第7話 深夜の異例の生放送

番組との中継がつながり、柊木さんは現在の状況をアドリブで伝える。流石、二年目とは思えないスピーディーなリポートに俺はついうんうんとうなずいてしまう。


そうして、番組との生中継から二分ほどたった時、


キィィィィンッ


「あ、」


話に聞いていた中型の飛行機が滑走路に迫ってくる。


「ご覧ください!左側から迫ってくるあの飛行機が、緊急着陸を要請したアメリカに五機しかない『FCP』社の飛行機です!」


柊木さんが飛行機について、得られた情報と共に、スタジオにいる人と視聴者に伝える。

間もなくして飛行機が着陸寸前まで来た。

そして、


「飛行機が!今!着陸しました!どうやら墜落という最悪の事態は免れたようです!」


少しホッとする。何が原因で緊急着陸することになったかの情報はないものの、見たところ飛行機本体のトラブルではなさそうだ。


「あれ、」


俺は滑走路を見てあることに気づいた。飛行機に駆け足で迫る真っ黒な人たち、何度か警察署に撮影に行って見たことのある、特殊部隊の人たちだった。


「都田さん、あれ撮ってください」


俺が小声で都田さんに伝え、柊木さんにも特殊部隊のことを伝える。


「あ、皆さん、飛行機の手前をご覧ください!黒い装備を着た特殊部隊と思われる警察官たちが、飛行機への突入を図っているようです…!」


柊木さんが中継をしている中、飛行機の後方入り口にタラップ車がつけられ、特殊部隊がぞろぞろと登っていく。そして、


「今!飛行機の前方入り口から滑り台が出て、人が二人降りてきました!白衣を着た二人が飛行機から降りてきました!」


どうやら機内で何かあったようだ。特殊部隊が出てくるということはハイジャックだろうか。


特殊部隊は人が出て行ったのを確認して一斉に突入していった。

柊木さんはそれを逐一伝えていく。


前方では乗員らしき人たちが飛び出し、そのあと人が一人転げ落ちる。その人に警察官が駆け寄っていく。


カメラは、前方後方どちらも映るように程よい位置に合わせている。

俺は中継が終わるまで待とうと、柊木さんのリポートをぼっーと見た後、まだ暗い空を見上げた時だった。


「えっ?!」


都田さんが声を上げ、カメラをいじりだす。


「柊木さん!滑り台の手前見て!」


そして都田さんが柊木さんに、そこを見るように言う。

俺も気になりカメラに付属する画面から映像を見ると。


「えっ」


「ええっ!」


俺と柊さんは、同じものを見て同時に驚いた。

先ほど転げ落ちた人が、警官に掴みかかり襲っているのだ。よくは見えないが、転げ落ちた人はまるでヴァンパイアのように首元に嚙みついているようだ。


「え、あ、な、何が起こったのでしょうか!警察官が飛行機から出てきた人に襲われているようです!」


そして、


「なっ…!ああっ、た、タラップ車から特殊部隊が次々と転げ落ちていきます!」


「なにが…」


突然警察官が次々と襲われだした。いったい何が起こっているというのだ。


「――こちらは管制塔です!現在滑走路上で複数の暴力事件が発生しています!外にいるお客様、職員は速やかにターミナル内に避難してください!」


展望台に取り付けられたスピーカーから屋内に避難するよう指示が出る。


「…どうやら避難指示の放送が流れているみたいですが大丈夫ですか…」


スタジオにいる内海さんが心配をしている。


「はい、我々は大丈夫ですが、現在滑走路は大変な騒ぎになっているようです…。」


カメラは飛行機周辺を映したまま、柊木さんが内海さんに返答する。


「あの地面に広がってるの…血か…」


都田さんがボソッとつぶやく。ああ、きっと本当に嚙まれて血が…


「一回カメラズームアウトしましょう…。」


俺は、あまりそういうものが映らないように都田さんに指示する。都田さんはカメラをズームアウトさせ始めた。その時


パァンッ


「?!」


「っ…!」


飛行機の方から銃声のような音が鳴る。都田さんは驚いて腕が動き、カメラがブレる。

「発砲した…?」


俺は訳が分からず、ただつぶやく。


パァンッ


そしてもう一発、同じ音が聞こえる。これは…


都田さんは慌てて音のした方にカメラを向ける。そこには首を抑えた警官が、白衣を着た人に銃を向けて打っていた。


「は、発砲です!警察と思わしき人が発砲しました!」


柊木さんは驚きのあまり声が大きくなる。

柊木さんの言葉と銃声でさらに騒がしくなる展望台。


カメラ越しの飛行機周辺の映像では、警官や白衣の人の争いで混沌と化していた。

そして、


「あれ……こっちに来てないか…?」


都田さんが呆然とする。

白衣を着た人や警官が、腕をだらりとした状態でゆっくりこちらに迫ってきていた。


普通に人が歩いてきているようにも見えるが、あの惨状を見てしまった以上、あの場にいた人たちが敵であれ味方であれ、危ない存在であることはすぐに分かった。


「…大丈夫ですか?なにかありましたか…?」


内海さんが聞いてくる。

これはどこかに立てこもった方が得策であろう。今外に出れば襲われる可能性は高い。それに俺たちが出ていくのを見て、ほかの人たちまで外に出てしまったら大変なことになる。


「はい、どうやら飛行機に乗っていた人による暴動が、ターミナルまで広がる恐れがあるそうです。視聴者の皆さん。ターミナルにいる人はターミナルから外に出ないようにしてください、また空港近くにいる方も速やかに離れてください!」


柊木さんが、『KNN』の三人の考えの中で一致した、今一番伝えねばならぬことを伝える。


とにかくこの中継で一般人に被害が出ないようにするのだ。



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