水母の行列

@seiboku99

「俄雨の午後」

雨粒が空を穿ち、雲をかき混ぜる。

水面がさざめくその様を、私は水底よりずっと深いところから見上げていた。


土の窪みやアスファルトの坂下に、緩く留まり自我を得た私は、日の光で蒸発するまで、束の間の生涯を送る。この雨はきっとすぐに晴れるだろうと、生まれ故郷の積乱雲を思い出しながら、驟雨の奏でる雨音に耳を傾けた。


雨が上がり、雲間から光が差す。

先程までの天候が嘘のように、晴れ渡った空が景色を青く染め上げる。

数羽の鳥が傍に留まり、羽をばたつかせた。波紋が広がり視界が歪む。文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、彼等には言葉が通じないこと、そもそも私は鳥と違って声を持たないことを、誰に教わるでもなく朧げに理解していた。


波の向こうにいる彼等の、つぶらな瞳と目が合う。あちらが何を考えているのか、私にはわからない。水浴びを終えた彼等が空に旅立つと、かつて私の一部であった雫が、太陽光を反射させ、眩しく光って散っていった。

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