第6話 緊急時に現れる報道陣

「うるせぇ!」


パァンッ


飯田は自分を止めに入った黒川の腕を撃ちぬいた。


「ぐあああっ…!い、いでええ…く、そが…!」


撃たれた黒川はしりもちをついて、腕を抑える。


「こらっ!」


「やめんかお前っ!」


飯田は駆け付けた警官に取り押さえられた。


「うわああああ!やめっ!嚙まれるっ!嚙まれるうううう!」


もう収拾がつかなかった。

敵も味方もわからなくなり、同士討ちになったり、襲って来る警官に対して抵抗できずそのまま倒されたり、人を嚙む人がどんどんと増えていた。


「…あ、あの女!」


しまった、目の前の光景に足が止まってしまっていた。急いであの女を追いかけようとするが。


「…ちぃっ!」


もうどこにもいなかった。


「くそっ…、どこに行きやがったああっ!」


さっきの口ぶり的にあの女はこの惨劇を生んだ理由を知っているだろう。こんなことがあってたまるか、絶対に見つけてやる。あの女にすべて説明してもらう!


「おいっ!」


俺は近くにいた警官の胸ぐらをつかむ。


「うわっ、な、ど、どうしたんですか根岸警部…!」


「白髪の女はどこに行った?」


その警官にあの女の居場所を聞いたが


「え?い、いや、わかんないですよ…。」


こいつ…


「だからお前はいつも使えねえんだよっ!この役立たずが!」


「ぐあっ…!」


俺は無能警官を突き飛ばす。


とにかく女が歩いて行ったのは空港のターミナルだ。


「ね、根岸さん!助けてください!」


俺の名前を呼ぶ伊佐賀の声が聞こえたが、助けている暇などない。一刻も早く原因をつぶさなければ。


「あがっ、が、た…たすけっ…!がっ…あああああっ…」


ぐちゃぐちゃという音とともにうめく伊佐賀の声。

ようやく馬鹿みたいに飛行機の話をする奴が消えた。これで明日からは静かに業務に全うできる。


でも、今はもっと安泰でいたい。


「そうだ…」


俺はホルダーから回転式小銃かいてんしきこじゅうを取り出す。


警察で配備されている公式拳銃、ニューナンブM60である。


拳銃の後ろについているハンマーを下ろして、いつでも打てる状態にする。


「…はははっ!待ってろクソアマ!俺がこの手で捕まえてやる!」


俺はターミナルへ走り出した。


十月〇日土曜日 午前三時○○分頃―――――――――大阪府豊中市 大阪国際空港


近畿日本ニュース、通称『KNN』報道ステーションの、柊木梓美ひいらぎあずみリポーター、都田つだ昭長あきながカメラマン、そして俺!ディレクターの諸上海斗もろがみかいとは、大阪国際空港に見たことのない飛行機が緊急着陸するという情報を、公式が発表する前に手に入れ、局から飛び出してきた!


この情報が俺たち以外に流れていなければ、俺たちが一番最初に報道できる。


ふふふっ、視聴率はどれくらい稼げるだろうな…。


…でも、深夜三時にニュースを見る人はあまりいないだろうが…。トホホ


まあ、公式のSNSにいち早く流せれば十分だ。

早ければ早いほど視聴回数は上がる…。


だから、


「すんません!どいてください!」


人が多いっ!


俺たちは、ターミナルの出入り口付近にごったがえした野次馬を押しのけて、一番写りのよさそうなターミナル屋上を目指す。


「痛っ!」


移動している最中、人混みに押されて柊木さんが転んだ。


そして、それを見た金髪の男性が、柊木さんに近づいてきた。


「姉ちゃん大丈夫か…って、梓美ちゃんやん!なんでここにおるん!」


男性は柊木さんを引っ張て立ち上がらせると、柊木さんの正体に気づく。


さっすが、人気女性リポーターナンバーワンの柊木さんだ。


「あはは、ありがとうございます。ここには用があってリポートに来てるんですよ。」


柊木さんはスカートについたゴミをを手で払い、金髪の男性に感謝を伝えた。


「ああ、なんかあったみたいやしなあ。ったく、おかげで俺が乗る予定やった飛行機も止まってもうてるみたいやし。」


金髪の男性はぼりぼりぼりと頭をかく。


「おーい!レン!行くぞ!」


「あ、すんません。連れが呼んでるんで行きますわ。有名人に会えてよかったっす。」


金髪の男性は少し奥の方にいた人に呼ばれて、こちらに軽く手を振り小走りに去って行った。


「いい人でしたね。」


「ええ、見てていい気分になれます。」


梓美さんの言葉に相槌を打っていると。


「お二人、着陸の瞬間を逃さないように早くいくよ。」


おっと、そうだった。俺たちはいち早く放送しなくては!


都田さんが俺たちを呼ぶ。


「あ、はいっ」


柊木さんが返事をして、俺もうなずき、エレベーターに乗る。

向かうは四階にある展望台!滑走路が見えるように設計されたあそこは、飛行機の着陸をカメラに抑えるには一番もって来いということだ。


「(ピンポーン)四階でございます」


エレベーターのアナウンスが鳴り、ドアが開く。


冷たっ


少し冷たい風が流れてきた。


展望台にはそこそこの数の人がおり、皆、滑走路に釘付けだった。


「お、結構な台数いるなあ。」


俺は緊急車両が複数台止まる滑走路を眺める。そこまで大きくない飛行機と聞いていたが、やはり人命がかかるとなると沢山の人が動くものだ。


俺の傍らでは、身だしなみのチェックとイヤフォンを付けて準備を始める柊木さんと、カメラのセッティングをする都田さん。


俺もあわてて今日の報道内容の紙を見る。


地上波でも一応流すのだが、こんな時間だ。主に映像を流すのは大手動画配信サイト「エンタシー」にある『KNN』公式チャンネルからだ。

だから地上波ほどの堅苦しさはいらないが、正確性はきちんとしなければならない。世界中に間違った情報を流すわけにはいかないのだ。


「カメラセットOKです。」


「リポーター準備できました。」


ほどなくして、二人の準備が終わる。俺も中継の確認をして、スタンバイする。

報道自体は三時から始まっており、生中継という形になる。配信を見られなかった人も、後で公式が出す動画で短い時間で内容を知れるというわけだ。


「まもなく中継です。」


俺の言葉に、都田さんはカメラを覗き込み、柊木さんはマイクを握ってカメラを見つめる。


「…では中継の柊木さん…」


イヤフォンから、スタジオにいる内海うつみキャスターの声が聞こえ、柊木さんも番組からの呼びかけに反応する。


「はい、こちら柊木です!現在私は大阪国際空港に来ています……」


番組との中継がつながり、柊木さんは現在の状況をアドリブで伝え始める。



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