第19話戦後処理

 俺達は、帰還するなり盛大に街の大歓声を受けることになった、街の人達は俺達の事を英雄だといい褒め讃えていた。内心ここまで人々の歓声を受けたことがないから嬉しかったが、これからのことを考えると少し気が滅入ってしまう。


 防衛線の結果は戦術勝利を収めることはできたが戦略的な面では敗北に等しい。


 奇襲部隊の半分は負傷していて半年以上はクエストに出られないもの達ばかりになってしまっている状況だ。


 もっとも被害が多いのは騎士団率いる足止め隊であろう。守備兵合わせて半数程が戦死してしまいうち、二百人ほどが重傷を負ってしまうほどの被害を被ってしまっている。もはや組織的な軍事行動を起こせるほどの余裕がなくなってしまっている。


 指揮官も今回の戦で意識不明の重体になっていつ起きるか、わからない。唯一頼みの綱は、今日来る事になっている、帝国からの援軍三千が来る事になっているが今後どうするか、俺達は一体どうなってしまうのかは、彼ら次第であろう。


 「なんとか退けられたが、次はこうもいかないだろうな」


多大な犠牲を払い、勝利はできたがそれは敵の油断があって初めて手に入れられたものである。それこそ奇跡に等しい。だが必ず次は相手は慎重になるだろし、それに……。


 「魔人化とか言っていたな、兄上は…、となるとまだ奥の手があるんだな。それに赤備えの飯富虎昌か」


義信に話しかけていた、男の正体を昌信に説明してもらった。どうやら元旧武田四天王の一人で山県昌景の赤備えの前任者で兄である人物だと、武勇に置いてはあの昌景に匹敵かそれ以上のちからを有している、猛将だということだ。


 噂では、義信より強く現在帝国内で落とされた砦は殆どが虎昌によるものだと伝え聞いている。


 「まぁ、それも俺には関係ないのだがな。これ以上の争いには巻き込まれたくない」



無論気にならない訳では無いが、それよりもこのままこの都市の防衛に巻き込まれるよりもさっさと逃げて、冒険者稼業を体験しておきたい。 このままズルズルと守備兵達や都市の面倒見るのは、当主時代にこりている。


 「いっそのこと、このまま逃げるのもありだと思うんだけどな」


そんな、無責任な事を考えていたからか、ドカ!っと勢いよく、ドアを開ける音が響く。そこにいるのは、少し短いスカートなるものを履いた昌景が立っているではないか。うえは、スーツを着ているのだが、中の服が真っ赤であまり似合っていないがどうやら急ぎの用事らしい。


  「どうした?何かあったのか?」


俺の質問に、昌景は頭を下げる。いつもは軽い感じなのだが今回はそうではなかった。


 「はい、今しがた援軍にこられた帝国の方々がこられましたので……」


事務的な事だけを述べると彼女は後ろに下がると同時に、一人の男が入ってきた。長い金髪で黒い鎧を着た、若い武者だと思ったが、その何かを見通しそうな瞳を見ると歴戦の将だと考えを改めさせられる。


  「初めまして、わたしは、帝国騎馬第一旅団を務める。グリス・デスター少将です」


丁寧にこちらに頭を下げるこの若き将校に俺は立ち上がり、席を譲る事にした。本来俺が座っていた席は騎士団長が座っていたのだが、代役で任される事になってしまう。つくつぐ代役には縁があると少し自重気味な笑みをうかべそうになるよまったく。


 「初めに…わたしからお礼を申し上げます、この度はこの街を、守っていただき感謝しかございません。あなたたちの作戦がなければこの地は魔王軍のものになっていたと思います」



グリスは、丁寧に感謝の言葉を述べ頭を下げてくるのだが、その瞳に何かを隠している様だが、まったく読むない、得体の知れない人物だと俺は感じてしまう。


 「いえ、そんなことはありません、何分わたしは周りの助けのお陰で勝ちとった勝利ですので感謝される謂れはありません」



「ご謙遜を、わずか数百の手勢で三万の大軍を追い返したのは帝国の歴史でも稀に見るほどの功績でございます。陛下直々にお礼を言われたいとおっしゃられています。それと、これを……」



何やら、封筒をわたされる。俺は、丁寧に破くと一枚の紙が入っていた。内容をじっくり読んでから俺は後ろにひっくり返ってしまう。



  「こ、ここれは一体どうゆうご冗談ですか?」


あまりの唐突すぎる内容と先手を打たれてしまった気持ちよりも差出人の名前に腰が抜けそうになってしまう。


 「えぇ、冗談ではありません。あなた達の功績を帝都で祝うことが決まりました。つきましては帝都にご招待します。光栄に思って下さい兄上」


俺は、腕をプルプル震わせながら、黙ってうなづくしかなかった。手紙の最後にこう書いてあったのだから。




 あなたの目の前にいる、グエスは偽名です。本来の名前は仁科信盛、あなたの可愛い弟です。


 

「なんで!!知り合いばかりがこの異世界にいるだよ!!ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!」


とうとう許容範囲を超えたおれは、街中に響く断末魔に似た叫び声を上げてしまっていた。

 




 

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