第2話 ロボット工学

 沙織は、社会人になって出会ったこの男性が、もう一人の予知能力を持った人に引き合わせることになることを言わなかった。

 本当は知っていたのに、言わなかったのか、それとも、本当に知らなかったのか。どちらにしても、出会うことになるその人のことを、沙織は予知していた。

 具体的にどのようにして出会うなどということは分からなかったが、漠然とした出会いを感じた。

――予知していたというよりも、予感があった――

 といった方が正解なのかも知れない。

 人との出会いに対して予感めいたものを持っているのは自分だけだと、沙織はずっと思っていた。しかし、

――自分に予知能力のようなものが備わっているからだ――

 と考えると、どこかに矛盾が存在することに気が付いた。

 人と出会うことは誰にでもあることであり、出会いに予感があるのだとすれば、相手は自分と出会うことに予感があったのだろうか?

 少なくとも沙織は予感は自分にだけ備わっているものだと思っていたということも、出会いを感じていたのは、自分だけだということになる。

 そうなると、優位性は自分にこそあり、

「出会いのための準備もできたであろうに」

 と感じるのだが、予感のあった出会いには、必ず、すぐに別れが訪れるというおまけが付いていた。

――やはり、自分の予知は、悪い方にしか働かないんだわ――

 と、またしても、感じさせられた。

 沙織は 予知能力を持ったこの男性と知り合うことを予知できなかった。

――ひょっとすると、予知能力を持った人との出会いで、初めてと言っていいほどの出会いになるのかも知れない――

 と思った。

 ただ、出会いに関しては、ハッキリ言って、第一印象は最悪だった。

 あれは、仕事で遅くなり、身体に重たさを感じながらの、帰宅途中のことであった。

 前の日に降った雨が、まだところどころに、その痕を残していた。

 舗装されていないところには、水溜りができていて、裏路地からのネオンサインが水面を照らしていた。

 普段は気にならないネオンサインも、足元から見えてくると、余計に身体の重たさを感じさせられる。

 仕事で遅くなった時は、裏路地を通ることにしている。裏路地といっても、明かりは眩しく、駅までの近道ということもあって、女性の一人歩きも珍しくはなかった。

 それでも、あまり遅い時間は危険であったが、まだ時間的にも午後八時にもなっていなかったので、危険はなかった。そろそろスナックなどが店を開け始める頃、人通りは中途半端に多かった。

 ネオンサインに照らされるかのように、一軒のスナックの前に一人の男性がうな垂れるように座り込んでいた。店の前の看板に明かりはなく、扉からは暗さしか感じることはできなかった。

――この店、やっていないのかしら?

 と思ったが、その男性がうな垂れているのを見ると、かなり前からそこにいるように思えてきた。

 店に用があって、誰かが来るのを待っているというよりも、

「どこでもいいから、身体を預けるところを探していた」

 と言った方が正解ではないかと思えてきた。

 それがこの、

「開いているのか閉まっているのか分からない不気味なスナック」

 の前だった。

「大丈夫ですか?」

 もし、この時、この男性と目が合わなければ声を掛けることなどなかっただろう。いや、もし目が合っていたとしても、すぐに目を逸らしていたに違いなかったはずなのに、声を掛けてしまうことになってしまったのは、目を逸らすことができなかったからだ。それまでずっとうな垂れていて、生きているか死んでいるか分からないほどに衰弱して見えた男性が、急に顔を上げてこちらを見つめたのだ。

 思わず身構えても遅かった。見上げられた時の目力は、うな垂れていた姿からは、想像もできないほどだった。

 沙織は男をそのままにしておくわけにはいかず、少しでも回復するのを待って、元気になったのを見届けてから、その場所を立ち去ろうと思った。そんな中途半端な状態にしておくことは、まず自分が納得しないと思ったからだ。

 最初は、本当に呼吸をしているのかと思うほどの衰弱ぶりだったが、次第に呼吸が荒くなってきた。普通なら荒くなってくる呼吸が心配になるのだが、この時は、呼吸をしているだけでも安心感があった。

 そのうちに呼吸が整ってくるに違いないことが分かったからだ。

 沙織の思った通り、呼吸が落ち着いてくると、それまで上げることのできなかった顔が少しずつ上向き加減になってくるのが分かった。彼の方でも沙織の存在が気になってきた証拠だろう。

 沙織は自分が彼に興味を持ち始めてきたことに気が付いた。

――元気になってくれれば、それでいいの――

 と思っていただけだったが、元気になってくるのが分かると、どうしてあの場所にいたのか、どうしてあんなに衰弱していたのかなど、興味が湧いてきた。

 それは彼に対しての感情というよりも、あくまでも興味本位。

――そのことを知ってどうする?

