英雄と巨悪。

※シナリオ『英雄と巨悪。』の原作です。


無意味?

おいおい、早合点しないで欲しいね。

決断の早さは君の良いところではあるけれどさ。

僕は君の行動を無意味だなんて言っていないよ。

そんなひどいことは言わない。

だって君はあんなにも頑張って行動したんだ。

あまり得意ではないのに頭を使って行動した。

世界を救うため巨悪であるこの僕に立ち向かい、弱き者を救った。

君は賞賛されるに足るだけの価値を生み出し君は為すべきと思ったことを為した。

そうだろう?

だから意味はあったさ。

そう、たとえその結果引き起こされたのが多大なる犠牲と混迷、そして既存の社会の滅亡だとしても。

僕はその行動を無意味だなんて言わないよ。

君のやってきたことは無為でも無価値でもない。

君は悪の先導者という船頭を、或いは悪意ある扇動者という船員を殺したことで船が座礁するリスクを考えなかった。

必要悪と言うんじゃないけれど、圧倒的な捕食者もまた循環の一部なのだからね。

それを失った生態系はどうなるか。

下位の捕食者は上位の抑制を失い無秩序に増殖した。

被食者は滅び、やがて彼らの中で奪い合いが生じるが、それらも遠くないうちに滅ぶだろう。

身に余る正義感で均衡を崩し世界を崩壊に導いた君を、僕は責めないよ。

無意味だとも無価値だとも無為だとも言わないさ。

ただ君は無謀だったのさ。

それでも僕はそんな君に賞賛を送るよ。

おめでとう。

君は誰にも為し得なかった、偉業。

世界の破滅を見事成し遂げた。

それはとても意味のあることじゃないか。

おいおい。何を俯いてるんだい?

君が直接手を下した悪人も。

間接的に根絶やしにした弱者も。

でなきゃ無駄死にになってしまうよ?

意味も価値も秩序も。

失ったのならこれから作れば良いのさ。

それが君のこれから為すことだと僕は思うけれどね。

顔を上げなよ? 英雄。

まっさらになった世界に、これから君は新たな世界を作るんじゃないか。

さぁ、この僕の手をとって。

君と僕となら神にだってなれるさ。

英雄と巨悪ならね。

それがきっと、僕ら善と悪の本当の意味なんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る