Divive5「ゴーレム」

「うーむ……しっかしどうにもこうにも、ゴーレムって一体何なんだろうな?」

「何よ急に藪から棒に?」


 ある日の事、レグルス本部の食堂で昼食を食べてる時、レッカはふと呟いた。


「いや、アイツら一体なんなんだって話だよ、未だに全然分かってないんだろ?」

「まぁ、そうだけど………」

「調べ様にも出てきては倒す、この10年ずっとその繰り返しだからね~」


 ミオンがウィンナーを串刺しにして口にしながら、レッカの問いに答える。時はさかのぼる事10年前、N.Gネオ・ジェネレーション40年、突如として世界各地、人工島を中心ににゴーレムが出現した。その圧倒的な数と力の前に多くの命が奪われ、破壊の限りを尽くした。当時まだ発展しきれていないPSパワードスーツでは力及ばず、新型機の開発に躍起になっていた。


「それで起きたのが7年前の大規模な掃討作戦、まぁ、その任務は……」


 N.G43年、大量に現れたゴーレムの掃討作戦が決行された。

 その戦いで多くのディバイダーを失う事になり、その中には…


「アンタのお父さんも、行方不明になったんだっけね……」

「俺は今でも信じてる、父さんはどこかで生きてるって!」


 レッカは紙コップを強く握りしめる。その様子を見たミオンは、彼の頭をくしゃくしゃする様にして撫でてきた。


「大丈夫に決まってるじゃない!その内ひょんな所で帰ってくるかもしれないでしょ?」

「やめろって!けど、そうだよな、きっと………」


 ちょっと笑いながら、次々とトレイに乗ったウィンナーを食べた。


「っく……調子がいいのかなんとやら」


 沙織は頬杖を付いて、黙々と食べている姿を呆れたような目で見ていた。


「じゃ、アタシは一足先に訓練に戻ってるわ、アンタもちょっとは参加しなさいよね」


 そう言って沙織は食堂を後にした。G.O.Dと学校を行き来している彼にとって、訓練に参加する日は多いとは言えない。体力や力はそれなりにあるが、G.O.D隊員の平均とは程遠い。激しい訓練に積極的になるかは自分次第であるが。


