比翼の勇者。
僕らは双子の勇者だった。
魔王によって混迷に沈んだ世界に再び光をもたらす為、知恵と勇気を以て戦う一対の救世主。
片や比類なき剣技と豪胆な戦術で如何なる逆境も覆し人々に希望をもたらす、聖なる剣に選ばれし剣の勇者。
片や絶大なる魔法と精緻な戦略で如何なる窮地も脱し人々の絶望を打ち払う、深淵の魔力に愛されし魔法の勇者。
かつてそんな風に呼ばれ、双璧のように語られることもあった僕らだが、そうでなかったことを知っている。
兄さんは聖剣に選ばれ、僕は魔力に愛された?
いいや、違う。
魔力に愛されながら聖剣だけを選んだのだ。
兄さんが。
僕は知っている。
兄さんは聖剣と魔法を携える真の救世主になりえ、そうだったなら今頃世界は救われている。
なのに剣の勇者に甘んじたのは、生来虚弱な僕を勇者にするためで、魔力を宿さなければ僕はとうに死んでいた。
深淵により生かされる屍の勇者。それが僕。
兄さんは世界を救う宿命を背負った勇者である前に、生まれながらに死の宿命を抱えた憐れな弟を救った僕の勇者なのだ。
並び立てる訳がもない。
たがら兄さんの勇気に報いる為、償いとして深淵に身を捧げ、全てをかけて僕は知恵を巡らせた。
兄さんの守ろうとした世界を救う。
それが僕の存在理由だった。
なのに、兄さんは死んだ。
あり得ない。兄さんは死なない。
僕が死んだとしても兄さんだけは死なない。
死なせてはいけない。
けれど、兄さんは死んだ。
仲間に裏切られたのだ。
兄さんは裏切りに気付いた上で、殺された。
愛する者を人質にとられていたその仲間のために殺された。
兄さんらしい死だ。
僕にはそれが誇らしく、けれど妬ましく、虚しかった。
遺された僕に残されたのは世界を救う宿命と兄さんに救われた命。
だから遺志を継ぎ、兄さんのように世界を救いたい。
そう思った。
でも僕は兄さんのようには救えない。この救いようの無い世界を。
拒絶する聖剣で、兄さんが救った裏切り者を人質もろとも切り刻み、深淵の魔法で全てを滅却した僕にはきっと。
いいや、救いたくない。
兄さんがいないなら僕は勇者ではない。
魔王によって混迷に沈んだ世界。知恵と勇気は失われ、もたらす光はもう無くて、欠けて砕けて深淵に。
そんな僕らは双子の勇者だった。
今は、果たしてなんだろう?
纏う魔力も聖剣も、兄さんのようには導いてくれなかった。
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