 という気持ちもあるが、ここまで来て何も知らないというのも、やはり中途半端である。この男に対して知れば知るほど中途半端な気持ちになってくるということを、この時にはまだ気が付いていなかった。

――本当は病院に連れていかなければいけないのかも知れない――

 と感じたが、彼の顔色を見る限り、病院に連れていくまではないような気がした。もちろん、自分の興味本位の気持ちが中途半端になってしまうことが分かっているからだが、

「病院、行かなくて大丈夫ですか?」

 と聞いてみたが、彼はそれを手で制した。それでも、もっと強くいうべきなのだろうが、それ以上しつこくする気はサラサラなかったのだ。

 首から上だけでも動かせるようになってからは、回復が早くなったような気がする。それまで微動だにしなかった身体を、少しずつでも動かそうとしているのが分かった。

 腰が持ち上がったのが分かると、

「どこか、喫茶店にでも行きましょうか?」

 と、声を掛けると、彼はすでに自由に動かせるようになった首から上をこちらに向けて、ニッコリとした表情を浮かべた。

――この顔、どこかで見たことがあるような――

 と、感じたが、思い出せない。

――他人の空似かも知れないわ――

 と、すぐに自分の感覚を否定し、すぐに笑顔を見せた沙織に対し、彼は何とか立ち上がろうとしていた。

「肩を貸しますよ」

「すみません」

 と、今まで貸したことのない肩を、見ず知らずの、しかも怪しげな男に貸す自分を、沙織は不思議で仕方がなかった。

「私は、このあたりはあまり知らないんですよ。どこかお店、ご存じですか?」

 まったく知らないわけではなかったが、この時間にどこかのお店に入ったことなどなかったので、とりあえず、彼がこのあたりを知っているのかどうかを探るという意味でも聞いてみた。

「じゃあ、私が案内します」

 と言って、彼のナビの元、ゆっくりと歩を進めた。まるで二人三脚のようで歩きにくかったが、却って店までの距離を感じないのではないかと感じていた。

――やっぱり、この人は、このあたりにゆかりのある人なんだわ――

 縁もゆかりもない人が、店の前で、まるで行き倒れのように倒れているというのは、あまり考えにくいことだった。

 最初は、カフェかファミレスのようなところに案内してくれるのだろうと思っていたが、彼が案内してくれたのは、昔からある純喫茶だった。

 店の雰囲気は、

――夜になると、スナックになるのではないか?

 と思えるような場所で、懐かしさというよりも、

――一度も来たことがないはずなのに、前から知っているような感じがする――

 というものだった。

 スナックには何度か行ったことがあるので、この店が夜になると、スナックになるのを想像して、

――前にも来たことがあるような――

 という感覚になったのかも知れない。

 そう思って、再度この男性の顔を見ると、またしても、

――前にも会ったことがあるような――

 と感じた。

 それは、この店に雰囲気があまりにもマッチしたように感じたからだ。

 店の雰囲気も、彼に対してもイメージとしては中途半端だったが、こうやってマッチしたのを感じてみると、彼が、スナックが似合う人であることが分かった。

 その時にさらに不思議な感覚が沙織にはあった。

 それは、自分が入ったことがないはずのスナックのカウンターの中から、店を見渡している光景が、瞼の裏に浮かんでいたことである。

――一体、どうしたというの?

 そう思って想像の中で、カウンターを見渡してみた。

 そうすると、目の前のこの男性が、背筋を若干丸めて、カウンターの一番奥に座っているのが見えた気がした。

 彼は、決して顔を上げようとしない。ちょうどさっきのうな垂れた表情をそのままに、カウンターのテーブルの上をじっと見つめている。

 沙織は、少しじれったい気分になった。

 他に客がいようがいまいが関係ない。沙織に見えているのは彼だけだったのだ。

――一体、この男性は何者?

