Divive2「ディバイヴ・イン」


 目が覚めると、目の前には見知らぬ天井が広がっていた。


 ベッドから起き上がると全身に痛みが走り、右手を抑える。隣に鏡を見てみると、額や腕に包帯を巻かれ、病衣を着せられていた。ここは………病院なのか?


 俺は……確かゴーレムの攻撃を受けて………


 頭を押さえながら、自分の起こった事を思い出す。ゴーレムの攻撃で瀕死の重傷を負い、その拳で押しつぶされた…はずだった。


 そういや俺……PSパワードスーツに、いや夢みたいな話………


「ようやく目覚めたのね」


 扉が開く音が聞こえ振り向いた先には、左腕に包帯を巻いた赤い髪の少女、銅月沙織あかつきさおりがこちらへやってきて近くの椅子に座り込んだ。


「ここはレグルス本部の医務室よ。にしても驚いたわ、まさかアンタがアンバーリベリオンでゴーレムを倒すなんて、アタシもビックリしたわ」


 沙織の言葉を聞いても信じられずにいた。額を抑え下を向ていると再び扉が開く音が聞こえた。


「実感が湧かないなら直接見てみるといい」


 2人の元にやって来たのは、赤いウェーブの掛かった長い髪に眼鏡を掛けた長身の女性、銅月静香あかつきしずかであった。

 手にはタブレットを持っており、見せる様にして映像を再生させた。その映像には2体のゴーレムと戦うアンバーリベリオンの姿が映し出されていた。


「コレを俺が……!?」


 映像を見てにわかに信じがたく、釘付けになったようになっていた。映像の最後にはアンバーの装甲が消え、レッカが現れる姿が確認される。


「いや、こんな事………だって俺には……!」


 俺にはPSディバイダーとしての適性はない、そう……0だ。

 1%も希望なんてありゃしない、そんな俺にこんな事が出来るなんてまずありえない……はずだ。


「あぁ、私も最初は信じられなかった、けど君はできた。これが事実なんだ。それでだ、君に……」


 その瞬間、扉を強く開ける音と共に銀髪が肩に届くぐらいの長さのツインテールに、緑色のつなぎを来た少女が胸を躍らせる様にしてこちらに向かって来た。


「ねぇ、アンタがアンバーでゴーレムを倒したの?ねぇどうやって?何で使えたの?ねぇ、ねぇ?」


 珍しい物を見るような目で執拗に迫り、問いただそうとする迫る少女に俺は顔を引きつらせた。


「ミオン、あまり彼を困らせるな」

「ちぇっ、すいませんでした~」


 ガッカリしたような表情でミオンは少し後ろに下がった。


「それでだ単刀直入に言う、銀河レッカ。君をこのG.O.Dゴッド中央支部レグルスのPSディバイダーとして迎え入れたい」


「はっ……えぇ!?」

「噓でしょ、レッカを!?」


 突然の事にレッカは出したこともない声を上げていた。それと同じぐらいに沙織も驚きのあまり椅子から立ち上がった。


「あのアンバーを使えたんだ、君は即戦力になる。私としても現状人手が欲しいぐらいでね」

「まっ、待ってくれ!状況が追い付かないんだけど……大体それは俺じゃなてもいいだろ、沙織もいるんだから!」

「それが出来てたらアンタなんかに頼まないのよ……」


 沙織はどこか不満げな表情を浮かべていた。そんな彼女をよそに静香は話を続けた。


「実はそこなんだ、君の使ったあのPS……アンバーリベリオンは他の誰にも扱えなかったんだ。それをあの様に扱えたのは君だけなんだ」


 どういう事かさっぱり分からない。首を傾げながらもう一度訪ねる事にした。


「言葉通りの意味さ、正真正銘君が初めてなんだよ。だからこそさ、君の力が必要なんだと」

「アタシは是非歓迎なんだよね~何でアンタがそれを扱えるのか興味があってねぇ」

「………」


 静香とミオンは歓迎の雰囲気だが、沙織はただ1人無言を貫いていた。いや、そんな事急に言われても俺には何がなんだか……

 正直、困惑している。自分でも実感が湧かないし、迫られる状況に焦りを感じていた。


「まっ、アンタが怖気づいてるなら、やらなきゃいいだけだけど」


 沙織の挑発的な態度に俺は少し怒りを感じていた。言い返そうとするがそんな場合じゃないと思い黙った。


「沙織…落ち着け。まぁ見ての通りレグルスには人手が足りなくてね、1人でも多くいると嬉しい限りなんだ」


 怒る沙織を落ち着かせながら静香は話続けた。


「それにね、実は今回の事で悲しい事が起っちゃってね」

「悲しい事って?」

「アンバーと共に、ここレグルスに配備されるはずだったPSの入ったコンテナをゴーレムによって攻撃されたんだ」

「あのコンテナ……そういう事だったのか」


 話によるとレグルスにはアンバーを含んだ5機の新型PSが配備される予定だった。それを今回現れた2体のゴーレムの襲撃に遭ってしうまったという。目の前で目撃したコンテナはそれだったのかと察した。


