フカヒレ缶詰め

@kota-tunagi

第1話

友達がかんづめになった。

美味しいところだけを食べていた君が、美味しいところだけを詰められて。

僕はただ、小さくなった友達の前でぽろぽろ泣いている。

残飯あさりの子犬

入り江に獲物を追い込み、貪り食う鮫

腐乱臭に誘われて迷い込んだ先、君は初め僕を一瞥して、食事を続けた。

僕は体が震えて動けなかった。

怖かった、けど見惚れてた。

食事が終わった君は「よう」と僕に声をかけた。

僕はまだ、何もできない。

君はつまらなそうに鼻を鳴らしたね。それから残飯を、投げて寄越したんだ。

「食えよ」

君の二度目の声で僕はやっと動き出した。

おそるおそる、それに口をつける。

広がる血肉の香り、久しぶりのごちそう。

がつがつと、僕は夢中になってそれを貪った。

お腹いっぱいになった頃、顔を上げると君の姿はもうなかった。

それからは、入り江に通うようになった。

君が残したところを、僕が食べる。

そんなことを繰り返した。

「どうして全部食べないの?」

ある日僕は訊ねた。

「美味しいところしか食べたくないからさ」

内臓をごくんと飲み込んで君は言う。

「お前こそ、どうしてそんな残り物を食べるんだ?」

息が、つまる。

「…なんでもいいよ、食べれるんだったら」

君は不思議そうにはしてたけど、それ以上はもう何も言わなかった。

ニンゲンたちが騒ぎ始めたのは、そんな会話をしてまもない頃だった。

「入り江に鮫がいる」

「おお、恐ろしい早く捕まえなくては」

「殺せ、さもなくば殺される」

「そうだ殺そう。つかまえて、殺そう。」

君があんなまずそうな奴ら、食べるはずないのにね。

とにかくそれからは早かった。

君の匂いをたどった先には、美味しい部分しかなくなった君がいた。

そっと君を咥えて、逃げた。

行き先なんてなくて、気づけばいつもの入り江に逃げ込んでいた。

それから僕はずうっと泣いている。

口も、牙も、脳みそも無くなった君は、何も喋らない。当然だ、君は、美味しいヒレだけしか残っていない。

そんな君を、朝も夜も昼も抱き締めて。抱き締めて、一体何日たっただろう。


おなかが すいた


きみを たべたい


美味しいところだけを食べてきた君の美味しいところは、きっとどうしようもなく美味しくて、美味しくて美味しいだろう。


きみと いっしょに いたい


きみを たべたく ない


たべたく ない


たべたい 

たべたい 

たべたくない 

たべたい たべない 

たべたい たべれない たべたい 

たべたい たべたら たべたくない 

たべたくない たべたい たべたい 

たべない たべたい たべたくない 

たべたい たべたべたい たべたい 

たべたくない たべたい たべない 

たべたい たべれない たべたい たべたい 

たべたら たべたくない たべたい

たべたい たべたい たべたくない たべたい たべない たべたい たべれない たべたい たべたい たべたら たべたくない い たべたい たべたい たべたい 

たべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたい

いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

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いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

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いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた

いたべたいたべたいたべたいたべたいたべた


きみ を たべたい


ふっと体の力が抜けた。

君はその隙に転がってった。

あっという間に君が遠くなっていく。

慌てておいかける。

絡まる足を必死に前に出して。

ぽちゃんと沈んだ君の跡を追う。

君を抱えて冷たい底に沈んでく

ごめん

もうたべたいなんて思わない。

僕は

君と ずっと 

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