Divive8「グレイ・アルフォンス」

「そう、噂には聞いていたけど………アンタがグレイ・アルフォンスなのね」


 紫色のワイバーンを目の前に、スラッシュを解除した沙織は、感心する様にしてそちらを見ていた。


「あぁ、丁度こちらに着いたタイミングでこの騒動だ、そのまま出撃しろと……そちらの司令官は随分人使いが荒い」


 紫のワイバーンは文句を垂れながら、マスクを外した。

 そこから紫色の短髪に、青いツリ目の少年の顔が現れた。


「しかし、あのアンバーを使える奴が現れたと気になってみたが、随分無様なやられ様だったな」

「あっ……あんなん仕方ねぇだろ?多勢に無勢で!!」


 呆れた様にこちらを見てくるグレイに、アンバーは文句を言いながら言い返す。


「それよりもアンタ、大丈夫なの?2人の所に行ってあげなくて」

「あっ………そうだ!!」


 アンバーを解除したレッカは、慌てて、その場から走り出していった――――――――――







「あっ、レッカ、無事だったみたいだよ!」

「本当だ……よかったぁ」


 避難区域にて、渚と積姫の元にレッカが合流した。


「わっ……ワリィ、ちょいとトラブって別の方で避難しててな!」


 誤魔化しながら事情を説明する、レッカの元へ走った渚は彼の肩を掴んでそのまま揺らした。


「悪いじゃないよ!心配させないでって何度も言ってるじゃん!!」


 涙ぐむ渚、レッカが危険な目に遭うのはコレで2回目、1度は死にかけたと言っても過言ではなかった状況だった為、彼女の不安はいっぱいで仕方がなかった。


「だっ、だから謝ってるじゃん!それに、あの時はあぁするしかなかったって言うか………」

「私達を守ろうとしてくれたのは嬉しいよ、でも渚ちゃんずっと心配してたんだから、あんま無茶はしないで上げて」


 積姫が優しく論した。

 どこか不安な表情を浮かべる2人渚と積姫を見て、レッカは何が正解だったのか分からなくなっていた………


(本当の事を言える訳ないんだからしょうがないんだよ………)









 2日後の昼時、事態も終息し、レッカはレグルス本部に呼ばれ、司令室に来ていた。

 早々にレッカは静香からデバイスを取りに来なかった事に対して、説教を受けていた。


「今回の件………君も少しは自覚を持って欲しい、奴らはいつ何時に現れるか分からないのだから、常に動ける様になってもらわなくては困る」

「はい……申し訳ありませんでした」


 少し不貞腐れながらもレッカは頭を下げて謝った。


「まぁこれから気を付けてくれればいいさ、君には期待しているんだからな」

「はぁ………」

「ソイツに期待か、この先どうなる事やら」


 司令室に入って来る、紫色のレグルスの隊員服を着た男が1人、グレイ・アルフォンスだ。彼の一言に、レッカは後ろを振り返った。


「やぁ、歓迎するよ、ようこそレグルスへ」

「えぇ、しかし…来て早々あんな仕事は勘弁してほしいものです」


 少し面倒くさそうに答えるグレイ、冗談交じりに静香は笑って言い返す。


「そう言ってくれるな、レッカ、彼がグレイ・アルフォンス、元々ベルシリアン支部にいたが、これから君らと共に戦う仲間であり、先輩だ」

「………」


 初対面の印象故か、レッカは素直によろしくと言えなかった。

 そっぽを向く彼に、静香は言う。


「まぁ、少しキツい事は言うかもしれないが、これから一緒にやっていくんだ、あまり揉める様な事はするなよ?」

「失礼しま~す、あらグレイ、久しぶりね~アンタだったのね、こっちに補充される隊員って」


 そこへミオンと沙織も入って来た。

 ミオンはグレイに対して、親し気に話しかけてきた。


「お前も相変わらずだな。まぁまさか、お前があの新型機を使っているのには驚いたがな」

「いやいや~あっ!欲しいなら譲ろうか?ウィンガー」


 ミオンの会話に、静香はコホンと咳き込みながら、釘を刺す様にこちらを見た。


「ミオン」

「冗談ですってば~」


 冗談………でもない様にも思えなくない。


「なんだか親し気………なのかそうでもないのか」


 ミオンとグレイの会話に、沙織はポカンとした顔をしていた。

 その横でレッカは、未だに納得のいかない表情を浮かべる。


「まぁ、あの2人は同期でな。訓練生時代からの仲なんだ」


 グレイとミオンは同じ時期に訓練生として入隊した同期であった。グレイは常に成績優秀で、同期の中でもトップを収めた優等生、対してミオンはPS操作以外はそれなりの成績を収めていたが、どこかやる気を見せない様だったという。