「へいへい、こっちも大忙しなこった」


 少し面倒くさそうにレッカは答えた。







「ふぅ……今日も遅くなっちまった」


 辺りが暗くなる中、訓練を終えたレッカは家に到着していた。

 スマホを見ると時刻は20時半。疲れ切っていて、今にも倒れそうな勢いだ。


「ん?」


 玄関に入った途端、電話の着信音が鳴り響いていた。恐らく少し前から鳴っていたのだろう。それに気づいて、すぐに受話器を手に取った。


「はいもしもし?」

『あっ、もしもしレッカ?母さんよ、元気にしてる?』


 電話の相手は日本で仕事をしている母さんからだった。


「母さん?あぁ、まぁ……ぼちぼち」

『そう?そっちは大丈夫?最近ゴーレムの出現が多いって聞くけど……』


 心配そうに尋ねた、心配させまいと元気そうにレッカは答えた。


「大丈夫だよ、G.O.Dがなんとかやってるおかげでみんな無事なんだから!」

『……ならいいわ。母さん、アンタがここに残るって言ってからずっと心配で、あの人の事もあるし……』


 中学2年生の頃、仕事の都合で日本に向かわなければなって引っ越す予定だった。それを断り俺は残った。1人で寂しいかと言われれば嘘になるがまぁなんとかやっていている。


『渚ちゃんに迷惑掛けてない?部屋の掃除とか任せてない?いい子だから、アンタがだらしなくなっちゃうんじゃないかって、心配なのよ』

「いやいや、流石にそこまでさせやしないって。俺はなんとかやってるし心配し過ぎ!それでさ母さん…」

『ん?何、どうかしたの?』

「………いや、次何時帰って来るのかなって」

『そうね………最近ちょっと忙しくてね、当分帰って来れないしれないわ。2ヶ月………いや、夏過ぎた頃になるかもしれないけど……』

「そっか。母さんもあんま無理しすぎんなよ、それじゃ」


やっぱ……言えないよなぁ、本当の事を言ったら何言われるか。

下手すりゃ無理やり辞めさせられるかもしれないし、それに母さんに心配させたくない。父さんの事もあるし……






――――――――――――


「あぁ、何時の間に………」


 時刻は朝9時、差し込んだ光で目が覚めた。制服姿でベッドの上に、あの後すぐ眠ってしまったのだろう。新学期が始まって最初のゴールデンウイークが始まっていた。とは言え、そう休みがある訳じゃない。急いでシャワーを浴びて、着替えてすぐ様家を飛び出した。レグルス本部へ向かって走っている中、1人の男に声を掛けられる。


「おっ、レッカじゃねーか!」


 声を掛けて来たのは圭だった。レッカがふと振り返り立ち止まる。


「よっ………よぉ、圭」

「なんだよそんなに急いで?」

「別に、何か用か?」

「用って事はねーけど、これからゲーセンまで行くんだ、レッカも一緒にどうだ?」

「あぁー悪い、今日はちょっと…先約があってな」

「なーんだ、まっいっか、また今度遊ぼーぜ!みんなでよ!」


 走り出そうとした時、圭の言葉にレッカは振り返った。


「あっ……あぁ、そうだな、また今度」


 後ろを振り返らない様にレッカはその場を後にした。また今度、そんな日常が当たり前になる日を目指して、日々戦っている。そんな日が来ると信じて………



 レグルス本部へ到着したレッカ。そこにはミーティングルームで今にも眠そうにして待っていた斗真と、遅いとばかりにこちらを見る沙織が待っていた。


「遅いわよ、何やってたの?」

「悪かったな、寝坊だよ」

「よーし、揃ったな。んじゃっ、今回はゴーレムについてだ、以前にも現れたランチャー級、他にも奴らには色んな種類がいやがる、突然の新種も………な」


 現在、存在が判明しているゴーレムはシンプルな巨体な、以前現れた片手にランチャーの様な武装をした、頭部に巨大な角が生え突進攻撃を繰り出す、全身が装甲で覆われ驚異的な防御力を誇る、下半身が戦車の様になっており機動力を誇る、従来よりも小型で蜘蛛を単眼にした様なの6種類が判明している。最も、その内の装甲級やパンツァー級は最近になって現れたと言われている。


「そして、最もゴーレムが脅威とされているのは………どこからともなく現れて来ることだ、コイツを見てくれ」


 斗真がモニターに映像を映し出す。そこにはゴーレムがゆっくりと前進する姿が映っていた。


「コイツを見ておかしい事はないか?」

「おかしいって……ただゴーレムが歩いてるだけだろ?」


 レッカにはそう見える、そこで斗真はゴーレムが歩くより後ろの方に指さした。


「ココ、よく見てみろ?」

「ん?あっ!跡が………ない!?」


 歩いた後には後退った跡が残っている。だがおかしい事にその跡はさらに後ろの方では途切れている。


「突然現れて、ここから歩き出したって訳なんだ。時には空から降って来る時もあれば地面からも出てくる、海の中から出てくる場合だってあるのよ。一体どんなカラクリなのやら」


 どこからともなく現れる、だがそれも突然生えてきたかの様に。そもそも、あんな巨体を隠して突然出す方が難しい。その出現方法はその都度変わっていく。一体なんなのか?何故人々を襲うのか?その行動原理すら不明のままだ。

 G.O.Dが防戦一方になるのも納得してしまう。未知の脅威に晒され、何も分からないままが続くこの状況に少々困惑していた。

だが、何も考えてはいないわけではない様だ。


「せめてゴーレムを1体でも捕獲する事が出来れば……話は変わるのだが」


 ゴーレムがどこから現れているのか?どこかに巣があるのか?

