつけずに、この世界での貴族御用達の豪華な服装をしていたのだが、やはり刀は外せなかったのか、しっかりと帯刀しているようだ。


 「では、どうぞ中へ。陛下は奥で待っておられますので」


 促されるまま、俺たちは宮殿の門をくぐるとそこで目にしたものに驚きを隠せなかった。


 「こんな立派な館は私は見たことがありませんぞ」


 近くにいた昌信が驚嘆の声を上げる、普段の彼から言わない言葉が出るほどにこの建造物は立派なものであったのだろう。


 「こんな大きな建物を一体どうやって……」


 信春の呟きに昌豊、昌景も一緒になって頷く皆初めての帝国の首都それも皇帝がいる宮殿を見て目を輝かせている。


 (「真に目を輝かすなよ、どっちかっていうとこういうもんにそんな反応するのは男だけだぞ」)



彼女達の反応に対してこれからの行く末が心配になるがここからがは版になるだから。


 しばらく、宮殿内の豪華さに気を取られつつ、ある場所につく。


 そこには重々しい扉があり、左右の兵士が門番の様にこちらを警戒していたのだ。


 彼等を観察してみるとかなりの手練れだと見て取れる。魔王軍に押されている話をよく聞くが本当なのかと勘繰ってしまうぐらい帝国の人材は厚そうに見えるのだが……。


 (「一度、この話は信盛に聞くとしよう。何か問題があるのではないのか?例えば内部のいざこざがあるとか?」)


 そんなことを考えている時間は無く、左右の門番達はゆっくりと扉を開ける。


 そこで見た風景に俺達は少しだけ衝撃を受ける。



 部屋の広さは言うまでも無く広いこの部屋だけでちょっとした祭りができるほど広いのだが、それよりもびっくりしたのは、奥に見える豪華な椅子と少しだけ他のところよりも三段ほど高い気がする。


 そしてそこまで行くまでの道のりに左右に分かれて文官、武官が立ち並んでいた。


 (「なんだ?、この扱いは本当に唯の冒険者に対してのものなのか?」)


後ろを振り返ると信春と昌信はこの圧倒的な重い空気を感じるのか、周囲を警戒していた。昌信にいたっては帯刀している刀に手をかけているようだった。


 チラッと、信盛の方に視線を向けるがあいつはこちらに笑いかけるだけで何も気づいてくれなかったどうやらこれがこの国では普通のことだと信じるしか無いようだ。


 「昌信、信春さん、ここは相手の出方を見てから動くとしよう。とりあえず昌信は常に退路の確保だけは忘れずに」


 周囲の奴らには聞こえないように声を落として二人に指示を出す。二人は何も言わずに頷き警戒を解いてくれた、もちろん退路の確保や周りの奴らの観察は続行する形で。


 そんなことをしているうちに案内していた信盛が足を止めた。そして彼は俺達に前に出るように促してくる。


 ゆっくりと前に進み出ると先程まで遠くに見えていた玉座が俺達を見下ろしていた。


 まだ玉座は空席であり、皇帝と呼ばれるこの国の当主は、まだいないようであった。だが、俺達が玉座近くまで来たと同時にさらに空気が重くなったような気がした、厳密には彼等の緊張感がこちらにも移ったような感じがするのだ。


 周囲の様子を見るに、武官や文官達は何も話をせずに誰かの来るのを待っているかのようだった。唯一人だけ彼等の中で全く緊張感を持っていない奴が一人だけいたあくびをしながらやる気が無いと態度に出している信盛であった。


 彼の隣にいる武官達はあいつのあんな態度に対して誰も嫌な顔はしていない事にここに彼等にとって日常的なのか、はたまたあいつが特別な地位になっているかのどちらかだろう。


 「勝頼さんは、あの方と知り合いなのですか?」


 少し下の方から声が聞こえると思ったら昌豊が興味がありげな瞳を向けてくる」



 「あぁ、帝国の人が使者で来たことがあっただろう?あの時の使者があの優男だよ」


 「へぇー、随分親しい間柄のように見えましたけどまさかスカウトされたとかでは無いですよね」


 「いや、それは無いさ。第一もしそうだとしたら皆に真っ先に伝えているよ」


 昌豊の疑いを晴らすべく、俺は即座に否定する近くにいる信春と昌景が睨んでいることに気づいていなかったら即座に否定はしなかったと思う。本当は少しだけ厄介になったら昌信と二人で冒険者をやるつもりだったのだがな。



 なんとか誤魔化すことに成功できた時、いきなり太鼓の叩くような音が聞こえた。


 その瞬間、並んでいた家臣達全員がその場に跪き始まる。とうとう、本命の皇帝とやらが来たようだ。


 笛の音とともに現れたのは、初老に差し掛かりそうな男であった。一見パッとしない顔立ちをしていたが、その服装を見れば彼の纏う雰囲気が違うことが分かる。



 真っ赤なマントそれに金色の羽織をみに纏いさらに黄金の剣を帯刀しているその姿まさにこの国のトップに間違いなかった。


 俺達は遅れながらも頭を下げ跪く、その姿に満足したのか。


 「よい、はるばるここまで来てくださったのだ、さぁ顔を上げてくだされ」


 驕り高ぶった態度では無く、謙虚な姿勢の話し方に思わず好印象を抱いてしまうが、彼の顔を見て言葉を失ってしまう。


 「えっ!?」


 俺は声が裏返ってしまうほどに動揺してしまったのである。それは相手も同じだった。


 そこにいたのはまた自分の身内で一条信龍かつて武田当主だった俺の後見人で叔父にあたる人物なのだ。


 (「また、知り合いにあってしまうとは…本当にどうなっているのだか」)


かくして、気まずい謁見が始まろうとしていた。

 






 

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