第9話かつての名を継ぐ

 結局この後、生まれたままの姿の昌景に上着をかけて俺達はあまり人通りが少ない場所を通り、宿屋まで帰還した。


 着くと同時に昌景は上着を脱ぎ捨て全力で自室に吸い込まれるように消えていった。


 あれは暫くはでてこないだろう何せあんだけ真っ赤になるなんてな思いもしなかった。全身から火が出るぐらいの真っ赤であった。


  宿屋に帰る途中、昌豊と昌信はクエストの報酬を換金する為に冒険者ギルドに向かってから宿屋にくるようだ。


 現在、宿屋にいるのは傷心な昌景と年長の信春と俺の三人だけしかいない。


 「勝頼殿は、どう思われていますか?」


 「どうってなにが?」


 誰もいない事を確認してから信春が顔を近づけてくる。いきなりすぎる距離の詰め方に俺は顔を赤らめる。


 「(あまり、その名前で勝頼殿って呼ばれるとむずかゆいなぁ……)」


 ふと、武田四天王宿老の顔が浮かんでしまう。同姓同名でも、彼女は彼女であると割り切らなければならない。わかっているつもりでもどうしても慣れないものである。


 「我々のパーティーについての問題ですよ」


そんな複雑な思いをしている俺の事に気づかずに元凶である本人はこれからの事について懸念しているようなのだ。


 「カゲちゃん、もとい昌景殿のおかげで私達は今までやってこれたんです。あの強さをみてくれたら分かると思いますが」


「確かに、あの一人であの強さは異常なのかもしれないな」


実際の所、俺自身この世界にきてから実戦はしたことが無い。その前に実戦する前に今回戦闘が終わっていたわけで……。


 「はい、それはとてもありがたい事なんですけどあの子、今回も勝手に出ていって戦う程の戦闘狂なんですよ。そのおかげで私達はほとんど戦闘できてないのですよ」


どうやら、彼女は自分達の経験がない事に対して憂慮しているようだ。


 「それにせっかくパーティーを組んでいるんですから、皆で連携するなど、チームプレイみたいなのもやりたいんですよ」


「確かに、そんな感じではなんの為に組んだパーティーなのかわからなくなるな」


「おかげで、私達はレベルが上がらずに昌景殿ばかりレベルが上がって私達はまったく上がらないのは不幸だと思います。それにカゲちゃんの力になりたいんです」


彼女の悩みは分からなくもない、実際俺も冒険者カードをみて上がってないのだ。


 本来なら、あんな化け物をたおしたのならレベル上がっていてもおかしくないハズなのにな。


 「カゲちゃんあまりにも勝手に行動するから、私達も苦労するんですよ」


実戦経験がない兵士がいるのはあまりにも厳し過ぎるだろうと思う。それが絶対に負けていけない戦であるならなおさらだ。


 「なかなか言い出せずに、ここまでズルズルきてしまってね。いつのまにかあの子、レベル90とかなっていてね」


 「そいつは、てことはあの子がまさか……」


薄々わかっていたのだが、この冒険者ギルドでの彼女に対する扱いに違和感を覚えていたからだ。ほとんどの奴らが彼女に対して憧憬のまなざしを向けている事に。


 「そうなの、この冒険者ギルドでレベル90はあの子だけなの。普通なら勇者として魔王を倒しに行くべきなんだけどね」


この世界でレベル90は、勇者として扱われる。仮に勇者にならなくても帝国の将軍として扱われる程の厚遇を受けるのだが。


 「でも、今日見たでしょ、あの子の戦い方。あんな事ばかりしていたら、いずれ周りに誰もいなくなるし、仮にあの子が苦戦する敵が現れた場合誰が一緒に戦ってくれるのかが心配で」


 「確かに、あの戦い方は……」


少し違うかも知れないが少し俺に似ているところがある。あの一人でやっていこうという感じはかつての長篠での俺に似ている気がする。


 「なので勝頼さんにはあの子を宥めてくれる役割をやってほしいんです。お願いできますか?」



「あぁ、わかった。あいつの事は少し気になってはいたからな」


 俺の言葉に、信春は胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべる。


 「よかった、あともうひとつお願いしてもらいたいことがあるんですけど」


「うん?なんだ他に言いたい事があるのか?」


「はい!、私達のパーティーの長になってほしいのです!この風林火山に!」


「えっ」


いきなり過ぎる急展開に俺は思考を止めてしまう。ひょんな事に俺はこの娘達のパーティーの長になる事になったパーティー名は風林火山かつては俺達の軍旗だった。だがこの名を継ぐ事の責任は負わねばならないと俺は思う。武田当主して、俺自身の再起の為に。








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