第12話対魔王軍会議

 俺達は、朝食を食べたらすぐにギルドに向かう事にした。朝食中、山県達が妙によそよそしい、態度をとっていたが気にせずにいたがあれは一体何だったんだろう?


  「あっ、やっときてくれましたね!はやく!すでに会議が始まっていますよ」


着くなり、昨日の受付のお姉さんがこっちに勢いよく駆けてきて息絶え絶えにギルドの中に案内してくれる。


 「あなた達程の手練れはこの街にはいないのですからはやく!」


急かしてくるお姉さんに後ろから押されながら俺はギルドの扉を開くとそこには、フル装備をした冒険者と、見慣れない鎧を着た奴らが数人の彼等を中心に座っている。


 「なんだ、あの見慣れない奴らは?」

  

声を落として一番反応はマシそうな信春に尋ねるのだが彼女は驚きはしなかったが、少し顔を赤く染めているようである。



 「彼等はこの街を守る為に帝国からきた、帝国騎士団だ、全員手練れの者ばかりらしいがこの街に指揮官クラスが来るのは珍しいな」


「そうか、ちなみにどのくらい彼等は強いんだ?」


「私達の元リーダーより下なぐらいですね、それでもこの辺にいる上級のモンスターぐらいならすぐに倒せてしまうぐらいには。それに今回は…」


そこで、信春が何かに気づき俺の後ろに視線を集中させる。つられて振り返ると、さっき話していた指揮官クラスの騎士と昌景が握手をかわしているのだ。


 「あの二人は知り合い同士なのか?」


「そうですね、私達も以前に何回か会っていたりしましたけど事務的な会話ぐらいしかしてはいないですね」


どうやら、信春自身も指揮官と昌景のやりとりに少し不思議がっているようだった。


 「では、ここに集まった貴殿等と共に魔王軍に対抗する為の作戦を伝える」


もう既に方針は決まっているのか、指揮官は何やらでかい地図を取り出して何やら説明を始める。


「現在、魔王軍は周辺の砦を破壊しながらこちらに向かっている。その数なんと三万、これは帝国始まって以来の危機ともいえる」


「さ、三万だって!?」


「冗談じゃあない!?」


皆、口々に不安を露わにする。それも仕方ない、この街の元々いる守備兵は五百程らしくそれに冒険者約八十弱、それに加えて騎士団は正規の兵士を連れずにきた為団員百名程で圧倒的に兵力差がありすぎる。


 「帝国からの援軍はこないのかよー!?」


一人の冒険者が皆の声を代弁するように騎士団にとっても痛いところをついてくる。


 「現在、帝国は魔王軍主力との決戦と各地のゲリラ達との相手にそれどころではないのだ。それに帝国一の堅城と誇った、ロンドール城が落ちてしまい戦線は不利になりつつある。すまない」


指揮官は淡々と答えているが、その顔は既に悲壮な覚悟をしているようにも思えた。


 「だが、まだ負けた訳がない。逆転の目処はあるのだよ」


指揮官は、地図のある場所を指で指す。


 「この場所はある程度山や木々に囲まれている場所で、場所事態も狭く大軍が通るのに適していない、だが此処しか我々の街に向かう手立てはないのだよ。さらに隠れる場所はあるから奇襲に打ってつけである。我々は此処で奇襲をし、敵総大将の首をとるしか勝機ないであろう」


 指揮官は皆の反応を見ると、勝機があると言われたから少しは気が楽になっているようだが、根本的な事は解決できていない問題は……。


 「ですが、誰が彼等を引きつける役はするのですか?今回我々の軍は非常に少ないですよ?」


横にいた、信春が即座に指摘する。一番難しい役である、敵の前線を食い止める役を誰がするかでありどのくらい兵力を割くかだ。

 

 引き止める側が多くても少なくても、奇襲ができるまでの時間を伸ばせるかにかかっている。



 「それならこの私と騎士団と守備兵がその役目を果たす。冒険者の方々は半分こちらについてもらい予備兵力として待機してもらう」


指揮官は、胸に手を置き短く答える。悲壮な覚悟は無く、絶対の自信からくる顔つきをしているのが目に見えてわかる。


 「他の四十名程が冒険者の方々に任せます。この奇襲に全てがかかっている為、なるべく高レベルの人に任せたい。この隊の指揮は山県殿のパーティーに任せたいと思いますがよろしいですな?」


鋭い視線が昌景に向けて刺してくる、彼女は短く頷いた。と言うよりうなづいてしまったように俺と信春、昌豊、昌信には見えてしまう。いつもは自信に満ち溢れている彼女から考えられない、しおらしい反応だったからだ。



 「では、これで話し合いは終わりとする、皆武器の手入れをしっかりしておく事!!それから…」


指揮官は、言うべきか少し躊躇しながらも力強く宣言する。


 「皆さん、どうか死なないように」


その言葉を受けた冒険者達は無言で全員その場で腕を突き上げる。それをみた指揮官は深々と頭を下げていた。


 あとで、信春から聞いたらあの指揮官は、女性で歳は信春より少し下らしい。あの若さで荒くれ者の冒険者に対して緊張せずに作戦の指示まで出すとはこの世界の女性も強い事を改めて実感する。



 だが、それよりもこの異世界にきてまさかの戦をするとは思いもしなかった。早速の異世界での初陣は一般兵クラスからとは新鮮な事だと思っていたのだが……。



 「あっ、勝頼さんは昌景の副将としていてください、まぁ実際は勝頼さんがリーダーなんですから指揮は任せますよ」


「昌信……」


 助けを求めるように視線を向けるが昌信はこちらを見向きもしなかった。完全に見捨てる気でいるようだった。


 「あ、あとこーちゃんは、参謀役で私と行動するからね。一人だけサボれるような事はできないよ」



昌豊の一言でその場で崩れてしまう昌信、どうやら名前の呼ばれ方に甚大なダメージを受けたらしいまぁ、仕方ない精神年齢は爺さんのままだからな。


少し、グダグダ感はあったが俺達は奇襲部隊としての準備にとりかかり始める。そこには不安な顔をしている奴はいなかった、一人をのぞいては。



 

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