「彼の実力は折り紙付きだ、たった1年という期間でAとなって最前線で戦っていたんだからな」

「A級ディバイダー?」

「あーアンタにはまだちゃんとそこん所の話してなかったわね」


 ミオンが思い出したかの様にレッカの方を見ていた。


「丁度いいわ、ついでに説明してあげる。アタシ達ディバイダーは軍人の様な階級じゃなくてディバイダーランクっていう制度になっているのよ、E級~S級まであってね、まず訓練生を経て正式にG.D.Oに入ると基本はE級~C級として配属されるの。C級は成績上位を収めた者だけがそのスタート地点に立てるの、んでっ、そこから昇格してB級、A級と上がる訳よ」

「因みに沙織とミオンはC級ディバイダー、そしてグレイがさっきも言った様にA級というわけだ」


 ディバイダーランクの昇格は、多くのゴーレムの撃破、最前線で結果を残すことで、成し遂げられる。その中でもA級にディバイダーに上がる者はごくわずか、グレイはその中の1人という事になる、それもわずか1年でそこまで伸し上がるのは至難の技とも言える。

 そしてその更に上のS級ディバイダーとは………


「んで、俺のランクは?」

「そこなんだが……君はまだ正式にライセンスを発行していなくてね、分かるのはそこからになるだろう」


 レッカの実力であればC級以上は難いと思われる、全ては総本部の判断に委ねるしかない。そこにグレイが鼻で笑う様に言う。


「しかし、こんな奴に務まりますのかね?俺達と違って基礎がなっちゃいない」

「なんだと!?」


 その言葉にレッカはカチンと来たのか、グレイに顔を近づける。


「ハァ……大体お前の戦い方は隙が大きい。ノロマなゴーレムだからまだいいものの、タランチュラ級みたいな小型相手にはどうぞ狙ってくださいって言ってるものだ。所詮、まだ素人って所だな」

「コイツっ………言わしておけば!!」

「よさないか!ここで喧嘩をするというのなら、私にも考えがあるんだぞ?」


 今にも取っ組み合いになりそうなレッカとグレイを見て、静香はデスクを強く叩き、立ち上がった。それを見たレッカは、グレイから3歩後ろに下がった。


「まぁ……彼が未熟なのは認める、だが、アンバーを扱える貴重な戦力である事は確か。君もあまり挑発的態度を取るのはよしてやれ」

「俺は事実を言ったまでです、ディバイダーは命を懸けて戦う使命がある、コイツにはその責任が足りてない」

「ぐぅ………」


 手が出そうな勢いだがぐっと堪えている、そんなレッカをミオンが肩を叩いて落ち着かせる。


「はいはい落ち着いて、グレイはちょっと棘のある事を言っちゃうのよ、それで何人もカチンと来てるんだから、ね?」

「まっ、アンタがまだまだなのは確かだけどね」


 沙織が冷静にツッコミを入れた。


「それで、君に配備する予定の機体の話だが………残念ながらゴーレムの戦闘で失ったも当然でね、君には今の機体で活動してもらう事になる」

「いえ、構いません、案外使いやすくて気に入っているので」


 グレイには当初、レグルスに配備される予定だった新型機、以前の戦闘でゴーレムによって破壊されたリベリオンの内の1機であった。現在グレイの使用しているワイバーン・カスタムは一般機であるワイバーンの3倍の出力、機動力を誇っており、アンバーら新型機に引けを取らないスペックを誇っている。


