Divive6「飛べ、ウィンガー!」

「ほぇ~コイツが最後の1機……随分ずんぐりだな」

「えぇ……資料は見てたけどアタシもビックリよ」


 格納庫にて、白とミリタリーグリーンが基調の1回りほど大きく、W字のアンテナに、額にスコープの様なレンズが取り付けられており、背中に大きなウイングを装備したPSパワードスーツを前にレッカと沙織は呆然としていた。


「GOD-R004ウィンガー、コイツは高火力武装の運用と変形機能を備えた機体だ、ちと修復には手間取ったみたいだがな」


 そこへ斗真が車椅子を漕いでやって来た。ウィンガーリベリオン、レグルスに配備されたPSの1機、可変機構による長距離飛行を可能とし、大容量のエネルギーコンデンサーを備え、高火力を誇るフォトンランチャー「ヴァジュラ」を運用可能とし、制圧力にも長けているとされている。 


「んで、ディバイダーは誰がなるんだよ?」


 肝心なのはPSディバイダーは誰になるのか、現在レッカと沙織、そして斗真がいる、しかし斗真は怪我が完治しておらず現役復帰はまだ遠い様だ。


「おん?そいつはもちろん………お前だよ、ミオン」


 斗真がミオンに視線を向ける。彼女はタブレットを見つめながらぼーっとするかの様にして目線を逸らす。


「オイ、お前の機体なんだぞ、ちっとは喜べよ!」

「別に、アタシやる気はないんで、他を当たってくれませんかー?」


 適当にあしらう様にしてミオンは断った、その態度にレッカと沙織は首を傾げる。


「別にアタシ、ディバイダーとして入ったつもりはないのよね~一応、技術者志望で入った訳だし、だから前線に出て戦うなんてまっぴらゴメンなの」


 ミオンは大きな欠伸をしてその場を去ろうと歩き出した、軽くあしらわれた斗真は怒りを隠せず手を震わせていた。


「なんだアイツ?何でそんなに頑なに嫌がるんだ?」

「さぁ?腕がないのがバレたくないとか?」


 沙織が冗談で言った一言に対して、ミオンが振り返って答えた。


「別にそう思いたいならそう思ってくれていいわよ~生憎、アタシはアンタ達2人なんかに到底追い付けやしないんだし」


 どこか挑発的な態度に流石にレッカも我慢の限界を感じていた。


「オイ、そんな風に言わなくていいだろ!!仮にもお前もゴーレムからみんなを守る為に、G.O.Dに入ったんじゃ………」

「ハァ………誰もが同じ理由じゃないって事、よく覚えといて」


 適当にあしらおうとしながらも、ミオンは苦虫を嚙み潰した様な表情をしていた、そんな彼女の顔を見た途端、レッカはゾッと震えた。


「なっ……なんだよ、あの感じ?」

「そういえば、アタシが入った時からミオンって一向にPSを使う事なかったわね……」


 ミオン・サーナは沙織が入隊する1年前にレグルスに配属された、少なくとも沙織が配属されて以降はPSを使って活動をしていないらしい、元々技術者志望で入隊したのは事実。しかし人手不足な状況もあり嫌だからと言う理由で拒否できる余裕がある訳でもない。


「そういえば、確かミオンって…あのサーナ家だったわよね?」

「あぁ、その通りだ」

「サーナ家って?」

「そっか、アンタはそこん所詳しくなかったわね、サーナ家はPS開発の第一責任者、G.O.D創設メンバーでもあるのよ」


 サーナ家、人類で最初にPSを開発した家系であり、G.O.D設立にも大きく関わっている一族でもある。ミオンの祖父はその第一人者でもあるアイン・サーナであり、彼女もまたその影響を受けて育っていると思われる。


