勇者のライバル。
今、勇者と呼ばれ、世界を救うために戦っているあいつは、かつて俺のライバルだった。
同じ村で共に育った親友で、強くなろうと夢見て競い合うライバル。
裏山の洞窟を冒険したり、幼馴染みの女の子もとりあったっけ。
そんな思い出の日々をお前は憶えているだろうか?
そしてあの日を、憶えているか?
村を襲った盗賊団を、二人で力合わせて撃退したあの日のことを。
俺がお前を庇って片眼と片腕を失い、覚醒したお前が勇者となって旅立っていったあの日のことを。
俺は忘れもしない。あの光景を。
お前は勇者で、俺はただの村人だった。
それを思い知ったあの日のことを。
でも、お前は忘れてしまったかもな。
たかが自分の生まれ育った辺境の小さな小さな村のことなんて。
今、絶世の美女といわれる亡国のお姫様を連れてるお前は、いつか俺ととりあった、村で一番かわいいくらいの幼馴染みなんて忘れてしまっただろう?
今、神童と呼ばれる賢者を連れているお前は、いつかお前を庇って右目眼と右腕を失った愚かなだけが取り柄の男のことなんて忘れてしまっただろう?
お前の世界は広がり、俺たちは置いていかれた。
あの時、無理にでもお前についていけば何かが変わったのか?
そう思うこともある。
けれど答えはそう。何も変わらない。
ただ俺は道中で死に、お前はそれを乗り越えて強くなる。
それだけなのだ。
かつての勇者のライバルだった俺は、今はもう、何者でもない。
だから、
だから、再びお前に並び立つために、村を訪れたあの御方から力を頂いたことは果たして責められることだろうか?
ああ、そうだろう。
人の道を外れ、それはもうライバルではなく、純然たる敵として、お前の前に立ちはだかろうというのだから。
なぁ、勇者。
たとえ、お前にどう思われようと、俺は嬉しいのだ。
昔みたいに、また、競い合い、そして殺し合おう。
は、ははは、ははははははは!
ああ、早く会いたいな。勇者。
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