 という気持ちが頭の中にあるのは間違いのないことなのだが、その気持ちよりも、彼に対してのじれったい気持ちが強くなっていて、自分が何を考えているのか分からなくなってきた。

――冷静に考えることができなくなる瞬間というのが、人にはある――

 ということを常々意識していた沙織だったが、今がその時であることを、なぜか意識できなかった。

 それだけ冷静でいなかった証拠ではあるが、

――冷静になれない時はどうすればいいのか?

 ということを前から考えたことがあったが、その時の感覚のまま、自分に従うことを決めていた沙織だった。

 その考えというのは、

――冷静になれない時は、その時に感じている自分の感覚を信じて、思ったままに突っ走るしかない――

 というものであった。

 冷静になれないのだから、いくら考えようとしても、結局は考えが堂々巡りを繰り返し、袋小路に入ってしまうしかないのだ。

「私は小池沙織って言います」

「俺は、河村義之って言います。先ほどは気に掛けてくださってありがとうございます。おかげで助かりました」

 そう言って、お冷を口に持っていって、少しだけ喉に流し込んでいた。その姿は、

――こんなにおいしそうに、お冷を飲むのを見るのは久しぶりな気がするわ――

 と感じるほどだった。

 お冷の一口で、さらに顔色が良くなってくるように思えるのは錯覚なのかどうか、自分でもよく分からなかった。

「河村さんは、どうしてあの場所に?」

「実は僕も、なぜあそこで倒れていたのか分からないんです」

「あの場所は、ご存じだったんですか?」

「ええ、あそこは知っています。でも、今日の行動に関しては、なぜ自分があそこにいたのか、そして、あんなに衰弱したようになっていたのかというのが、どうしても思い出せないんです」

「ついさっきのことですよ?」

「ええ、そうなんですよね。でも、あなたにも経験ありませんか? 急に目が覚めると、自分がどうしてそこにいるのか分からない時というのが」

「私には、あまりそんな経験はないですね」

「そうですか。俺の場合は、何度かあるんですよ。気が付けば、なぜか想像していなかった場所にいるんですよね。でも、その場所は知らない場所ではないし、しかも、目が覚めた時はいつもさっきのように憔悴しきったようになっていることが多いんです」

「失礼ですが、病院には?」

「一度だけ行ったことがあります。精神的なことではないかって言われましたけどね。あまり頻繁に起こるようなら、精神科の医者を紹介するとも言われました」

「精神科には行かれたんですか?」

「いえ、それはまだですね。行こうという意志はあるんですが、どうしても、病院の手前まで行って、どうしてもそこから先に進むことはできないんですよ。ここから先に進んでしまったら、戻ってこれないような気がしてですね」

 彼の気持ちが分からないわけではなかった。

 沙織には、似たような経験があるわけではないが、彼の話には、すべて納得できる気がした。

 それは、信じられる、信じられないという考えとは別にであるが、納得できてしまうことに対して、沙織はその納得に逆らうことはできなかった。

 沙織も、以前自分が精神科に行かなければいけないのではないかということを感じたことがあった。

 すぐにその状態は治ったのだが、それが躁鬱症への入り口だということに気付かされたのは、高校時代のことだった。

 それ以降、何度か躁鬱状態を繰り返したことがあったが、学校を卒業してからは、そんなことはなくなってきた。

――治ったのかしら?

 と思ったが、

「治ったわけではないわよ」

 という心の声を聞いた気がした。そして、さらに心の声は、

「あなたは、躁鬱症とこれからもずっと長い付き合いになるのよ。今はその準備期間のようなものなの」

 と言っていた。

 自分の中にもう一人自分がいて、自分に話しかけてくる。

 こんな恐ろしいことを想像してしまったのも、夢にもう一人の自分が出てきたからだ。

 もう一人の自分が、想像できっこない表情を浮かべ、こちらに睨みを利かせている。その睨みには笑みが含まれていることが怖いのだ。

 笑みは、睨みよりも恐ろしい時がある。

 そのことを知ったのは、夢でもう一人の自分を見たのが最初ではなかった。

――一体いつだったのだろう?

