第9話 お別れ

次の日目が覚める隣に天使のような寝顔のなつちゃんがいて私の左腕を枕にしてすやすやと寝ていた。そして私の左腕はなつちゃんのよだれでべちゃべちゃになっていた。


「(まあ、なつちゃんのよだれならいっか♡)」


なつちゃんが起きないようになつちゃんの頭からそっと腕を外そうとしたけど、なつちゃんの腕がガッチリ私の背中に回されているせいで抜け出すことが出来ないことに気づいた。


う〜ん、今日は私の当番だから早く起きて朝ごはんの準備しないといけないんだけど………………こんな可愛い顔を見せられたら動かせるわけないじゃん。

うん! 無理! お母さんごめんね、お母さんのお腹よりなつちゃんの顔の方が重要度高いわ。


自分にそう言い聞かせて私は再び瞼を閉じた。



◇ ◇ ◇



「優奈ー、奈月ちゃーん、朝ごはんよー! 起きなさ〜い」


「うぅ〜ん………」


(目覚まし機能は壊れてる)目覚まし時計を見ると8時を指していた。

……………久しぶりにこんな遅くに起きたなぁ。


「なつちゃん、朝だよ。起きて〜」


少し強引に私の腕を枕にするなつちゃんから腕を引き剥がしてなつちゃんを起こし。なつちゃんの肩をポンポンと優しく叩くと


「うぅ〜ん………………ふわぁ〜………………お姉ちゃん、おはよぉ〜」


眠そうに目をこすりながらなつちゃんが顔を起こした。

寝てるなつちゃんも可愛いかったけど、寝起きで寝癖がついてるなつちゃんも可愛い♡


「朝ごはん出来てるって、リビング行こ?」


「……………ゆうお姉ちゃん、抱っこぉ〜」


「………………へ?」


なつちゃん、今、なんて………? 抱っこ??? 抱っこして欲しいって言った!?


困惑で固まっていると自分で何を言ったのか理解したのか、なつちゃんはボッと顔を赤くして


「……………っ! ご、ごめんなさい!ごめんなさい! 忘れて下さい!!」


手をブンブンしながら謝られた。

い、いやいや流石にね…………………10歳にもなって流石に抱っこしてなんて言わないよね、普通は。


……………ちょっと残念。


完全に目を覚ましたなつちゃんとリビングに向かうとエプロンを着たお母さんと七海さんが台所に立っていて、テーブルにはパン、目玉焼き、ハム、トマトのサラダ、ジャムが並んでいた。


「おはよう、優奈ちゃん。奈月が迷惑かけなかった?」


「はい大丈夫でした! 奈月ちゃん可愛かったです!!」


奈月ちゃんを後ろからぎゅっと抱きしめて正直な感想を言った。七海さんは「あらあら、仲良しね〜」と嬉しそうに微笑んでいた。


「優奈〜ラブラブなのは良いけど、襲わないのよ〜」


「おっ襲わないよ!!」


ま、まったくこの母親は何を言ってるのやら。言うとしてもせめて私と2人きりの時に言うでしょ!? なんで本人がいる前でそういう事言うかなぁ! もしお母さんのせいでなつちゃんにそういう知識を身につけちゃったらどうするのよ! 私はこの純粋無垢で何も知らない、真っ白ななつちゃんが可愛くて好きなのに!


「ゆうお姉ちゃん、おそうってなに〜?」


「うん〜? なつちゃんは知らなくて良い事だよ〜」


「え〜? 気になる〜!」


「ふふっなつちゃんがもう少し大きくなったら教えてあげる。それまでは我慢ね」


「む〜……………」


「さっ、せっかくのご飯が冷めちゃうから早く食べよ!」


ほっぺたを膨らませて拗ねるなつちゃんをなだめて朝ごはんを食べる。



◇ ◇ ◇



朝ご飯を食べ終えてパジャマから私服に着替えて、髪の毛を整えた。あとちょっとでここの家とお別れすることになる。そう考えるとちょっと………寂しい。


「優奈、お部屋にバイバイしてきたら?」


玄関の前に立ってボーッとしていると荷物を積み込んでいたお母さんが話しかけてきた。


「…………ううん、大丈夫。今戻っちゃったらきっと…………」


部屋に戻っちゃたらきっと戻れなくなっちゃう。


「ふふっそうね、じゃあお母さんと一緒にバイバイしましょう。せ〜の」


お母さんがそう言いながら私の右手を握って隣に立って


「「ありがとうございました」」

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