第10話風林火山として……

 ひょんなことから、このパーティーを率いる事になってしまった。理由はこのチームの要でたる山県昌景の扱いを任されてしまった事によるものだ。


 「結局、あのあと一通りの話し合いはしたのだけどな……」


あのあと、報酬を受け取って帰ってきた三人はびっくりしていたのを思い出す。昌信にしては、パーティー名を聞いた途端、不安そうに俺を見ていた。


 彼にとっても、今までの俺の状況と生い立ちを知っているからなのか、そして長篠の敗戦の件もあるだろう。どうやら俺が一人で頑張りすぎないか危惧しているのかも知れないと俺はそう判断した。


 一方、後の二人についてだが、まず昌豊は概ね納得しているようであった。自分達では難しいというよりできないと言った方が正しいのだろう。しっかりしている信春が入って間もない俺に相談しているのだから、明らかにタイミングを無くしまい、ずるずるとこの関係が続いてしまっているのだろう。


 もう一度昌豊を見ると、少しだけ表情が柔らかくなったように思えた。彼女にしても昌景のことは大事な親友なのだろう、だがそれ故に言い出せない事もある。そういうことなのだろう、大切なあまり傷つけたくない。とこの数日の間だが少しだけこの三人の関係性がわかったような気がした。


 俺がパーティーの代表になった原因である昌景の反応は。


 「……うっ……ん」


反対するわけも無く、短いだが少し躊躇いがあるような答えだった。


 信春達も反対すると思っていたのか、昌景の反応に多少困惑しているようだったが。


 「よ、よーし!それでは!!それでは新生風林火山と新リーダーを記念してカンパーイ!!」


ガラにでもない事をする信春に昌豊も昌景も思わず笑い、その場はなんとか乗り切ることができた。



 「だが、風林火山この名をまた口にする事になるとは思ってもいなかったな」


武田の軍旗としてあまりにも有名である、侵略すること火の如くなど孫子の兵法からとったものであるのだが俺が当主の時はあまり掲げていなかった覚えがある。


 理由は簡単だ。あの時の武田はまだ信玄公という彼らにとっての神に引っ張られていたからだ。同時に親父は俺を正式な跡取りとして認めずにこの世を去ってしまった。

 

 その為に俺は武田家の当主として選ばれたが、これは消去法に等しかった。それどころか、俺は当主代役で息子が正式の跡取りだという輩までいた始末。あの頃の俺の気持ちがわかる奴など当時はいなかった。


 だから、必死に戦場を駆け回り実績が欲しかった。そしたら俺は認めてもらえると心の底から願ったがそうはならず、認めてほしかった奴らはあの敗戦でほとんど死んでしまった。


 「これは、チャンスなのかも知れない」


あらためて鏡というもので自分の姿を確認してみる。長篠の敗戦でのボロボロの鎧もある程度直してもらい、だいぶましにはなっただろう。


 精神的には厳しいが、いつまでも立ち止まっているわけにもいかない。俺は新しくできた、はじめての居場所を守る為に全力をささげると決めたのだから。


 「まぁ、やるからには徹底的だがな」


珍しく、独り言が溢れてしまうのを気にしながら部屋を出ると、慌てて走る昌信に声をかける。


 「お館様!?」


俺を見るなり吸い込まれるように近づき。


 「その慌てぶり一体何があったんだ」


問いに答えるのを少し躊躇ってから昌信は短く告げる。


 「魔王軍の幹部が攻めてきました。さらに中には旗印の中に風林火山のもじが」


俺は、ただ昌信の報告に対して何も言えずその場に立ち尽くしてしまう。




 

 

 

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