第19話 お面
「ここが廃村って……、そんな訳ないでしょう。めちゃくちゃ盛大にお祭りやってますけど……」
「うーん、そうだよなあ。でも、この辺りに他に村なんてないはずだしなあ」
「とりあえず、少し様子を見に行きませんか?話を聞いてみれば何かしら分かるでしょう」
アビルくんの提案に賛成し、もう少し村まで近づいてみることにした。
しかし俺たちはすぐに、その祭りの異様さを目の当たりにすることになる。
村まで残り百メートルほどの地点で再び歩みを止める。
暗がりにぼんやりと浮かぶその村の、というか村人の様子が明らかにおかしかったからだ。
遠巻きからは分からなかったが、往来を行き交うすべての人々がその顔をお面で隠していたのだ。
ここからでは何のお面なのかはっきりと断定できないが、子供のように小さな人も、それを連れている人も、老人のように背が曲がっている人も、屋台を営む人も、ありとあらゆる人が様々な面を身に着けていることは間違いなかった。
その光景に気が付いた俺たちは、事前に練習でもしていたかのように素早く円陣を組み、小声で緊急会議を始めた。
「いやいやいや、どう見てもおかしいですよあれ。めちゃくちゃ怖いんですけど!多分あれですよ、お面を被ってる人は全員死んでるとか、そういうパターンですよ!絶対引き返した方がいいですよ!」
「落ち着けライト、妄想が飛躍しすぎだ!今から戻ってもバスも電車もないんだぞ。それに、参加者全員がお面をつける奇祭とか、恐らくそういう類のものだろう」
「ですけどこのまま村に入れば、お面をしてない僕たちは目立ちすぎちゃうかもしれませんねえ。田舎には過剰に排他的な集落もあると聞きますし、村の方々を刺激するのは危険かもしれません」
「なるほど……。でもそれならいい案があるぞ。ライト、ボクのリュックを貸してくれ」
「え?あ、はい」
俺が今にも張り裂けそうなリュックを地面に置くと、部長はその中に手を突っ込み、手探りに中身を漁り始める。
少しして「あった」と言いながら何かを引っ張り出した。
「……部長、なんですかそれ」
「なにって、見ればわかるだろう。お面だよ」
「いや、それはそうですけど……」
部長の手には、男児向け特撮ドラマ『仮面ドライバー』のお面が二つ、女児向けアニメ『パリキョア』のお面が一つあった。
「なるほど、たしかにこれを被れば村人の中に紛れることができますね」
「いやいや、無理でしょ!こんな派手なお面付けてる人いなかったし!」
「もとは山神様召喚の儀式に使う予定だったんだけどね。思わぬところで役に立ったな」
「あんた俺たちに何させるつもりだったんですか!?」
ダメだ。ボケが二人もいるとツッコミが圧倒的に供給不足だ。
最も、当の本人たちは至ってまじめな様子だけれども。
……いや、マジでこのお面をして村に入るつもりなのか?正気か?
「というわけで、はい、ライトの分」
部長はさも当然といったように、パリキョアのお面を俺に突き出した。
キョアピンクの感情のない巨大な眼が俺を無言で見つめる。
「……なんで俺がキョアピンクなんですか」
「だってボク、かっこいいほうがいいし」
「…………」
もうどうでも良くなった俺は、黙ってパリキョアのお面を装着した。
各々装着が完了したのを確認すると、俺たちは再び提灯の明かりに向かって、慎重に歩き始めた。
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