 それが分からなきゃこの状況は一生続く。


「まっ!後ろ向きになってもしょうがない!さっ、お前ら今日はシミュレーションでもして身体動かして来い!!」

「そうね、思いっきりやっていこうじゃない」


 そう言って立ち上がりシミュレーションルームまで足を運んだ、全方位壁に囲まれた白い空間、ここではPSのエネルギーは最低限に調整されダメージはないが、一定の攻撃を受けた場合、強制停止される使用になっている。


「さて……それじゃっ!!」


 互いにPSを装着しシミュレーションルームに入る。

 その瞬間、真っ先にスラッシュが一気にアンバーに向かって走り出した。


「っ……おまっ!いきなりソレかよ!?」

「いきなり?勝負はPSを纏った瞬間から始まってるのよ!不意打ちをズルいって言ってる暇なんてないのよ!!」


 スラッシュがスラッシュブレードを振り下ろす。それをアンバーはシールドで防御するが、スラスターを全開に吹かせ、迫って来る勢いに押されている。


「こんの………っ、だったらこっちだって!!」


 押されながらもアンバーはシールドからフォトンサーベルを取り出しスラッシュの右脚目掛けて突き刺そうとする。


「ちぃ!!」


 すかさずスラッシュが脚を捻る様にして回避し一歩後退する。


「ハァ……ハァ、やるじゃない」

「まぁ、こっちも大分なれたきたものでね」


 マルチプルライフルをソードモードに切り替え、相手の様子を伺う、火花を散らす様にして見つめ合う2機アンバーとスラッシュ、その時、レッカの脳内にビジョンが浮かび始めた。


「うっ………コレは!?」


 それはレッカが前に見た夢の光景、そこにいたのはまさにアンバーとスラッシュそのもの、そこにいたのは自分と沙織なのか?

 何故そこにいて2人が戦っているのか?夢に見たものは未来に起こりうる事なのか?


「……?ふぅ、そこっ――――!!」

「ぐぁっ―――!?」


 立ち止まったアンバーの隙を見て、スラッシュは一気に懐に入って蹴りを入れ、そのまま背中から勢いよく倒れ込んだ。


「ハッ―――!?」

「っく、ぼーっとしてるからよ、急に」

「わっ……悪かったな!」

「コレが本番ならアンタ、とっくに死んでるわよ」


 PSを解除し、呆れた様に手を差し出してきた。夢で見た出来事が本当に起こりうるのか、沙織と敵対して戦うかもしれない。そんな不安が脳裏に過った、なんて本人には口が裂けても言えない。


「まぁ、そんなバカげた事あるわけないか」

「何か言った?」

「いぃや、別に」


 レッカはその場で立ち上がってふと笑う、そんな笑うレッカの姿を見て沙織は首を傾げた。


「おーやってるねぇ~青春ってやつ?」


 その光景をミオンは楽しそうにしてタブレットを握りながらガラス越しに見つめていた、まるで他人事かの様に。


「いいのか、そんなところで見ていて?君ももうじき、だろ?」

「………」


 隣で見ていた静香が突っ込む様に声を掛ける、その言葉にミオンはどこか不安そうな、面倒くさそうな表情を浮かべていた。


「別にアタシ、そんなつもりないし………」


 ボソッと呟く、その瞳はどこか寂しさを感じる様に思えた。彼女の手に持ったタブレットには、白とミリタリーグリーンが基調の従来のPSよりも1回りほど大きく、W字のアンテナに額にスコープの様なレンズが取り付けられており、背中に大きなウイングを装備したPSの全体図が映っていた。


