第8話 パニックターミナル
それから数分して、新しい情報が入った時に中継がすぐできるように、遠くに飛行機が見える状態でカメラを放置した。
俺たち三人はすぐに動けるように近くのベンチに座り、情報を待つ。
「はい、お二人さん。」
都田さんが、座って休憩している俺たちのために、自販機から飲み物を買ってきてくれた。
俺はコーヒーで柊木さんは緑茶、都田さんは…
「都田さん、なんですかそれ…?」
都田さんが見慣れないラベルのペットボトルを持っていた。
「ん?『ふりふりくだもの』っていう、ペットボトルを開ける前に振ってから飲むジュース。息子が大好きでねえ、俺も好きになってちょくちょく飲んでるんだけどさ。」
「あ、ああ、そうなんですね。」
随分とマニアックな飲み物なのだろう、この業界にいるのに一度も耳にしたことのない飲み物だ。というかそんなものが自販機に売ってるものなのか。
「まあいいか…」
俺は缶のふたを開け、口を付ける。
パァンッ
その瞬間下から銃声が鳴り、思わずコーヒーを吹き出しそうになる。
「また銃声?!」
柊木さんは驚いてから、すぐにイヤフォンを付けなおしてカメラの前に立つ。
都田さんもカメラの前にスタンバイする。
「えっと、内海キャスター!さきほど下の階で大きな銃声がしました!下で何か起こっているようです!」
柊木さんは、カメラの前でスタジオと中継をつなぎ、内海さんに伝える。
「…どんな状況なのか確認できますか?最善の注意を払ってお伝えしていただけると幸いです…」
内海さんから下の様子が見たいという言葉が。
「…行きましょう。危ないようならすぐに引き返します。」
俺は二人にそう伝え、いつでも動けるように準備する。
間もなくして、都田さんがカメラを担つぎ、柊木さんも動けるようスタンバイする。
「ではいきましょうか…」
柊木さんが階段へいくための扉に向かい、俺たちはそれについていく。エレベーターを使わない理由は、画面に変わり映えがないうえ、もし空いた瞬間目の前に不審人物がいれば危険だからだ。
そのまま俺たちは階段へつながる鉄扉を開けようとした。その時、
バンッ
「きゃっ!」
突然扉が向こう側から開き、柊木さんはそこから出てきた人物にぶつかる。
「どいてくれっ!」
「助けてっ!助けてぇっ!」
そしてぶつかった男性が走り去った後、すぐ後ろから次々と人が飛び出してくる。
「な、なんだこの人の数…」
階段には怯えた顔の人たちがたくさんいた。皆一目散に展望台を目指し、押し合っている。
「早く!早く動いてっ!」
「早くしろっ!撃たれるだろ!」
「う、撃たれる?」
柊木さんが疑問をこぼす。
上に上がってくる人は何かから逃げているようであったが、撃たれるという言葉を聞いて、皆が逃げる理由となったものがなんとなくわかってきた。
「…下に行きましょう。」
俺は二人にそう言い、俺たちは下で起こっている事態を確かめるべく、上ってくる人をかき分けて下へ降りる。
人をかき分けて一分ほどで一階にたどり着く。ターミナルの方がすごく騒がしかった。
バンッ
「うわっ!」
ターミナルに出られる入り口を曲がろうとしたときに、目の前で一人の男性が倒れた。
ビクッ、ビクビクッ…
「だ、大丈夫ですか?」
男性は腕に怪我を負い、体を大きく痙攣させており、あまりにも様子がおかしかった。
ビクッ…
そして男性の痙攣が止まった。
「えっと…」
俺たちがどうしたらいいか分からず、立ち止まっていると。
スッ
男性は何事もなかったかのように立ち上がり、あたりを見回した。
「た、助けてっ!」
そして、階段の方向へ逃げてきた女性を見た瞬間
ガリッ
「ああっ!」
男性は女性の首元に嚙みついた。
「いやあああああっ!痛い痛いっ!」
女性を押し倒し嚙み続ける男性。
「何やってるんですかあなた!」
俺は必死に止めようとした。しかし男性は女性から離れない。力が強い…。
「っ…!やめろって言ってんでしょう!」
俺は無理やり男性を引きはがす。
「があああああっ!」
男性は俺を見て威嚇のようにうなると、すぐに逃げている人を見て、早歩き程度の速さで追いかけ始めた。
「な、なんなんだよ…」
わけがわからない、人が人を嚙むだと?信じがたい状況に疑問をこぼしながら、女性の首元を触る。
「………」
嚙まれた女性は脈が止まってしまっていた。
俺は立ち上がって女性にかける布のようなものを用意しようとターミナルに出た時だった。
「え…」
ターミナルの方を見て、俺は言葉を失った。
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