第18話強過ぎたる大将
動きがあったのは、義信からであった。一瞬のうちに距離を詰め昌景の首を斬りに向かう。
ギィン!っと金属同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
「焦らなくつもり良いんらですよ?まだ始まったばかりなのですからね!」
すました顔で、一撃を槍先で受け止めた昌景はそのまま一気に鍔迫り合いに持ち込む。
ガチャガチャと金属同士が小刻みに触れ合う音が響くがだんだんと大きくなっていく、義信が押され始めているのだ。
「まさか、この世界でここまでの武人がいたとはなしかも女とは……」
鍔迫り合いで、競り負けそうになった義信はそのまま後ろに飛び昌景から距離をとる。
「逃がさないよ!!」
当然、昌景が逃すハズが無く目にも止まらない速さで槍を突き出す。多分槍のスキル「瞬槍」を使っているようだ。必ず当たる必中の技であるがその分威力はかなり落ちてしまう。
「くっ!」
その場にいた誰もが当たると思っていた一撃をギリギリのところで義信はかわす。誰もが驚く中、昌景だけは冷静に予備動作無しの蹴りを腹に目掛けて入れてくる。
「うっ!」
今度はかわせなかったのか、横腹に強烈な一撃を与えられ受け身をとれるずそのまま数メートル転がるがすぐに態勢を立て直す。大分効いたのか、脇腹を抑えているあたり、もしかしたら骨がおれているのかもしれない。
「どうやら、勇者…いや英雄クラスの強さを持っているのか。まったく運のないことにこの私がいささか劣勢になるとは……」
「劣勢?、それは貴方が本気を出していないからでは無いのでは仮にも「瞬槍」をかわせるスキルを持っているとのは帝国内でも少ないですよ」
まったく警戒をとかない昌景は、すぐに次の一撃を放つ構えを見せている。が一向に動く気がないようであった、義信の動きに合わせてカウンターで終わらそようとしているようなのだ。
「まったく、とんだお嬢さんだ。だがお言葉に甘えて本気を出させてもらおう」
いきなり、周りが暗くなったような錯覚なら見えたような気がして俺は目をこする、そこに映るのはやはり何も変わっていないいつも光景だった。
視覚的情報では変わっていないのだが心をかんじているものは別であった。寒気ガするような何かに締め付けられいるような空気が圧迫されているようなそんな感じしてならなかった。
「風林火山(偽)」
不意にそんな穏やかな口調で詩を歌うような声が聞こえたと同時に。
「カッツン!!、走れ!」
昌景が俺に向けて叫ぶ、こちらに顔を向けることができないほどに必死だと言うことはわかった俺は昌信をら連れて逃げようとするのだが。
「遅いぞ。我が弟よ」
いきなり、目の前にあらわれた、義信は刀を引き抜き俺を刺しにくる。
キィーンっと甲高い音が、耳をつんざく。
腹を切り裂かれる瞬間に昌信と昌景二人が義信の刀を弾く。
その瞬間、ゆらりと義信の姿が消えてしまう、本当に自然と初めからいなかったぐらい。
「昌信さん!後ろ!!」
かろうじて、長年のカンがあったのか、昌景が叫ぶ場所を振り返るといつもに移動していたのか、刀を構えて斬りかかろうとする義信がそこにいる。
「ぐっ!?、」
ただの袈裟斬りが居合と同じぐらいの速さで遅いかかりる。なんかとか昌信は身を捻って致命傷を避けるのが手いっぱいであった、腕を深めに切られその場に態勢をくずしてしまう。
「これで終わりだ!高坂!」
続けて第二劇目放つ。昌信は一瞬だけ刀身を受け止めそのまま前転し逃げる。
「ちっ!、逃げ足の速い奴め」
義信は、それ以上深追いをしようとは思わなかったようだ。厳密には出来なかったのが正しい、既に一撃を加える為近づいてきている人物がいたからだ。
「私を、ほっとくとは、かなりの自信だね!」
もはや、いつ移動したのかわからないが目の前で槍を回す昌景がいたのだ。いつのまにか、槍は朱槍になっていて槍先には炎を纏っている。
「焼き尽くせ!炎槍甲斐!!」
周りに聞こえるほどの声を上げながら、昌景は義信に一撃をくわえる。
「くそ、間に合わない!」
反応はできたのだが、完全にかわす事ができずに、咄嗟に横に体を捻るが、少し間に合わなかったようである。鎧を溶かしながら、横腹の肉と骨を炙られる。
「むぅぅ!!」
