第6話・やってきた常連
もう一度シャッフルして、スリーカード・スプレッドで占う。
これから僕の身に起きること。僕の未来に謎の支配者とやらが関わってくるのは当然。何故なら、今この町で最も優秀なのは僕だからだ。
謎の支配者の存在をしっかりつかんでいない今、支配者自信を占うのは好手とは言えない。僕の未来に関わってくる支配者の尻尾を捕まえて、そこを詰めなければ。
僕自身の未来は地震前に占ったが、現状がここまで変化したのだし、今から占うのはこの状況が僕にどう関わってくるかだ。問題はない。
「過去」のカードを開く。
「塔」の逆位置。自分の信じていたものの崩壊でショックを受けている。
……まあ、そうだな。僕は占う力があっても神秘を現実にもたらすことは出来ない。誰にもできないと、そう思っていた。この事態が起きる前までは。
支配者は、この町を手にしている。町を現実から引きはがし、日蝕を起こし、町の住民の寿命を握る。
……僕にはこれが出来ない。
腹立たしいが、それが現実だ。
それをこの逆位置の「塔」が示しているんだろう。
……だけど、それだけじゃない気もする。
信じていたもの……占い?
とりあえず過去から気持ちを引き離し、次に進む。
「現在」は?
「力」の逆位置。
……また分からないものが。
これが意味するのは、自分の欲望や感情をコントロールできなくなり、無気力や人任せにしてしまう。
これは僕のことを占ったのだから、僕に起きること、と読むのが妥当だろう。
だけど、僕が僕を制御できなくなる? 誰かに任せる?
在り得ない。
だけど、カードはそれを示している。
いや、最後のカードを見れば。
「未来」は……またか。「月」の逆位置。現実逃避の象徴。
三枚のカードを睨みつける。
特に「力」の逆位置が気になる。
「力」の意味するのは、精神力。逆位置でそれが失われることが意味される。
精神力とは、占いに必要なもの。現実から目を反らさず、真正面から不吉な未来を受け止める。
精神力が失われる……いや……。
占う力を、失う……?
まさか。
落ち付け僕。何を異常事態に惑わされているんだ。僕から、この僕から占う力が失われるなんて在り得ない。
事実、今自分を占っているんだ。こうやってインスピレーションも働いている。
馬鹿な。お笑い
その時。
コンコン、とドアが外からノックされた。
「サキト様、いらっしゃる?」
聞き慣れた、女の声。
マコトのヤツ、外で見張ると言っておきながら、人を通したのか?
だが……まあこの声の主の来室を断るのは、よくない。
占い的な意味ではなく、商売的な意味で。
ユキをチラリとみる。困ったように僕とドアを交互に見ている女に、僕は低い声で言った。
「開けろ。声の主はお前にも分かっているだろう。彼女を断るのはいいことじゃない」
ユキは頷いて、ドアを開けた。
「サキト様、ご予約なしで来てごめんなさい」
茶髪のショートヘアに、洒落た色のスカーフ。薄化粧だけどはっきりとした顔立ちの美女。そして僕の知っている中では上位の
彼女は
四年前、彼女が高校生の頃からずっと僕の馴染み客だ。
占いを含むスピリチュアルが好きで、初めて占い師に占ってもらいにこの占いサロン「方位磁針」にやってきた。ちょうどサロンの占い師が全員仕事中で、経営者である僕の母がまだ中学生だった僕に「お代はいらないから」と占わせたのだ。
そして、僕は、彼女の父親の脳に異常がある、と読んだ。出来るだけ早く病院に行って診てもらったほうがいいと助言もした。
純真な彼女は中学生の占いをまともに信じて、父親を必死に説得、半ば強引に脳神経外科に受診させた。そこで初期の脳梗塞が見つかり、即手術。父親は助かり、家族全員で礼を言いに来た。
まだ幼くサロン所属でもない僕の占いを信じて父を救った彼女は、高校に入学してサロンでバイトとして占いを始めた僕の常連客になり、自分や家族に何かあれば僕に占ってもらいに来て、その度にサロンへの支払いの他に僕への個人的な礼をしてくる、僕が占う客の中でも一番僕を信じている存在だ。
「でもよかった、サキト様がここにいてくれて」
「僕はいつでもここにいますよ」
僕だって営業スマイルくらいはできる。
「この町の方でないのに、この事態に巻き込まれるとは」
そう、彼女は隣町の人間だ。ここ神野町はサロン「方位磁針」があるため、そこに来た客を取り込もうと天然石やスピリチュアルグッズを売る店が後押しで増えて、神野町はちょっとしたスピリチュアル・タウンになっている。だから彼女のようなスピリチュアル・ファンが結構お金を落としていく。
しかし、スピリチュアルが好きだとしても、こんな異常事態に巻き込まれることは歓迎しないだろう。
案の定アヤは苦笑した。
「……神野町だってのは家族も知ってます。サキト様がいらっしゃるからそれほど心配はしていないでしょう」
それで、とアヤは切り出した。
「この異常事態から私が生き残れるか。それを占ってもらいたいんです」
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