 と、思い起してみたが、

――そうだ、あの時――

 夢で見た時よりも、前だったという意識があったので、夢に見たのは、高校に入ってからなのかも知れない。

 その時というのは、中学時代、絵を描いていた時、ずっと一緒にいた香澄先生といる時のことだった。

 香澄先生と一緒に絵を描きに行った時、二人きりで山の中に入って行った。それまで寂しさや孤独が何たるかなど知らなかった沙織が、二人とはいえ、自然に抱かれた山の中にいることは自由とともに、恐怖を植え込まれたような気分にさせられた。

――頼れる人は香澄先生ただ一人――

 そう思っていた香澄先生の表情は、いつも冷静だった。

 笑顔を作っているのは分かるのだが、その中に引きつったような表情が浮かんでいた。

――どうしてなの?

 と、香澄先生に助けを求めるような表情をしたはずのその時、帰ってきた表情は、まさに笑みの中に感じた恐ろしさだった。

 その時初めて、沙織は、寂しさと孤独の違いを感じた。

――寂しさはないけど、孤独を感じる――

 それまで一人が怖いなどということを感じたことがなかったが、まさか慕っている相手から、恐怖を与えられるなど、思ってもいなかった。

――怖い――

 香澄先生に対して感じた恐怖は、それからしばらく消えなかったが、同じ恐怖をそれ以降感じることはなかった。香澄先生に対しても、他の人に対してもである。

――ここまでの怖い思いは、少々のことでは感じることはないはず――

 それ以降感じなかったのは、当然のことなのかも知れない。

 それでも、忘れる時は訪れた。

 忘れてしまったのか、記憶の奥に封印したのかは分からないが、沙織は自分では忘れてしまったと思っていた。そう思う方がいくらか楽だったが、実際には、自分では納得できていなかったことに、気付いていなかったのだ。

 だから、今回、彼の顔を見て恐怖を感じても、それは香澄先生に対しての想いとは違って、

「違う種類の恐怖だ」

 と思うようになっていた。

 義之の話は唐突なことが多かった。

「俺は、学生時代にアメリカに行っていたことがあるんだけど、その時に心理学について勉強していたことがあるんですよ」

「それはすごいです。留学されていたんですか?」

「はい、二年ほど、アトランタからすっと奥に入った田舎だったんですが、そこに通っていましたね。留学と言っても、田舎の大学ですから、勉強のための留学というほどではかたんですが」

「でも、私には難しくて分かりません」

 と沙織が言うと、

「そうですか? 沙織さんを見ていると、心理学に興味がありそうに見えますけど?」

 一瞬、心の奥を見透かされた気がした。

 しかし、すぐに冷静になって、

「そうですか? 難しいと思っているせいか、どうにも近づきがたいと思っているだけなのかも知れないとは思いますが、でもどうして、義之さんは私が心理学に興味を持っていると思われたんですか?」

「心理学というよりも、何か超常現象のようなものに興味があるように思えてですね。私が心理学という言葉を口にした時、自分の気持ちの中にある超常現象への思いと、心理学という言葉がシンクロしたんじゃないですか?」

 まさしくその通りだった。心理学という言葉を聞いた時、気持ちの中で何かに共鳴する気がしたが、それが何なのか分からなかった。

 いや、分からなかったわけではない。冷静になって考えれば、明らかなことであっても、普段から考えていることでなければ、発想が浮かんできたことに疑問を感じるのではないだろうか。それは否定ではない。自分な発想の中における

――浮かべなくてもいい発想――

 だと感じたことに違いない。

 沙織は時々、

――もっと、学生時代に勉強しておけばよかった――

 と思うことがある。

 この感情は、大学に入学する前に、よく耳にしていたことだ。親戚のお兄さんからも言われたことだったが、

「私は、そんな後悔しないわよ」

 と言ったが、自分が発した言葉の中でも、自分としては、かなりの確率で自信が持てる言葉だった。

 それがどうだろう。入学して半年もしないうちに、すっかり勉強するという気持ちは失せていた。

――こんなに楽しいことがたくさんあるなんて――

 それまでと一番大きな違いは、

「仲間がたくさんいること」

 だった。

 高校時代までは、友達といっても、皆受験を控えていて、ピリピリしている。もちろん、沙織もそうなのだが、どうしても、重苦しい空気がまわりを包み、重苦しい空気は一人一人の動きを滑稽に見せる。