「でも、それとディバイダーをやりたくないってあんま関係なくないか?」

「それもそうね。しっかし、あぁなっちゃうと正直困っちゃうわ、こっちも人手が足りないって言うのにあんな事言われちゃうと……」


 沙織も流石にミオンの態度には苛立っている模様だ。

 そんな2人を落ち着かる様にして斗真両手を前に出した。


「まっアイツの場合は仕方ないのかもしれないかもなーちょいと事情が事情だからな」

「事情って?」


 レッカが問いただす。


「コレは本人の問題だから俺の口からは詳しくは言えないな、まぁ司令がつい話しちまうのを期待するんだな」


 そう言うと斗真は車椅子を漕ぎ始め格納庫を後にした。彼の言った事に対してレッカと沙織は目を合わせながら首を傾げた。






「あーあ、どうしたものかしらね………」


 格納庫から少し距離のある通路で壁の背もたれに掛かり、ミオンは天井を見上げていた。どこか自身がなさそうに、どこか不安を感じている様にも思える。首に掛けてあったロケットを取り出し、中を開ける、そこには幼き日の自分と銀色の短髪に青い瞳をした少し年上の少女の写真がプリントされていた。


「お姉ちゃんみたいになれるわけないのね」







 時は過去に遡る事N.G43年――――――――――――


「おねぇちゃん、今日も行っちゃうの?」

「すまないな…けど心配ない、すぐに終わらせて帰って来るさ」


 背中を向けて立ち上がる銀髪の少女、シオン・サーナ。

 ミオンと8歳上の姉でありPSディバイダーでもある。ゴーレム掃討作戦の前日、作戦会議の為に家を出ようとした所、妹が心配そうな目でこちらを見て、そんな彼女の頭を撫でて、安心させようとする。


「帰ってきたら、また遊んでくれる?」

「あぁ、私は約束は破らない、いつだってそうだっただろう?」

「うん!!」


 大規模な戦いを前にミオンと約束するシオン、しかし……彼女が帰って来る事はなかった。使用していたPSを残して。ずっと待っていた、帰ってくるのを、約束を守ってくれると。






「アタシ………お姉ちゃんみたいにはなれないよ」


 お姉ちゃんは強かった、誰よりも、超人とまで言われるぐらいに強かった。そんなお姉ちゃんが負けるはずがないって、でも帰って来なかった、両親の勧めだったり、本当の事が知りたくてアタシはG.O.Dに入った。けどお姉ちゃんみたいに上手くはいかなかった。同期の中でもPSの操作技術は最低レベル、当時のみんな当時トップだった男に夢中になるばかり、それどころかお姉ちゃんと比較されて、いつしか嫌いになりそうだった、嫌いになりたくないから諦めた。サーナ家は本来、PSの技術一家、本来はその道を行くべきだと。


「無理だよ………アタシには」


 ミオンはその場で座り込んで下を向いた。そんな様子をレッカと沙織が発見する。


「ミオン………やっぱなんか気にしてるのか?」

「まぁ…アタシ達がどうこう言える問題じゃないのかもね」


 声を掛けようにも気まずいあまりに、2人は去っていった。

 ミオンはその様子をこっそり見ていたのだ。


「はぁ、アタシ先輩なのに、情けない所見せちゃったなぁ……」





 それから2日が経った、再びミオンは格納庫に訪れウィンガーを見つめていた。


「乗る気になったかい?」

「司令……!」


 そこへ静香がやってきた、彼女が連れて来たかの様にレッカと沙織もそこにいた。


「君の気持も分かる、だが今はそうしなければならない、1人でも多くの仲間が!」

「………」


 ミオンは目を逸らして黙り込んだ、何も言い返せず、どうしようもない事に。


「確かに、君には彼女の様にはなれない。だが、そうする必要もないんだ、だって君はミオン・サーナなのだから……」

「アタシは………」


 その時、サイレンが響き渡る。


『エリア6にゴーレム反応!これは………装甲級です!!』

『市街地に向かって前進!後15分後には目的地に辿り付きます!!』


 オペレーターの通信を聞いたレッカと沙織は、すぐさま走り出していった、その背中を見つめるミオン、悔しがるように拳を握りしめていた。


「………」








「オォォォォォォォォォ――――――!!」


 激しい雄たけびを上げながら前進するゴーレム、その全身には黒い装甲が纏っている。そこへアンバーとスラッシュがその現場に到着し、空中から前進していくのを目の当たりにした。


