グレープ×グレープ

白野椿己

グレープ×グレープ

私は一人で行動することが多い。

別にいじめられたり孤立している訳ではなく、話しかけられれば誰とでも話せるし、一緒にお昼ご飯を食べる友達も居る。


ただ、当り前のように複数で行動するものだという考え方が自分には合わないだけのことだ。

集団行動を良しとする学校という世界では、はみ出すと不都合なのでそれなりに合わせてはいるけれど。

もちろん、これから社会に出て生活していくうえで、集団行動は必須能力だと思う。

協調性や共感性とかもちゃんと養わないといけない。本当の意味で1人で生きていくことは、不可能なのだから。


それでも、好みではないものをお揃いで持つのは苦手だ。

行く必要もないのに一緒にトイレに行く風習も、理解し難い。

誰かに合わせて行動するのも、自分の行動を真似されるのも、私はちょっとだけ不気味に思っている。

だから私はそれにほんの少し抗うように、できそうな時だけ1人で動くことにしている。



学校からの帰り道、隣町の小さな喫茶店に入った。店内を見回すといつもの窓際の席に他校の女子生徒が座っている。

明るい茶髪が夕日に照らされキラキラと揺れていた。彼女がゆっくりと髪をかき上げた。そしてスマホから外した視線をこちらに向けると、小さく手をあげて手招きをした。

私にとって一番自然体で居られる存在、親友というには照れ臭いが6年ほど仲良くしている友達だ。

彼女の前に座って鞄を下ろすと、なんとなく体の緊張がほぐれた気がした。


今どきの女子高生には似つかわしい哀愁溢れる喫茶店だけれど、私も彼女もここがお気に入りの場所だった。

彼女のスクールバックには、らしくもなくピンクでふわふわなウサギのマスコットが付けられていた。じっと見つめる視線に気付いたのか、彼女はマスコットを小突きながら笑った。


「アンタが誰かとお揃いで持ってるそのスマホリングと一緒」

「まぁ支障はないもんね」

「同じものが増えれば絆が深まるなんてこと、別に無いのに。意味わかんねー」

「はみ出してないって証拠が欲しいんだよ」


彼女がいつも通り100%果汁のグレープフルーツジュースを口に含むと、酸味と甘さが口の中に広がったことに満足したのか、柔らかい笑みを浮かべた。

それからすぐに悪戯っぽい表情に変わり、学生も大変だよなと鼻で笑った。

私は運ばれてきたミルクティーをかき混ぜてからフルーツサンドに手を伸ばす。

今日のフルーツサンドにはぎっしりとブドウが挟まれている。

複数の実から広がるジューシーな甘さが舌いっぱいに広がっていった。


『ブドウは基本的に房だから、英単語は複数形のGrapesだよ』


ふと、小学生の時イングリッシュティーチャーに言われたことを思い出した。複数で居るのが普通だなんて、私たちのことを言われているみたいで寂しい。


今どきの高校生は、A組の子は、女子は、あのグループは。周りはいつだって枠組みで私のことを見ている、個性が大事なんてホラを吹きながら。

一人一人が大事と言うのに私の固有名詞は複数形なんだ、ブドウみたいに。


「どしたん?」

「集団行動しなきゃいけない私たちとブドウって一緒だなと思っただけ」

「ハッシュタグ、私のポエムを聞いて、的な?」


そしてお互いの顔を見つめ合い、ぶはっと同時に吹き出した。私と彼女は趣味や好みが合わないしお揃いだって何一つない。

それでもこうやってくだらないことで笑える、そういう関係をずっと続けていけたらいいな。

一粒と一粒みたいに。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グレープ×グレープ 白野椿己 @Tsubaki_kuran0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