第16話かつての若虎
おそらく今回、攻めてきた指揮官もとい大将だろうと俺は思った。三度、刀を振るっても美しく舞う鳥のように鮮やかにかわされその度に痛烈な一撃を受けてしまう有様だ。防御のバフをかけてもらっていなかったら、もう肋骨あたりは折れていても仕方なかった。
「(流石に、これは少し…)」
明らかに、相手は戦闘慣れしているようだ。こちらの一撃をいなし即座に反撃をする。多分話に聞いていた上級スキルとかを使っているのだろう。
一方こっちはこの世界初の初陣でしかも戦い慣れしていない実力差は歴然なのだが。
「お前、その旗を使っているのは武田のゆかりある者なのか?」
「………」
仮面の中からは表情は読めないが、少しだけ動きが止まった。
「そぅら!!」
大きく踏み込み、刀を下段に構えて一気に斬りあげる形で振るう。俺が唯一持っているスキル筋力増強を上乗せしての一撃。
ガギィン!っと鈍い金属音と共にその一撃は難なく受け止められてしまう。すかさず俺は持っている刀から手を離し小太刀を抜き、奴の足に向けて刺しにかかるが、奴の足が首元に飛んでくる。
「ッ!?」
少し顔を掠めてしまうが構わずに一気に突っ込むが組みつかれそのまま投げ飛ばされてしまう。
「くっ、なんてデタラメな…」
態勢を整え、立ち上がる瞬間奴の拳が俺の顔を捉えにくる。咄嗟に顔を守るがそれはフェイクで、俺はみぞおちに鈍い衝撃を受けそのまま吹どばされてしまう。
「ゴホッゴホッ」
激しい呼吸困難になり、必死に酸素を取り込もうとするが出てくるのは咳ばかりで、手間取ってしまうその隙に、奴は眼前にまで迫っていた。
「なんだ?、この程度なのか?あの世で見ていた頃に比べると飛んだ拍子抜けだな」
嘲笑うかのように俺に対してそう告げる魔王軍の大将、さっきまでとは違い少し感情がこもっているように感じるのは気のせいだろう?
「俺を知っているって事はお前は一体何者なんだよ?俺はまったくわからないだが?」
「当然だ、お前とはまったくあっていないのだから四郎よ」
幼名で告げた後、大将は黒い色の日本刀で俺を真っ二つにする為に斬りあげる。
その瞬間を待っていた。
「昌信!」
「!?」
「わかりました!」
何かの合図だとばかりに名を呼んだ後不思議なことが起こる。一瞬のうちに勝頼の前に昌信が現れるしかも居合いの構えをしながらである。
「高坂か!?」
予想だにしない現れ方をした相手に、困惑するが力の乗った一撃を止める事はできない、そのまま振り下ろすだけである。
「遅いですな!」
既に逃げ弾正の効果と、居合のスキルと昌信自身の能力で高められていた為、この時、この一瞬だけ昌信は敵の強さを超える一閃を放つ。
狙いは相手の兜を切り裂き、数十メートル吹どばされる。
確かに手応えがあっだが、やっと俺達は一撃を与える事ができただけだ油断はできない。あらかじめ敵が格上でかつ正体を隠していた場合の策を考えていたがまさかここでうまくいくとは思ってめいなかった。
ゆっくりと土煙の向こうから立ち上がる影が見えてきた。
パラパラと細かいものが落ちていくそれが何であるか、俺達は理解する遂に奴の正体がわかる。
そして、その顔があらわになった瞬間、俺達は驚愕する。昌信は目を逸らしてしまうほどに衝撃的再会であった。
「まさか、貴方様だったとは……」
かつての凛々しさを兼ね備えた、男は威厳に満ちた立ち姿をしている。
その男の名は武田義信かつて武田信玄の嫡男であり、後世の世に伝わる。義信事件で自害して果ててしまった。本来、武田家を継ぐべきだった男。
そして、魔王軍の幹部として俺達の街に攻めにくる、軍の総大将であり、またの名を若虎といわれている。
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