「アレが装甲級………」

「気を付けてよ。アイツには殆どの攻撃なんて効かないんだから」

「とにかく、アイツを市街地に入れちゃならないってのは分かってるよ!!」


 手始めにマルチプルライフルでゴーレムに攻撃を仕掛けた、しかし、ビクともせずそのまま進み続ける。


「あの装甲を破壊するにはやっぱりヴァジュラじゃないと……」

「クソっ!だったら―――!!」


 アンバーはアクアアンバーへとアームドチェンジをして、両腕のグレネードランチャーを発射した。だが、それも効いてはいないようだ。


「こうなったら……!!」


 アクアアンバーはゴーレムの方へ近づき、両手で押すようにして動きを止めようとする。アクアアンバーのパワーを持ってしても、装甲級の装甲を破壊するのは至難の技、この手が精一杯と言えるだろう。


「オイ、沙織!お前も馬鹿力で手伝ってくれ!!」

「だっ、誰が馬鹿力よ!?っく、しょうがないわね………」


 スラッシュもアクアアンバーのいる方へ着地し、ゴーレムを押さえ込もうとする。


「で、こっからどうするのよ?」

「そりゃお前、ミオンが来るのを信じるしかねぇだろ?そのヴァジュラって武器ならコイツの装甲を剥がせるんだろ?」

「えぇ……今はその手しかないわね、信じましょう」






「レッカ……沙織………」


 戦う2人の通信を聞いたミオン、今にも涙が零れそうな彼女に静香は言う。


「2人も待っているんだ、君を」

「アタシ、ずっとお姉ちゃんと比べられるのが嫌で、言い訳して逃げて誤魔化して………」

「でも、君も気持ちは彼らと同じだろう?」

「………うん」


 静香の手には緑色のディバイヴ・デバイスが握られていた。溢れそうな涙を拭い、向き合う様に静香を見つめるミオンはそのデバイスを手に取り――――――――――――









「だっ、ダメだ!もう……これ以上は――――――!!」

「バカ、もう弱音吐く気?アタシはもう少し持つけど?」

「何言ってるんだ、お前は俺より後に抑えてたろ!俺の方が長く持ってるんだよ!!」

「そんな事言ってる余裕あるなら、大丈夫よね?」


 ゴーレムを抑えるアクアアンバーとスラッシュ。だが少しづつではあるがゴーレムは進んでいた。2人共手の力が限界に近かった。もう手を放してしまいたい、そう思わんばかりの状況、その瞬間――――――――――――


「なっ………なんだ!?」

「もしかして―――!!」


 遠くからゴーレムに光弾が放たれた、2人が後ろを振り向くと、そこには1機の戦闘機の様なものがこちらに向かって来ていた。


『ゴメン、待たせたわね!』

「その声は……ミオン!!」

『悪いけど2人共、もう少し抑えててよね!!』


 戦闘機の様なものの脚が直立する様に展開し、上半身と下半身が回転して、腕が展開される、頭部が半回転し、背中の機首がシールドどなって左手に装備され、右手に大きなランチャーが装備される。


「本当に変形した……」

「すげぇ……」


 戦闘機のようなものからPS、ウィンガーリベリオンへと変形し、ランチャーヴァジュラをゴーレムに向けて構えた。


「いきなりだけどぶっ放すわよ!いい?」


 ヴァジュラの砲口にエネルギーが溜まっていく。


「オイオイ、コレってヤバいんじゃないか!?」

「えぇ……撃った瞬間に下がるわよ!!」


 溜まっていくエネルギーを見たレッカと沙織は、少し焦りを感じていた。そしてウィンガーがヴァジュラのトリガーを強く引くと、砲口から緑色の粒子を帯びたエネルギー方が発射された。