「とにかく、これから共に戦っていくんだ、あまり揉め事は起こさないでくれよ!」

「わっ………わっかりました」


 嫌々ながらもハイと答えるしかない、不服な思いを抱いたままレッカは司令室を出た。


「どう?この後レグルスを案内するけど」


 ミオンがグレイにレグルスの施設を案内する事を提案するが、グレイの返答は………


「結構だ、施設の中は既に把握してある、それに機体を調整したいからな」


 そう言い残しグレイはその場を去ってしまった、そんな彼の態度にレッカは怒りを隠せずにいた。


「なんなんだアイツ!?いきなり出てきて偉そうに………」

「偉そうじゃなくて偉いわよ、少なくともアタシ達よりは」

「まぁさ、グレイにも色々あるのよ。ちょっと使命感が強いって言うか、生真面目というか」


 どうにも生真面目な奴は苦手だ、こっちの意見はまるで聞かないって感じが仕方がない、本当に上手くやれるのか?俺の不安は高まるばかりだ。


「ちょっと、どこ行くのよ?」


 歩き去ろうとするレッカを、ミオンが止めた。


「別に、飯でも食おうかなってだけだよ」


 そのままレッカは歩き去った、そんな彼に沙織はため息を吐いた。


「はぁ……この先どうなる事やら」

「まぁ、そこは上手くやってもらわないと」


 ミオンは能天気だ、なんだかあのグレイって人、レッカと反りが合わなそうだけど……まぁ、アイツの問題だし。アタシがどうこう言っても仕方ないわよね、とにかく面倒な事を起こさなければいいんだけど。






「………」


 格納庫にて、整備されている自身の機体、を見つめ何かを思うグレイ。そんな彼の前に、ミオンが後ろから近づいて来る。


「後ろにいるのは分かってるぞ」

「ありま、こりゃしょうがない」


 ニヤニヤと笑いながら向かって来るミオンを見て、グレイは呆れて天井の方を向いた。訓練生時代、2人は腐れ縁とも言える関係であった。ミオンはPSの第一人者であるサーナ家、グレイは軍事家系でもあるアルフォンス家、どことなく似たようなものをミオンは感じており、当時よりグレイに絡んで来ていた。


「レッカの事、認めたくない?」

「そういう訳じゃない、ただ、中途半端な奴を簡単に受け入れる事は出来ない」


 PSディバイダーは命を懸けてゴーレムと戦う、自ら志願し厳しい訓練を受け、初めてG.O.Dに入隊できる。その過程を受けずにただ適性がある、その理由だけで入隊したレッカの事がどうしても受け入れられない。