かつてない痛みを受けながら、少しだけよろめきながら義信はバックステップで距離をとる。
「逃すか!」
さっきまで逃げていなくなっていた、昌信が急に現れたのだ。
「いつのまに!?」
驚く義信のことは知らずに、昌信は後ろから斬りつける。
「動かざること」
唐突に、義信はボソッ告げる。
パキンっと軽い音共に昌信の刀は砕け散る。どうやら一瞬のうちに体を固くしたのだろう。
「どうやら!、運はこちらにあったようだ!!このままくたばれ!!」
昌景と同じではなく、刀がみるみる炎でできた大剣に形を変えてしまう。
「侵略する事火の如く!」
言葉と共に炎を勢いが増す、喰らえば一瞬のうちに燃え尽きてしまうであろう一撃が昌信を襲う。
そのはずだった。
トンっと、軽く背中をつかれたような感覚がしたのを義信は感じる。
すぐにそれが後ろから刺された事に気づくのに数秒かかる。
「なっ!?、馬鹿なお前……」
後ろにいる人物に驚きを隠せないでいた。無理もない、さっきまでボロボロになるまでやられていた俺がやっているのだから。
「兄上……貴方だけに教えます、俺のスキルを」
「ス、スキルだとぉ」
激痛のあまり、声が掠れ気味になる義信に対して俺は静かに答える。
「強過ぎたる大将、このスキル、攻勢に出れば出る程ステータスが上がるのと、もう一つありましてね」
刺し貫いた、刀に力を入れる。
「それは、パーティーメンバーが攻勢出た分のパラメータが上昇した分を俺に反映できるとするとどのくらいのレベルになるかわかりますか?」
「つまり、お前のスキル発動でパラメータガプラス一補正された奴と同じ補正値がお前のパラメータに加算されるそれは人数が増えると加算されるパラメータも変わってくる」
「そうだ、逆に劣勢になると、マイナスになりこちらが不利になる厄介なスキルなんです。まぁここぞと言う時に使えば瞬間的な火力が上がるって寸法だよ。だからあなたを後ろから刺すことができた」
強過ぎたる大将、それは味方の能力と自身の能力を上げるスキル、基本は全パラメータを一ずつ上げる事になるバフスキルだが、スキル範囲の味方全員に発動できる。パラメータが上がった分全員分のプラス分を自分にバフできる。
なので、自分を含めず、味方三十九人分、つまりプラス三十九が全パラメータに反映されている事になる。少なからず条件付きだが、俺は英雄達と同じ強さを得ることができる。
「ゴフ!、まったく……お前には…驚かされてしまうよ。だが」
義信は、後ろから、刀を掴み引っこ抜こうとする。
「ッ!?兄上!、そんなことをしたら!」
「ウグォォォォォ!!」
叫び声と共に無理矢理刀を引き抜く、大量の血が地面にぶちまけられ、大きな血の水溜まりができてしまう。
「まだ、わたしにはな!魔王様にもらった力がある。これでお前達を皆殺しにしてやる!!」
刀を構え、何かしらの呪文を唱えようとした時、誰かがそれを遮る。
「誰だ!?、あれは?」
急に現れた人物に、俺はわからなかったが、赤い軍装に身につけている老年の武者がそこにいた。
「まさか、あなたまでこの世界にいるとは、虎昌殿、やはり義信様を思ってか」
昌信は、どこか懐かしくも複雑な視線を彼ら主従におくる。
「久しいな、昌信見ないうちに若返ったな」
それだけ言うと、すぐに義信に視線を向け刀を納めさせる。
「若、此度の戦は諏訪様の勝ちではございますどうかお下がりください。兵達も大半引かせました、それにある程度の目的は成功しております。次の戦では我々の勝ちが見えてくるでしょう」
「うむ、だが……そうだな世話を掛けた虎昌」
どうやら、二人の間で話は決まったらしく、撤退するらしい、こちらとしては助かるのだが、あいつはまだ何かを隠しもっているのが気になる。
「勝頼よ!、命拾いにしたな!今度あった時は貴様との決着をつける!それまで待っておれ!」
たからかに宣言した瞬間二人はヒカリに包まれいつのまにかいなくなってしまう。どうやら転移魔法を使ったのだろう。
「なんとか、勝つことはできたか」
ふと、振り返ると生き残った仲間達が集まっている、俺はそれに答えるように拳を掲げ勝鬨を上げた。
帝国の歴史上初の劣勢から街を防衛したとして冒険者勝頼の名は帝国中に知れわたることになる。
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