第11話・不良ども

「おう、厨二病のイカサマ師」


 底辺、低能、馬鹿、無能、非力、駄目、能無し、非才、無力、なまくら、他になんて言う言葉が僕たちを取り囲んでいる十一人を言い表せるだろう?


 金髪に染め上げた髪。ヤニで黄色くなった歯。不健康な顔色。低能は低能でもマコトやハルとは別口の、ただしく不良と言える連中だ。


 特にこいつらは、僕に勝手に怨みを抱いている。僕の邪魔や妨害をするのを至上の楽しみとしている。


 その中でも一番金髪で一番黄色い歯をして一番顔色の良くないのが、こいつらのリーダー。大内おおうちりょう


「この事態がお前がやったのか?」


 リョウがニヤニヤ笑いながら聞いてくる。


「ふん、低能が」


「てめっ……!」


 気色ばむ手下を押さえて、リョウが口を開く。


「テメェ、イカサマ師なんだろ? こんな町を巻き込む壮大なイカサマして、何しようと思ってんだ?」


 威嚇するしか能のないでくのぼうめ。


 鼻先で笑ってやる。


「……低能には分からないか」


「なっ……!」


「僕は占い師。未来を読む力を持っていても、異常事態を町に引き起こすことは出来ない。そう言うことをやるのは魔術師や預言者というんだ」


「んなもんはどうでもいいんだよ」


 指をパキパキ鳴らしながら、リョウは寄ってくる。


「町が大混乱になっているこんな時なら、クソ生意気なお前をボコっても誰も来ねーと思ってな!」


 額の数字は……5。


 周りの手下どもも3から7。二桁は誰一人としていない。


 数字の大きさと低能具合は比例するんだろうか。


 そして数字の大きさの意味が分かっているのだろうか。


 分かってないな。こいつらの低能具合は半端じゃないから。


 そして僕が分からせてやる気もない。そんな筋合いはない。


「行くぞ」


 ユキとアヤに声をかけて、僕はリョウたちに背を向けた。


「逃げるってことは、オレたちに殴られるとヤバいからかな?」


 ニヤニヤのリョウの声に不快感が増す。


「殴られれば誰だってヤバいだろう」


 当たり前のこと聞くな、馬鹿が。


「事態をお前らが起こしたってんなら、ここでお前らボコって、オレたちは英雄になれるな?」


 馬鹿が。僕たちを殴って何もなければ、お前らは時計台の鐘が鳴る度にカウントダウンされて死ぬんだよ。お前らの数字は残り寿命が少ないってのを意味してるんだよ。


「行くぞ」


 もうすぐ死んでしまう低能を相手にしている暇はない。額の数字の意味を言っても、理解はしないだろう。誰かが死んで、やっと気付いてパニックになる図が見える。


「ちょっ」


「サキト様っ」


 振り向くと、ユキとアヤが不良どもに手を掴まれていた。


「お前の女どもだろ?」


 リョウは嫌らしい笑みを浮かべる。


「こいつらを寄越すなら、ボコるだけで許してやる。寄越さないと言うんなら、死ぬまでボコる。お前には商売を邪魔された怨みがあるからな。お前の商売が成り立ってこっちの商売がオシャカにされるってのは不公平だろう」


「何が商売だ犯罪者」


 思ったものをそのまま口に出してしまった。


「死にてェってんだな?」


 リョウが凶悪な笑みを浮かべる。


 クソ、失敗した。


 交渉失敗だ。僕の頭脳を理解できない低能と話していると必ずこうなる。


 低能は図星を突かれると勝手に怒りだす習性を持っている。


 マコトがいれば、こいつら全員殴り黙らせて終わったのに。


「ボコボコにしてひん剥いて放り出してやれ!」


 不良どもが一斉に襲いかかってくる。


 クソ、クソ、クソ! 一番必要な時に一番必要なヤツがいないなんて!


 逃げるか? 勝手についてきた女二人、見捨てて逃げるか? いやそんなことをすれば他の低能どもの信頼を失う。だがこいつらにも言った通りぼくは占い師であって魔術師でも預言者でもない。未来を読むという奇跡は起こせても天変地異を起こす奇跡は起こせないのだ。


 どうする?


 僕の頭脳でもこの窮地を乗り切る案は出てこない。そもそも今のぼくには圧倒的に駒が足りず、そして足手まといがいる。役に立たないくせに見捨てれば僕の名誉に傷をつける足手まといが。


 占っている暇もない。災いは全力疾走で襲いかかってくる。クソ、何で僕が、こんなどうにもならない低能に殴られなきゃいけないんだ。クソ、クソ、クソ。


 歯を食いしばって何とかこの天才的頭脳でこの場を切り抜ける方法を考えるが、時間がなさすぎる!


 胸倉をつかまれる感触。


 こんな低能に! 僕が! 殴られる! なんて!


「まずは一発……!」


  バキ!


 派手な音がして、僕は反射的に歯を食いしばって、それから自分の行動の愚かさに気付いた。


 僕が殴られたなら衝撃が来てるだろ! 音だけ! 誰か別のヤツが殴られたかしたんだ!


 僕は現状を把握するために、思わず閉じてしまっていた目を開く。


 大きな背中が目の前にあった


 紛れもなく、こういう時に一番役に立つ下僕のもの。


「マコト……?」


 高校生とは思えないほど巨大な背中が、そのまま進んでユキとアヤを掴んでいる不良に向かって行く。


「やれ! やっちまえ!」


 リョウの叫びに不良たちが大声を上げて襲いかかる。


 その拳を、今まで見たことがない軽やかな……実体のないもののように避ける。


 そして、パン! と手を叩くような音がする。


 マコトはまたも異能を発揮した。


 僕の影を取り上げるだけでなく、不良たち全員の動きを、手を叩くだけで止めたのだ。

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