「まぁ、アンタの言いたい事も分かるわ、けどね、次第に分かるわ、アイツが何の為に戦うかって」

「………」


 グレイは沈黙を貫いた。どこか頑なな彼を見たミオンはやれやれと首を傾げていた。


『エリア15にてゴーレム出現!ディバイダーは至急、出撃の準備を!!』

「全く……こうも性懲りもなく現れるわね~」

「無駄口叩いてる場合か、とっとと行くぞ!」


 警報が鳴り、ゴーレムが現れた事が知らされる。それを聞いたグレイとミオンはすぐさまドックの方へ向かい、PSを纏った。


「で、レッカと沙織は?」

『2人はもう出ています』

「そう、お早い事ね」


 どうやらレッカと沙織はそのまま出撃したという事をミオンは、オペレーターである新上卓也あらがみたくやから通信で聞いた。


「とにかく俺達もすぐに合流するぞ」

「モチのロンよ、ミオン・サーナ、ウィンガー発進!」

「グレイ・アルフォンス、ワイバーン・カスタム、出るぞ!!」


 上空のハッチが開き、ウィンガーとワイバーン・カスタムは出撃した――――――――――――









「へへっ、こっから直接飛び出せば一番乗りよ!」

「全く……まぁ、全員で合流してたら遅れるからまぁいいわ」


 一足先に出撃したアンバーとスラッシュ、現場に到着するとそこには頭部に頭部に巨大な角の生えたゴーレム、突撃級がもう突進しながらビルを破壊する姿を確認した。


「アレは突撃級…あの角で突かれたら一たまりもないわよ!!」

「つまりあの角を叩っ斬ればいいって事だな!!」


 そう言いながらアンバーが、突撃級に向かって加速する、しかし、頭部の巨大な角から強力な衝撃波が放たれた。


「なっ……なんだ!?」


 アンバーは間一髪、シールドで衝撃波を防いだ。

 辺りを見渡すと、衝撃波の影響で、周りの車、木などが吹き飛ばされ、破壊されていた。


「こんなモンまで出せるのかよ…コイツら、ますます意味わからねえよ………!!」


 未知の存在であるゴーレムに、アンバーは改めて驚きを隠せずにいた。

 そこにウィンガーとワイバーン・カスタムが合流した。


「アンタ達、抜け駆けなんて味な真似するじゃない!」

「アレは突撃級……厄介な奴が出て来たな」


 ワイバーン・カスタムが突撃級に狙いを定めて、左手に持っていたフォトンライフルで銃撃を開始した。


「オォォォォォォォォォ!!」


 突撃級にはビクともせず、高らかに雄たけびを上げている。


「奴の角からは衝撃波が発生出来るんだったな……うかつには近づきがたい、それなら!!」


 ワイバーン・カスタムの腰部からミサイルポッドを展開し、一斉に突撃級の方に向かって発射した。それを察知した様に突撃級は両腕で防いでいた。


「ゴォォォォォォ………!」


 突撃級の右腕は粉砕され、痛みを訴える様にして叫んでいた。

 そこへワイバーン・カスタムは右手に持った槍状の武器アースライランスを構え、突撃級に向かって加速した。


「ぐっ……!こいつは……!!」


 突撃級の角と、ワイバーン・カスタムのランスがぶつかり合う。

 角を破壊しようと機体のスラスターを加速させ、一気に押し河本した、その時―――――――――――――――


「後方から反応!?」


 レーダーに大きな反応が3つ確認された。後方、300m先から、大きな地ならしが発生すると同時に、通常級のゴーレムが3体こちらに向かって前進していた。


「ちょっと、噓でしょ?一気に3体も出てくるなんて!」


 3体のゴーレムが迫って来るのが目に見え、ウィンガーは少し困惑しながら驚いていた。すると1体のゴーレムが立ち止まり大きく口を開き、エネルギーのチャージを開始した。


「マズい、が来るわ!!」


 ゴーレムの口から放たれるゴーレム砲、その威力は山1つを吹き飛ばす規模を誇る。それを阻止せんとスラッシュとウィンガーは3体のゴーレムの方へ向かって行く。


「くっ……!?コイツら、連携している!!」


 もう2体のゴーレムが、スラッシュとウィンガーの足止めをせんと、走り出し、手で叩き落とそうとした。知性がないと思われたゴーレムだが、どうやら連携できる程の知性を持ち合わせている様だ。瞬時に攻撃を回避するが、エネルギーをチャージしているもう1体のゴーレムには近づけないでいる。そして――――


「グレイ、避けて――――――――――――!!」


 後方のゴーレムから、ゴーレム砲が放たれた―――――――


「しまっ――――――――――――」


 ミオンの叫びに気付いて、ワイバーン・カスタムは後ろを振り返る。ゴーレムの砲の一撃は既にこちらに近づいており、避ける体制を取ろうものなら、突撃級の角が襲い掛かる、ワイバーン・カスタムにとって絶対絶命の危機、が―――――――


「ちぃっ!やらせるかぁ―――――――――――」


 そこへシールドを構えたアンバーが、身を挺してワイバーン・カスタムを庇った。


「こんぐらい………防ぎきってやるよ―――!!」


 ゴーレムを砲を防ぐアンバー、だがシールドがその威力に耐え切れず爆散し、その爆風に巻き込まれ、地面に叩き落されてしまった。


「アイツ……何で?」


 自分を庇ったアンバーの姿を見て、グレイは戸惑っていた。初対面で、第一印象の悪い自分を庇う理由はわざわざないはずなのに


「レッカ、返事をして、レッカ!!」

「バカ!こんな所で寝てるんじゃないわよ!!」

「………」


 倒れるアンバーに、スラッシュとウィンガーは通信を試みる、しかし、返事は返って来ない。


「クソっ!最悪な状況だ!!」


 突撃級から距離を取って、後ろに下がるワイバーン・カスタム、ゴーレムの増援に、どう対処したらいいか答えが見つからず、ただただ、突撃級と睨み合うしかなかった………



 To be continued…

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