第5話・「死」
マコトは無表情で僕を見る。
「異常事態が発生したのでここに来ました」
ふん。拾ってやった底辺だが、学校を休んでいてもここに来るほど、僕の能力を分かっている。
それより、まず試してみたいことが。
マコトの額の数字は「29」。最大だ。
なら。
「僕の数字は言えるか」
マコトは口を開いた。
だが、音にならない。
「……ダメなようです」
最初から期待はしてなかった。こいつは僕のボディーガード。逆を言えば、僕を超える能力は肉体的なことに限られる。頭脳や魔術的な所では僕に遠く及ばないマコトが僕の数字を言えないことは最初から分かっていた。
「と言うか、サキト様なら占いで分からないのですか」
淡々と言うマコト。
ムカッと来た。
「貴様、ボディーガード如きが主人の能力を疑うと?」
「いいえ」
感情のない声。
「ただ、何故すぐに行動に移さないのかということは疑問に思いました」
僕は舌打ちして、パニックの町から占いサロンに戻った。
◇ ◇ ◇
占いサロンもまた、混乱の渦中にあった。
サロンに所属する占い師に、異変が起こるまで客だった人間が、今この状態から逃げ出せる方法を、と詰め寄っている。
まあ無理だろうがな。ここにいる程度の占い師では。
このサロンに留まってやっているのは、母が僕に与えた場所だから。現代に生きる占い師の中で僕が尊敬に値すると思うのは母以外にはない。だからだ。トップの座を母にねだって頂いた、と思っている占い師も過去にはいたが、占い勝負で黙らせ、追い出した。
僕はトップ。僕に占えないことはない。
それでも邪魔されると嫌なので、僕に与えられた占い室に入り、鍵をかける。ユキとマコトも入って来たが、まあ仕方がない、不安なのだろう、許してやろう。
ふと、机の上に残ったカードが一枚目にとまった。
全部集めたはずなのに。
僕ももう少し落ち着かなければならないな。
カードを手に取り、見る。
カードは。
黒い甲冑をまとい、白馬に乗り、白薔薇の旗を持ち、行進する骸骨。
……「死」。
一瞬心臓が跳ねる。
十三番目のカード。十三。古くから不吉と言われている数字。死神。ジジイに刻まれた「DEATH」の文字。
こくん、と二人に気付かれないように唾を飲み込む。
落ち着け僕。悟られるな。凡人に、高位の僕が怯えているのだと気付かれる。
小さく息を吸って、吐いて、そしてカードをシャッフルする。
この町がこうなった過去、現状、そしてこの未来を。それを僕は知り、その対応策を練らなければならない。
これこそが、僕が行く覇道を後押ししてくれる方法なのだから。
過去、現在、未来を見る、スリーカード・スプレッド。
三枚のカードをセットして、開こうとして……。
その時、マコトがしゃがみ込み、何かをつかむような仕草をした。
「なんだ」
「いえ」
マコトは立ち上がって、こっちを見た。
その目を見た一瞬を、どう表現すればいいだろうか。
虚ろな、感情のない目。「死」の骸骨の、目玉のない
それが僕を捕らえている……。
「ここにいても俺には意味がないので」
マコトは淡々と語った。
「外から乱入する人間がいないか、ガードしようと思います」
ああ、やはりこいつも焦っている。僕のカードに悪い結果が出たらと思って占う場面を見ることが出来ないんだろう。
「ユキ、開けてやれ」
この異常事態にここで立っているだけでも褒めてやらなければならないような顔をしたユキは頷いて、鍵を開けてマコトを出す。
マコトは真っ直ぐ外に出て行った。
「すぐに鍵をかけろ、これ以上占いを邪魔されたくない」
ユキはもう一度頷いて、内側から鍵をかけた。
カードを開く。
「過去」のカードは「隠者」の逆位置。
老人が一人雪道を歩く、正位置であれば自分の内側や精神的な成長を表す絵。
それが、逆位置。
これは……僕か?
頭の中の勘が「隠者」の逆位置を僕だと認識している。
過去に自分が目的を見失ったせいで、町がこうなった?
……僕は目的を見失ってはいない。僕のいる世界を僕のものにすると言うこと。その目的はずっと変わっていない。
僕じゃない……とすると、この町の謎の支配者を意味するのか? ならば、納得も行くが……僕だと思ったインスピレーションが気になる。
いや……「過去」一枚だけで原因を探ろうとするのは良くない。他のカードを見なければ。
「現在」のカードは「塔」。正位置。
町は破滅に向かい、それを変えることは出来ないという意味。
……だろうな。町民の寿命を縛る謎の支配者。今のままでは、その支配者の思う通りに愚者どもは動くだろう。その結果が破滅に到ると知ることもなく。
一番重要なのは三枚目。「未来」だ。
開く。
「月」の逆位置。
正位置では状況や心理状態の曖昧さ、不安定さ、不安。逆位置でもあまり意味の変わらない恐怖、錯覚や幻想を示すカード。
町が暗闇に包まれて崩壊していくことを暗示している。そして、その原因になった逆位置の「隠者」もまた、罪悪感や後悔から、現実逃避を計ると出た。
……謎の支配者、「私」か?
今町を支配している存在を示すなら、「皇帝」が出るべきだろう。なのに、影に隠れる助言者のような「隠者」が出た。
これは……誰だ?
助言者。占い師ならば間違いなくこのカードだ。
誰かが、あの謎の支配者の影にいて、助言しているのか?
だとすれば、それこそがこの町を現実から引きはがした張本人?
……分からない。
とにかく、「隠者」の逆位置が僕じゃないという証拠が見たい。
僕自身を占ってみよう。この非常事態で、僕がどう動くべきかを。
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