1-1
「信じ難い話だけれど、私は過去に戻ってきたの……?」
使用人を下がらせ、自室でしばらく現状の整理をしたルビィは寝台に寝転がりながらに呆然と言葉を漏らす。
何が起きたのかさえルビィは理解できていなかったが、少なくとも確かなのはルビィの首が確かに今も繋がっているということだった。
「実家にいるということは、結婚前のはず……。それとも、アレは私の長い夢だったの?」
侯爵に騙されて処刑までされたという記憶。それが夢だったのではないかとさえ思いながら、ルビィは何となく寝台から降りて机まで向かう。
その最中に鏡の前に通りかかり、ルビィは自分の姿を見つめた。
「まだ少し幼い体だけど、この赤い長髪も赤の瞳も間違いなく私ね」
もう数年前の記憶となった自分の姿と見比べながらルビィは小さく頷く。
それから机に座ったルビィは、残っている記憶をできる限り手帳に書き記した。
「この記憶がもし夢なら……それでもいいわ。でももし、アレが未来だというのなら」
最後に見た侯爵の顔や落ちてくる刃を思い出して一度小さく身震いしたルビィは手を強く握り締めた。
「次こそは、正しい道を選んでみせるわ」
そう強く決意を固めて、ひとまずその日ルビィは眠りにつくことにした。
「おや、起きたかいルビィ」
陽の光が柔らかく差しこむ朝。今はもう懐かしいとさえ思うのんびりとした声がルビィを微睡みから引き起こした。
「お父様?」
寝台から身体を起こしてルビィは上手く回らない口でその声の主を呼ぶ。すると、小さな笑い声がルビィの耳に返ってきた。
「あぁ、起こして悪いね。けれど実は今日、大切な話があるんだ」
「大切な話ですか……?」
「そうとも。実はルビィと結婚したいと言うお方が現れたんだ。それも、私達に比べて遥かに高貴なお方からね」
父の告げるその言葉を聞いて、ルビィは眠気も全て失って跳ねるように寝台から起き上がった。
「今なんと?」
「おぉ、驚いた。ははっ、ルビィもお年頃なのかな。結婚の話がそんなに気になるかい?」
ルビィの挙動に一瞬驚いたように目を見開いたルビィの父が、その表情を柔らかく変える。
けれどルビィの心中は父の表情とは正反対に、穏やかではなかった。
「もしや、ゲルバタイト侯爵様が私を見初めたと?」
「おやおや、やはり何処かで会っていたのかい? 突然お話が来たものだから驚いたが、それなら話は早いね」
嬉しそうに笑う父の表情を見つめながら、ルビィは過呼吸に陥りそうになる息を必死に抑えて平静を装う。
やはり夢ではなかったのだ。そう確信を得ると共に、このまま侯爵と会っては前回の二の舞を演じることになるとルビィは思考を巡らせた。
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