「今よ―――――――――!!」


 発射された瞬間、アンバーとスラッシュはそれぞれ左右に回避した。その一撃はゴーレムの装甲に直撃し、全体にヒビが入り、そして一気に砕けてゴーレムの身体の胸から右を消滅させた。


「うへぇ、とんでもねぇ一撃だな………」


 ヴァジュラの誇る一撃に、レッカは驚いていた。その時、右腕を失ったゴーレムが奇声を上げて口の中からエネルギーを溜め込みだす。


「コイツっ………!あんなになっても動くのかよ!!」


 ゴーレムの目の前に飛び出したアクアアンバーが腰から棒状の物を取り出すと、柄の部分を伸張させ、先端から三又状に展開された光子の槍フォトントライデントが形成される。


「やらせるかよ―――!!」


 アクアアンバーは、フォトントライデントをゴーレムの口の中に思いっきり投げ込み、口の中に突き刺さった。


「いい加減やられなさいよ!!」


 口の中でエネルギーが暴発し、上顎が砕け散ったゴーレムに対し、ウィンガーが前に出てヴァジュラをもう一発撃ち放った。

 その一撃が直撃したゴーレムはその光子の光に包まれる様にして消滅していった………


「ふぅ……コレで片付いたわね」


 ウィンガーが地面に着地すると、頭部を外しミオンの表情が露になる。そこへ駆けつけるアクアアンバーとスラッシュを前に、満面の笑みを見せたのであった。








「って事で、これからもよろしく!ねっ」


 戦闘を終え、レグルス本部に戻ったミオンはレッカと沙織に握手を求めた。


「あぁ、よろしく!あの一撃とんでもなかったな!!」

「こちらこそ、結構やるわね」


 レッカと沙織は握手に応じた。共に戦ってくれる事を決意してくれた彼女に感謝をし、喜んでいた。


「フフフ、もぅ!!これからはお姉さんに任せなさいってね!!」


 ミオンは2人を一気に強く抱きしめた。


「ちょっ、オイ!?」

「ぐっ、苦しい………」

「あっ、ゴメン」


 息苦しい表情をする2人を見て、ミオンはすぐさま後ろに下がった。


「とにかく、コレで3機揃ったわけだし、怖い物ナシよね!」

「あぁ、コイツはとんでもなく心強いぜ!!」

「ハァ……調子がいいんだから」


 少し浮かれ気味なミオンとレッカを前に、沙織は少々呆れている、とは言いながらもどこか嬉しそうな表情をしていた。


「いいね~青春って奴で、俺も混ざりたいものだな」


 その様子を少し遠くの方で斗真が見ていると、そこへ静香がやって来た。


「それなら、君にも早く復帰してもらないと困るな、コマンダーの底力、彼らも見たいと思っているぞ」

「へいへい、俺もそうしたい所ですよっと!」


 斗真は車椅子に座っている自分を嘆くようにして、そっぽを向いて静香に言い返した。


「さぁ~今日は気分がいいからご飯行くわよ~あっ!もちろん割り勘ね」

「オイオイ、そこは奢ってくれるのが先輩だろ?」

「あのね~アタシはそんな気前は良くないのよ~奢りと分かったらアンタ、死ぬほど食べまくるんでしょ?」

「確かに」


 釘を刺すミオンの一言に、沙織はクスりと笑っていた。3人レッカ、沙織、ミオンが移動する様子を見て、静香は何かを思い出す様に、眼鏡を拭きながらじっと見つめていた。


「全く、こういうのは今も昔も変わらないものなんだな……」


 その背中は別の3人の人物と姿を重ねる様であった……


 To be continued…


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