「それで残り2機はまぁ修理すればなんとか使えるって感じだけどもう2機は……」


 ミオンがため息を吐きながら嘆いていた。そんな過酷とも言える状況に改めて緊張感を感じていた。


「だからこそ今唯一戦えるアンバーは貴重な存在なんだ。君さえよければどうか力を貸して欲しい!G.O.Dには私から話を通す」


 静香は頭を下げて頼んだ。その頼みに対して………「少し考えさせてほしい」と答えた。そんなすぐに答えられるものじゃない。正直、どうしたらいいか分からない。


「そうか……君にも考える時間が必要であるな、じっくり考えてほしい」


 ベッドから降りて医務室を後にした。沙織が何か言いたげな顔をしていたが今の俺にはそんな余裕はなかった。


「う~ん、彼本当に協力してくれると思います?」

「それは分からない、ただ……私たちは願うしかないのさ」

「別に、あんな奴いなくたってアタシがどうにかしてやるわよ、こんな状況」


 沙織はどこか不機嫌だ。その横で静香は腕を組みながら窓から空を眺めていた。


「もしかしたら……彼は到達しているのかもしれない、あるいは……」





 ――――――――――――――


 外に出て後ろを振り返ると、大きな建物が目に入った。そこはG.O.D中央支部レグルス、その本部だった。自分がこんな所にいた、と言う事実に未だに信じられなかった。


 空を見上げると既に太陽が昇っていた。って事はつまり……1日経っていたって事か?ふと何かを思い出したかの様に慌ててスマホを取り出した。通知には渚から「レッカ君大丈夫?」「今どこにいるの?」「無事なの?」と心配するメッセージが大量に送られてきていた。


 走って数十分、俺は家に戻って来た。そして隣の家のチャイムを鳴らした。

 しばらくすると、渚が慌てて玄関から飛び出して来た。


「よっ……よぅ」

「よぅ、じゃないよ!ずっと連絡くれないから私、凄く心配したんだよ!」

「ごっ、ゴメン……頭打って1日意識がなくって……」

「バカ、でもよかった………」


 渚の手は震えていた、自分だって逃げるのが精一杯だったって言うのに。不安にさせて申し訳ないという気持ちと同時に無事であった事にどこかホッとした。


 家に入ってすぐにソファにもたれ掛かりながら、棚に飾ってある1枚の写真立てを見つめた。そこに映っているのは幼い頃の自分とこげ茶色の髪をおさげにしている母親である一真いちま、その横にいるのは俺と同じ髪色に少しくせっ毛の目立つ父、エイカだ。


 父さんはかつて、レグルスのPSディバイダーであった。俺はそんな父さんに憧れていた、だから同じようにディバイダーになりたかった。だけど俺には叶わぬ夢、だと思っていた。俺にも出来た、俺の手で誰かを守る事が………









 ――――――――――――――


 翌日、俺は未だに考えながら昨日ゴーレムが現れた場所へと足を運んだ。たったあの数時間で街は惨状へと変わっていた。毎日、とまではいかないが10年前のあの日からずっとそうだ。

 ゴーレムに何時どこで襲われるか分からない恐怖を抱えながら1日を過ごしていく人を。誰もが当たり前を過ごせない、そんな事いいわけがない………!


 この状況を確認しにきたのか、沙織が後ろからやって来た。


「いつ見ても残酷よね。10年前からずっとこんな事ばかり起きてるんだから」

「なぁ、俺にも出来るのかな?父さんみたいに、お前らみたいに」

「それはアンタ次第でしょ?」

「そっか……だったら俺は――――――――――!」


 言葉を遮る様に地面が割れ、中からゴーレムが現れた。


「こんな時に……!で、アンタはどうするの?」

「俺は……こんな日々が続くなんて沢山だ!誰もが当たり前を過ごせる日々にしたい!その為に……戦う!」

「言ってくれるわね、じゃぁ今からお願い出来る?」


 沙織にある物を渡された。それはあの時手にしていた端末機の様な物で青色の物になっていた。


「それはディバイヴ・デバイス、これを使ってPSを纏うのよ!」

「なるほどな、よし……」


 覚悟は決めた、俺は戦う………大切なものを守る為に、当たり前の平和を取り戻す為に!!


