第9話・ハルの怒り
なのに裏切った。
僕から占いの力と影を奪って陰り続ける町に消えた。
許すものか。
僕の固い意思を無視して、ユキがハルに聞いている。
「ハル君はどうしてマコト君を探してるの? ここ数日休んでるけど……風邪とかじゃないの?」
「風邪じゃねーよ。消えた。姿を
「家出とか?」
「分からねー。財布とかスマホとか全部部屋に置きっぱ、部屋にいる時のまんま、本人だけ消えたんだ。おふくろさんはあの性格だから少しすれば帰ってくるって気にしてないけど、妹さんが、何かあったんじゃねーかって心配してオレに頼みに来て、捜している時にこの有様だ」
引かれたカーテンから少しずつ明るさを失う町を見て目を細めるハル。
「占部、ホントにテメーじゃねーんだな?」
「少なくとも、さっき言ったことに嘘はない。このカードに賭けてもいい」
ハルは僕を睨みつけていたが、舌打ちして目を反らした。
「テメーがその札に賭けるんなら間違いねーんだろ」
ふん。底辺に生きる小物は小物なりに考えているな。
「だけどよー、何でマコトは消えた? さっきまでいたんだろ? テメェのボディーガードとやらにクソ真面目に取り組んでるあいつが、それを捨てて逃げるなんてありえねーだろーがよ」
「盗んだんだよ、ヤツは」
「はぁ?!」
「僕の他人を占う能力と影を盗んでいったんだよ。それを取り戻さなければならないから貴様を待っていた」
「はぁ??! テメー、ふざけんじゃねえ! テメーじゃあるまいしマコトはそんな真似しねーしできねー!」
「ちょっとサキト君! ハル君も落ち着いて! 説明するから!」
「底辺に教えることも教わることも出来ないと思うがな」
「サキト様、ここは彼女に任せた方が……」
アヤがやんわりと僕とハルの間に入って来た。
僕は高位の存在だが、その弊害として底辺と話が合わないというのがある。特に興奮したハルなどこちらの言葉を聞こうともせずこちらに言葉をぶつけて来るだけだから話にならない。
ユキやアヤのような、僕の偉大さを少しでも知っている人間なら、少し考えれば分かることもあるが。
「ハルくんには信じられないわよね、でも、そうとしか思えないことがあったの」
「そうってなんだよ!」
「地震から日蝕の起きた時、サキト君の影は薄くなってた。理由は分からない。ただ、完璧になくなってはいなかったの。でもマコト君が来て、占っている途中のサキト君の足元にしゃがみこんで、何かを掴んだ。何を掴んだかは分からなかった。けど、その直後、サキト君は他の人を占えなくなって、そして影が消えたのよ」
「影が消えるってンなこと」
吐き出したい言葉を無理やりに飲み込んだせいでイライラしている僕と僕の背をさすっているアヤの足元を見たハルの顔色が変わる。
「マジかよ、影、ねー……」
日蝕とは言えまだ太陽は十分明るい。隣のアヤの足元にははっきりと影が映っていて、僕には……ない。
「この影がないのがどういう状態を表すのかは分からないが、他者を占う力と影がなくなったのは同時で、その前にマコトが僕の足元にしゃがみこんで何かを持って、外へ出て、そのまま消えた。ヤツが何かしたのはほぼ確定だ」
「確定? でも何でだ。テメーの影持ってって、何をしようってんだよマコトは」
「知っていれば苦労はしない」
相変わらずの底辺めが。
「ただ、町をこの状態にした何者かと関わりはあるだろうがな」
「マコトが町をこんなふーにしたって言いてーのか!」
さすがは底辺だ。勝手に想像して勝手に瞬間沸騰して声を荒げる。
「関わりがある。可能性はある。この状況を動かすには、少しでも可能性があるものを調べなければならないだろうが」
「マコトを疑ってんだな、テメーは」
「この状態を解決するためには疑えるものは何でも疑う」
「テメー……!」
ハルは燃えるような目でこっちを睨んでくる。この底辺をカードが「火」の属性である「棒の少年」で表したのは正解だ。ただこの火は勝手に引火して勝手に炎上する。
「マコトみてーなヤツを疑うのは、最低最悪の人間だけだ。相変わらずテメーは最低最悪なんだな」
「最低最悪?」
ふん、と鼻で笑ってやった。
「その言葉で表現できるのは底辺の貴様らの方だろうが」
「チッ、少しでもテメーの変な力に頼ろうと思ったオレがバカだったぜ」
ハルが背を向ける。
「ハル君?!」
「せーぜー町中の人間全員疑ってろ! オレはマコトを見つけて元の世界に戻る!」
ハルはいったん閉じられた扉を叩き開けて、足を踏み鳴らしながら出て行った。
◇ ◇ ◇
「どうするのよサキト君!」
ユキが声を荒げる。
「ハル君がマコト君と仲いいのは知ってるでしょ?! ハル君と一緒なら、マコト君のいそうな場所とか分かったはずじゃない!」
「チッ」
失われるってのはこう言うことか。底辺過ぎて僕の話が分からず去っていくハル。僕の傍に居れば未来が分かるという特権に
だが。
「必要なキーマンが失われたなら、別のキーマンを探すまでだ」
僕はカードをクロスの上に広げた。
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