第10話・「剣の王」
ハルの乱入で乱れたタロットを、勘に任せて掴む。
「剣の王」。
じっと見つめる。
すぐにカードが表す人物が思い浮かんだ。
やっぱり、自分に関わることは占える。アヤに働かなかったインスピレーションが良く閃く。
僕の関係者でそれに当てはまる人物。
……あの男しかいない。
「何を占ったんですか? スプレッドも使わなかったようですけど」
小首を傾げて聞いてくるアヤに、僕はカードを見せてやった。
「「剣の王」?」
「僕が事件を解決するために必要な人物を示している」
「どんな人物なんでしょう?」
「「剣の王」は「冷徹な正義感や理性ある大人の男性」を表す」
「「剣の王」……厳しい男性……?」
「恐らくは、僕の父だ」
「お父様、ですか?」
「父は刑事だ」
その一言で、アヤは納得したらしい。
「私はてっきりサキト様のお母様だと思っていたのですが……?」
僕を唯一超える占い師が出なかったのが不思議なのだろう。
「いや、違う。僕の母なら恐らく「剣の女王」が出る。王が出た時点で、僕に近しい年配の男性になる。そしてカードになるほどにはっきりとその特性を宿している……父以外にあり得ない」
正式な手順を踏んで占ったわけではない。意味を知るためにはもう一度占わなきゃいけないが、今はその時間が惜しい。
「これからどうするの?」
「この事件を解くカギは父だと分かった。なら、連れてこなければならないだろう」
「一緒に行く」
「はあ?」
「だから、一緒に行くって言ったの」
「邪魔だ」
「情報を集めるっていうのはタロットで占うだけじゃないよね。人から話を聞くのもあるよね。でも」
ユキは真っ直ぐ僕の顔を見る。
「サキト君に人の話が聞けると思う?」
ユキのくせに、生意気な言葉を……!
「わ、私も御一緒します」
アヤが加わってきた。
「先生のお役に立ちたいんです! 先生は私と家族を何度も救ってくださいました。私がここにいるのは、先生のお陰ですから!」
……どう考えても足手まといになる未来しか見えないが。
だが、ボディーガードもいない状態で今この町を歩き回るほど僕も無謀じゃない。
「役に立つというなら、マコト以上の役に立ってもらうぞ」
「もちろんです!」
アヤが輝く目で言う。そうだ、これこそが僕に向けられるべき視線だ。僕を見るのに最もふさわしい視線だ。
この事件を解決したら、この目で僕を見る人間はもっと増えるだろう。
その為にも、この事件を解決しなければ。
◇ ◇ ◇
「先生、どちらへ……」
サロンの従業員が、二人を連れて外へ出ようとする僕に声をかけてきた。
「この事件を解決するために行く」
「えっ! 危ないですよ!」
「そうだな、おまけに人死にも出ている」
「え」
絶句した従業員。こいつも馬鹿だ。
「だからこそ僕の力が必要とされている。今この町を戻せるのは僕しかいない。だから行く。邪魔をするな」
「さ……さすが先生!」
僕は立場は一介のアルバイトだが、このサロン内ではほぼナンバーワンにいる。僕が上に立つのを許しているのは母だけだ。
母以外に僕を超える者はいない。
だが今日、母はサロン「方位磁針」の二号店の出店場所を探すために町外に行っている。つまりサロンで僕の邪魔をできる者はいない。
「怖ければ入り口を封鎖して侵入者がいないよう見張るんだな。その程度なら出来るだろう」
「は、はい! そう致します!」
従業員はわたわたと部屋を出て行く。
出た外は、確実にさっきより暗くなっている。
何やら叫びながら走り回る連中や地面にうずくまる馬鹿、時計塔を見ながらきょろきょろする低能。
そろそろ二度目の鐘が鳴る頃か?
「警察署に行くの?」
「ああ。この事態であっちも混乱しているだろうが、警察の力を使うためにも何としても父を捕まえて力を貸してもらわなければいけない」
町はそこそこ広いので足が欲しいところだが、この騒動の中生きている公共交通機関はないだろう。日本でなければ暴動の一つや二つ起こっていて当然の状況、車が欲しい。
自転車はダメだ、いざという時命を守れない。危険が増す。
それに緊急車両なら何処へ行っても問題がない。
ここから警察署まではそこそこあるが、歩いていけない距離ではない。警察署で父と足を確保するのが最優先。
「さすがはサキト様、深いお考えですわ!」
アヤがキラキラした目で僕を讃える。
「自転車があればいいんだけど、サキト君乗れないもんね」
僕の視線を受けたユキが、慌てて目を反らす。
「じ、自転車に乗れない程度でサキト様の偉大さは変わりませんわ!」
「…………」
「あんな危険な移動方法、この異常事態の中では乗っているほうが危ないです! サキト様に相応しいのは黒いフェラーリですけど……この際パトカーでも構いません、安全に移動できるなら!」
「じゃあ、それを手に入れに行こう」
「何を手に入れるってェ?」
何処かネバついた、厭味ったらしい声が聞こえた。
その声は。
「サキト君」
「無視だ、さっさと行く」
「無茶よ、だって」
時計塔を見ながら歩いていた僕を、ユキが手を取って止めた。
「囲まれてるもの」
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