 デバイスと一緒に渡された四角い形をした物IDブロックをデバイスの上に差し込むと同時にデバイスが青く発光した。


「後はこいつか……!!」


 デバイスの前面の赤いボタンを押すと同時に画面に『Divive・INディバイヴ・イン』の文字が流れ、全身が粒子に包まれ、どこからともなくアンバーリベリオンの装甲が現れ、全身に装着された。最初の時には装備されてなかった先端部分が鋭利に尖った青と白のシールドが左腕に装備されてた。


「よし………行くぞ!」


 迫るゴーレムにシールドを構えて様子を見る。肉体が粒子圧縮されたレッカは全体が黒く複数のモニターとパネルが展開された不思議な空間インナーフィールドに立っていた。どうやらこの場所でPSを操る様だ。画面には肩の中とシールドの中に『WEAPON PHOTON SABER武装 フォトンサーベル』と記されていた。


「肩とシールドに装備されてるフォトンサーベル……嘘だろ、コレしかないのかよ!?」


 不十分とも言える装備にレッカは頭を抱えて嘆く。そうも言ってられないと感じシールドから展開されたフォトンサーベルを取り出した。


「こんのおおおおおおおおおおおお!!」


 アンバーはゴーレムに接近しサーベルを振り下ろす。それを右腕でガードされ大きく口を開き食らわんばかりに顔を近づける。


「っぶね!やっぱそう簡単にうまくいきゃしないか………」


 アンバーは一旦後退し距離を取る。


「おかしいわね…あの時はあんな一瞬でゴーレムを倒してたのに」


 以前の戦闘と今回の戦闘でアンバーが若干ゴーレムに苦戦してる姿を見て沙織はどこか違和感を覚えていた。瞬時の判断で2体のゴーレムを倒した前の戦いに対して、今は戦いに慣れてないのが丸見えと言わんばかりだ。


「うぉっ!?これじゃまともに近づけやしねぇ……一体どうすりゃ……」


 拳を連続で叩きつけるゴーレムに対して、アンバーは避ける事しかできずにいた。何か策を練らねばとレッカはモニターを漁るようにしてスライドさせ、情報を集めている。


「ん、コレは……?」


 モニターに大きく『ARMED CHANGEアームドチェンジ』と書かれていた。それをタップすると姿が異なる2体のアンバーが映し出される。右側の1体は群青色を基調に上半身がガッシリしており、背中に酸素ボンベの様な物を背負い、如何にも水中戦で強そうな姿だ。


「この際何でもいい、こいつを試してやる!!」


『ARMED CHANGE』の右側の1体の方のモニターを叩く様にしてタップする。すると全身が粒子に包まれ瞬時にモニターと同じ姿のアンバーに変わった。『AQUA AMBERアクアアンバー』画面にはそう表記されていた。


「よし、これなら………!!」


 アクアアンバーに換装し、腕に装備されているグレネードランチャーをゴーレムに放った。


「ォォォォォォォォォ!!」


 雄たけびを上げながらゴーレムはそれを両腕で防いだが爆風でアンバーを見失った。その隙を突いて背後に回り、手から電磁ウィップを展開しゴーレムの身体を縛る。


「ウォォォォォォォ!!」


 ハンマー投げの応用で回転しながら、そのままゴーレムを投げ飛ばす。飛行能力を持たないのか、そのまま走り出し右手にエネルギーが収縮を開始し、ダークブルーに輝く。


「コイツでどうだあああああああ―――――――!!」


 ゴーレムに近づき、輝きを纏った拳を直撃させる。身体を貫通し纏った光を内部に放つ。


「オォォォォォォ!!」


 ゴーレムは全身から爆散した。拳を下ろしアンバーは空を見上げる。


「ハァ・……ハァ………やった、やったぞ!!」


 PSを解除し、レッカは勝利に喜ぶ。安心したのか尻もちを座るようにして座り込む。


「いやぁ、俺も無我夢中だったって言うか、でも……やれたんだなって」

「1体倒せたからって浮かれてるんじゃないわよ!全く」

「なっ!?お前って奴は昔っから……」

「まぁ、初めてにしては大したもんじゃない、ほら」


 レッカに向けて手を差し伸べた。その手を取り立ち上がって笑顔で答えた。


「っと……サンキュな」


 今日この日から俺はゴーレムと戦う事を決めた。この先どんな脅威が待ち受けているか分からない、それでも俺はやるさ。

父さんみたいに……みんなを守れる人に。


 


 


 To be continued…

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