第12話・僕(しもべ)
「て、テメェ? マコト?」
リョウたちも疑問形。
手を叩くだけで動きを止める。そんなことは現在進行形で最強の占い師である僕でもできない……というか才能の系統が違う。
不良は身動きが取れない理由も分からないまま、マコトを見ている。
「オラァマコトォ!」
リョウが声を張り上げる。
「俺様が特別にいいバイトを紹介してやるって言ったのに、そこのイカサマ師にそそのかされて警察呼びやがって!」
そう。リョウとマコトの因縁は、それ。
ぼくが学校の文化祭で占って、即その場で警察に電話して解決してやったヤクザ絡みの違法薬物売買事件。マコトに声をかけていたのがリョウと言うわけ。
「テメェのせいで俺様は高校退学になったんだ、どうしてくれるんだ、ァア⁉」
マコトは何も言わない。
普段ならこの時点で怯えきっていて、それでも僕に義理があるから逃げ出さずに巨体で僕を庇っているマコト。
そのマコトが、
マコト……だけど、マコトじゃない。
最強の占い師の勘が囁く。
これは……別物だ。
何か……次元の違う存在。
マコトは背を向けたまま、ゆっくりと動き出す。
そして、ユキとアヤを捕らえている不良の傍を通った。
次の瞬間。
拘束が解け、気付いた二人は慌てて僕の所に走ってきた。
「サキト君!」
「サキト様!」
「……何故、僕の所へ?」
僕は占いやそれに関わるものの知識や技術は豊富だが、残念ながら肉体的な能力は凡人並みでしかない。こういう乱闘直前の雰囲気で頼られてもどうにもならないことなど、この二人は知っているだろうに。肉体能力なら確実にマコトが上だ。それを認めないほど僕は狭量ではない。
そう言うと、二人は一瞬顔を見合わせた。
「だって、サキト様……」
「マコト君、怖かったんだもん……」
怖い?
マコトの見た目が怖いことなど、この二人は百も承知だろうに。
いや、見た目じゃないとすれば。
影を奪ったあの時、僕を見た、死神の目。
「……それは、これか?」
僕は「死」のカードを見せた。
二人は大きく頷く。
やはりそうか。
あの時僕が感じたのと同じ不吉な気配。それをこの二人も勘付いた。
「はんっ、人ひとり殴ったことのないマコトが、俺様を殴れるわけないだろ!」
マコトは何も言わず、ただリョウに近付く。
「は、はんっ、殴ってみろ、テメェ、俺様の後ろにはヤクザが……」
マコトはリョウの前に立つと。
すっと手を挙げ。
その額を軽く突いた。
「な……!」
「えっ?!」
僕と二人の女は絶句した。
リョウの額の数字が、「4」に変わっていた。
「な、なんだぁ?」
「数が減った……?」
やはりこの低能ども、この数字を特に何とも思ってなかったか。
これが寿命のタイマーだとは、思ってもいないのだろう。
だけど。
マコトが押して、数字が減った?
「時計台の針が動くだけでなく、私の
時計台で、今のこの町の支配者が告げたメッセージ。
……と、言うことは?
マコトは無言のまま、もう一度。
「3」。
「2」。
「な、何やってやがんだ、テメェら、こいつ、俺様に何して……?!」
「1」。
「やめてぇ!」
そこまで来て、ユキがヒステリックに叫んだ。
この数字が「0」になると死ぬ、ユキはそれを思い出したんだろう。
だが、マコトは。
「0」。
ユキがひゅっと息を飲みこんだ。
リョウが唐突に白目をむいた。
「ガッ」
小さく呻いて。
仰向けにリョウは倒れた。
僕はリョウの額を確認した。
やはりだ。
「0」だった数字は「DEATH」に変わっている。
「マコト……貴様」
僕は振り向いてマコトを見た。
「この町の支配者とやらの……
「リョ、リョウさん!」
「マコトぉ、何やった!」
「ここで殺してやってもいいんだぞ! いやだったら俺たちを解放しろ!」
まったく、低能だ。
リョウが死んだことにも、マコトが異様な力を持っていることにも思い至っていなくて、その上自分たちの立場も分かってない。
……それを教えてやる義理も、僕にはないんだが。
「す、数字が」
ユキが過呼吸に近い状態になりながら言う。
「数字が「0」になったら、死んじゃうの……死ぬの!」
「はあ?」
「おい女、お前、下手な嘘ついてんじゃねーぞ」
「本当なの! 最初に鳴った鐘で、「1」だったお爺さんが「0」になって死んだ!」
「そ、そう言えば」
不良の一人が声を上ずらせる。
「あの鐘が鳴った時、オレたちの数字、減ったよ……な?」
「そうよ、鐘の音と同時に数字が減って、「0」で死んじゃう! わたしも、サキト君も見た! お爺さんが死ぬところをみとった! それまで全然元気で文句ばっかり言ってたのに……!」
「そして、こいつも死んだ、か」
死者を生き返らせるのは占い師の商売じゃない。僕は額に「DEATH」と刻まれたリョウの手を離した。完全に生命反応は途絶えている。額の通り、「死」だ。
「マコト、もう一度聞く」
僕は、マコトに問うた。
「貴様、この町の今の支配者の、僕……だな?」
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