ドラゴンと孤独の王。
〈ノックの音〉
何者だ、扉を開けて姿を見せよ。
ふむ。その薄汚い身なり……旅の者か。
その奥の部屋に多少はマシな衣がある。
もとは使用人の物だかそれでもその薄汚いボロきれよりは幾分上等だろう。
おい。
何を呆けておる?
寒い。早く扉を閉めよ。
うつけが。
まぁ、余のためにここまで来たのだ。
褒めてつかわそう。苦しゅうない。
褒美として余に茶を淹れよ。
おい。
何を呆けておる?
喉が渇いた。早く茶を淹れよ。
たわけが。
なんだ、調理場はそこの廊下の突き当たりだ。
そんなことも分からんのか。
仕方のない愚物だ。ついてこい。
おい。
何を呆けておる?
遅い。早くついて参れ。
ぼんくらが。
しかし貴様随分薄汚れておるな。
何? 南の王どもに命令されてドラゴンを倒しに来た?
それで、倒したのか? ふむ。道中で眷族のオオトカゲに追い返されたと。ふはははは。であろうな。
あの忌まわしきドラゴンを仕留めるには貴様はいかにも貧弱だ。しかしそれはとんだ骨折り損よ、憐れな旅人。
……おい。
何を呆けておる。
着いたぞ。早くドアを開けんか。
とんまが。
おい貴様。余にそんな安物の茶を淹れるつもりか?
一番良いやつにせよ。ふむ。
下賎の者に違いなぞ分からぬか。
おい。
何を呆けておる。
貸してみよ。茶も満足に淹れられんのか。
のろまが。
見ているがいい。余が茶の淹れ方を教えてやる。
おい。
何を呆けておる。
そこの戸棚から茶請けを出してそこに座れ。
そして、旅人らしく余に旅の話を聞かせよ。
馬鹿者が。
しかし貴様穢らわしいな。
茶を飲んだら風呂に入れ。沸かしてある。
おい。
何を呆けておる。
宿や晩餐の心配でもしておるのか?
無論、余が用意してやる。部屋はいくらでもあるぞ。
阿呆が。
やはり行くというのか? ドラゴンを倒しに。
貴様、死ぬぞ?
それでも行くと言うか。ふむ。そうか。
ならば餞別だ。持っていけ。
何か、だと? 愚か者。
彼の者の心臓だ。言っただろう。骨折り損だと。
……おい。
何を呆けておる。
早く行かんか。そして、また来るが良い。
旅の者よ。
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