第13話 新入部員は転校生
数日後、部長の動きには特に変化はなく(それはそれで問題だけれど)部活動も休止したままだったのだが、ある日の昼休み、突然メールで本日放課後部室に集まるように言われた。
部長曰く「とんでもないことが起きた!」らしいのだが……、まあ、ろくでもないことなのは間違いないだろう。
◇
夕方のホームルームが終わり、俺はそのままオカルト研究部の部室へと向かう。
これまでと特に変化はないのだが、久しぶりに通る部室までの道のりは、なんだか新鮮なものに感じられた。
部室のドアノブをひねると、いつもと同じく既に鍵が開いている。
俺は部活があるときはほぼ毎回最速で部室に向かっているはずなのだが、なぜか毎回部長が先に部室にいるのだ。
実態はよくわからないが、俺の推測では部長は毎日放課のホームルームをさぼって先に教室を出ているのではないだろうかと予想している。
まあ、わざわざ俺が鍵を取りに行く必要がなくなるため助かってはいるのだが。
「失礼します」とほぼ自動で口から出る挨拶をしながら扉を開けると、そこにはいつもの定位置に座っている部長と、そして机を挟んだ対面、つまり普段俺が座っているところの近くにもう一つの影があった。
「おお、ライト!思ったより早かったね。久々の部活がそんなに楽しみだったのかい?」
「いや、そんなことは天地がひっくり返ってもないですけど。……そんなことより、その人は誰ですか?」
俺の視線の先。そこに居たのは見慣れない男子生徒の一人だった。
ごく平均的な俺よりも小柄な体格。
若干不健康そうな色白の肌にくりくりした目。
そして男にしては長い、校則すれすれの黒髪。
印象としては中性的、というよりもほぼ女子といっても過言ではないかもしれない。
実際、ズボンでなくスカートを履いていたら間違いなく女性だと勘違いしてしまうだろう。
「ふふふ、とんでもないこととは彼のことだよ。では、自己紹介してくれるかな」
部長がそう言うとその“とんでもないこと君”は音もなく立ち上がった。
「初めましてー。僕は
そして熊手 浴と名乗る少年は優雅に頭を下げた。
「転校生……?」
あ、そういえば今朝のホームルームで先生がそんなことを言っていた気がする。
アユリス様のせいで眠かったし、他クラスの話だったので真剣には聞いていなかったが。
「あなたがライト君ですねー。部長さんから色々と話を聞いていますよ」
アビルくんはにんまりと笑った。
「ちょっと部長。変なニックネームなんですから、あまり人に教えないでくださいよ。本名も教えてないのに」
「別にいいだろう。君の本名なんて誰も興味がないさ。というか、ボクも覚えてないしね」
まじかこいつ。
メッセージアプリの名前はちゃんと本名にしてあるはずなんだが。
そんな俺の戦慄を察そうともせず、部長は椅子で音を立てながら立ち上がり、両手をわざとらしく広げた。
「そういうわけで我がオカルト研究部も部員が三名となった!異世界転移に向けてこれからさらに邁進していこうじゃあないか!」
パチパチパチ。
呆れて沈黙する俺と対照的に、アビルくんは微笑みながら手を叩いている。
なんだか、こいつもかなり変わった奴だな……。
ただでさえ特級の変人が一人いるのに、先が思いやられる……。
「……そうだ!そういえば入部届をまだ提出してもらっていなかったね。今からボクが取りに行ってこよう」
「いえいえ。入部届なら僕が取りに行きますよー。部長さんの手を煩わせるわけにはいきません」
「遠慮しなくていい。アビルとライトは二人で親睦を深めると良い。同学年だし、仲良くして損はないだろう」
「部長さんがそこまで言われるなら、お言葉に甘えさせていただきましょうかね」
「うむ。では行ってくる」
そんな俺の横入りする余地のない会話を繰り広げた後、部長はさっさと部室の外へ出て行ってしまった。
初対面の人間と取り残された俺はとりあえず荷物を置いて、アビルくんと対面するようにさっきまで部長が座っていた席についた。
「……えーと。あー、それにしても転校初日からこの部活に入るなんてかなり珍しいね。そんなにオカルトが好きなの?」
と、柄にもなく世間話を振ってみた。
本来、知らない人と話すなんて俺の苦手分野ではあるのだが……。
俺の質問に対してアビルくんは愛想よく笑みを浮かべながら答えた。
「うーんと、別にそういうわけではないんですよねー。……というかライトさん、失礼ですが僕の苦手な臭いがしますね。最近神社とか行きました?」
予想外に失礼なコメントが帰ってきて驚いた。普通初対面の人間の体臭について言及するか?
というか神社ってなんだよ。線香の臭いでも制服についてるのか?
いや、別に神社で線香は焚くわけではないけれど。
「ごめん、そんなに臭かった?」
「いえいえ、別にライトさんがくさいというわけではありません。ただ僕個人として生理的に不快なにおいがする、というだけです」
「それ、くさいって言ってるようなものじゃ……」
ダメだ。数少ない部員同士仲良くしようと頑張ったが、仲良くできないかもしれない。
なんで俺の身の回りにはこんな変わった人ばかり集まるのだろう。
俺の体臭が本当にキツイという可能性もなくはないが……。
もしかして部長も、口に出さないだけでそう思っていたのか。
「そんなに落ち込まないでくださいよ。そうだ。話を戻して、僕がこのオカルト研究部に入った理由説明しましょうか」
「あ、はい……」
もうすでにそんな話はどうでもいいのだけれど。
というより最初からそこまで興味があったわけではない。
「それはですねー」
無関心な俺と対照的に、アビルくんはいまからとてつもなく面白いことを言うぞ、と言わんばかりにニヤニヤし始めた。
気の抜けた喋り方と相まって、なんか気味が悪いなこいつ。
早くも俺か彼への好感度は底をつきそうなのでそんなにもったいぶった話し方をしなくてもいいのに。
少しためがあった後、アビルくんはようやく口を開き、囁くようにこう言った。
「部長さんとライトさんを恋人同士にするため、ですよ」
「……は?」
は?だった。
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