「ハァ、いやんなっちゃう」







 夜が訪れた頃、クタクタになって歩いているレッカ、今にも倒れそうな勢いで腰を落としている。


「アイツ…ちっとは手加減しろよな、あのペチャパイゴリラ娘」


 さりげなく沙織の悪口が零れる。これを本人に聞かれたら命がいくつあっても無事じゃすまないだろう。


「ハァ………腹減った、あそこで食うか」


 レッカが向かった先は世界的に有名な牛丼チェーン店、店に入りレッカは早速注文する。


「おいおいおい………」

「なんちゅう食いっぷりだ…」

「若いのによぅ食うのぉ……」

「ん?なんか見られてる気がするが………まぁいいや」


 牛丼を頬張りながら辺りを見渡すレッカ。それもそのはず、既に13杯もの牛丼を平らげている、それも大盛のを、これだけの量を食べていれば周りの客も見て見ぬフリは出来ないだろう。


「ふぅ、ごっそさん!っと………」


 家に帰っても仕方がないので少し夜の街を歩く事にした。一面見渡すと周囲は賑わっていた。反対側をふと振り返る、破壊された街並みが目に入る。少しずつ瓦礫を処理し、復興を進めている光景を見て、少し下を俯かせていた。今この瞬間、ゴーレムが現れてしまうのではないかと事を考えてしまう。そんな所に誰かが後ろから肩を叩いてきた。


「やっほ~レッカじゃん!どうしたの、こんな所で?」


 振り返るとそこには、積姫が手を振りながら立っていた。


「うぉっ、あっ、いやー飯食い終わって家に帰ってもなーって………な」


 突然の事に少し驚きながら後ずさった。距離が近かったのか、レッカは少し動揺し、顔を赤くしていた。


「へぇ~そうだったんだ」

「んで……お前は何してるんだよ?」

「ん?アタシは………今日パパとママと一緒に買い物しててその帰り、ホラ見ての通り!」


 積姫は両手に持った紙袋を見せつけ、中には服やコスメが大量に入っていた。楽しそうな彼女の笑顔を見て、ふと笑っていた。


「あっ、久々に笑ったね?レッカ最近疲れてそうだったし、休みの時ぐらい羽を伸ばさないと!」


 軽くまた肩を叩いた。遠くの方から、彼女の両親が呼ぶ声が聞こえそれに答えた。


「はーい、今行く~じゃっ!また学校………うーん、今度どっかで遊ばない?渚ちゃんやみんなも一緒に!!」

「あぁ、そうだな、たまにはいいかもな!」


 そう言い残して、楽しそうにその場を後にした。軽く手を振り遠のいていく彼女を見つめてると、突然後ろから、首が肘に挟まれる。



「オイオイ、俺との誘い断ったのはそういう事ですか~?」

「けっ、圭!ちっ……違っ!たまたま!たまたま会っただけだって!!」


 相手はゲーセン帰りの圭だった。からかう様に後ろから組み付いてきて彼を動揺させる。どうやら、積姫とデートしてたのかと勘違いしたのであろう。



「ふーん、しっかし、お前も隅に置けないよな~あんな可愛い幼馴染もいるってのに」

「べっ……別にアイツとは家が隣なだけだっての!」

「かぁ~!お前って奴は相当贅沢な奴だぜ!」

「だから、そういうんじゃないって!!」


 誤魔化す様にして首を横に振った。顔を赤らめ、まんざらでもない顔をする彼に、からかう様にしてこちらを見ていた。


「またまた~ってか聞いてくれよ~今日フィギュアに4000円も使っちまってよ~」

「オイオイ、それは流石にヘタクソが過ぎるだろ」


 他愛もない会話をしながら、二人は歩いて行った。ゴーレムの現れない日、こういう日だってある、その1日を噛みしめて生きている、だけど明日、どうなってるかは誰にも分からない。


「っく、しゃあねぇな~今度上手い取り方教えてやるよ」

「マジ?そいつは頼むわ~」


 レッカの表情は少しづつ柔らかくなっていき面白いものをみるみたいに笑っていた………


 To be continued…

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