――まるで油の切れたゼンマイのおもちゃ――

 を思わせた。

 最初はゼンマイのおもちゃを想像していたが、すぐに違うものに発想が変わった。それは、

「傀儡人形」

 であった。

 見えない糸に操られるように動いている。しかも、皆バラバラに見えていて、

――実はそこに規則性が感じられる――

 と感じるまでに、それほど時間が掛からなかった。

 それは、最初からぎこちなさを傀儡人形をイメージさせると思ったのなら、感じることのできなかったことのように思う。

 そう感じてくると、傀儡人形のぎこちない規則性に、「段階」があるということに気が付いた。

 規則性とは、滑らかな動きに感じるものとは明らかに違う。滑稽な動きの中に、メリハリがあり、そのメリハリにはすべて意味があるという考え方である。

 そんなことを考えていると、まるで沙織が何を考えているのか分かっているのように、すかさず、義之が声を挟んだ。

「心理学の勉強している時にですね。一緒にロボット工学の研究をしている教授とも知り合ったんですよ。心理学の教授とは、仲がいいみたいで、話が合うからと言っていましたが、二人を見ていると以心伝心で、お互いに思っていることが分かるのではないかと思うくらいでした」

 沙織には、今までそんなことを感じた相手は香澄先生くらいであろうか。

 だが、香澄先生に対しても、最後の結界を超えようとは思わない。結界は超えるというほど生易しいものではなく、

「ぶち破る」

 というくらいの気持ちがなければ、越えられるものではないと思っている。

――人と人の気持ちの間に結界が存在する――

 と、最初は沙織は思っていた。

 それは結界という言葉をただの壁としてしか見ていなかったからである。

――相手に見られない。相手を見ることができない。それは「知らぬが仏」に違いない――

 という考え方だった。

 その時、沙織は言い知れぬ恐怖に駆られた。

 相手から見られないのはいいとして、見ることができないことへの恐怖だった。いくら「知らぬが仏」だとはいえ、壁の存在を意識してしまえば、自分が相手との間だけに壁を作っているのではなく、まわり全体に壁を作っているように思えてくるからだった。

 閉所恐怖症が頭を擡げる。そして、そこがどこだか分からない恐怖に駆られ、暗黒の世界を創造してしまう。

 そうなると、今度は暗所への恐怖が湧いてきて、恐怖の連鎖反応の恐ろしさを思い知らされるのだった。

 そこまで一瞬にして考えたのだろう。その間に会話はなかった。

 会話がなかったからといって、大きな間があったわけではない。それだけ考えが一瞬だったからであって。

――この感覚、どこかで――

 と感じたが、それが夢の中の感覚だということを起きてから感じた思いであることに、さすがすぐには気付かなかった。

「ロボット工学というのは、傀儡人形から発達していることを、最初に志す人間は感じることで、入っていくものなんだけど、その思いは一瞬にして忘れ去られてしまうんだよ。本当は忘れているわけではなく、記憶に封印されるだけなんだけどね。でも、そのことを思い出せない人はどうしても、ある一点から先、前に進むことはできない。そこで堂々巡りを繰り返してしまうんだ。それを乗り越えることができた人間だけが、ロボット工学という言葉の真の意味を知るんじゃないかな?」

「その意味というのは?」

「実は僕もその壁を乗り越えられなかった一人なので、ハッキリとは分からない。でも、壁が存在して、その前で堂々巡りを繰り返していたということだけは、分かっているんだよ」

「その理屈だけは分かっているですね」

「そうなんだ。ロボット工学の研究者としての先にはいけなかったけど、心理学の方は続けていたので、心理学の面から、その時の自分の心境を、そして、ロボット工学についての段階というものがおぼろげながらに分かってきて、そのことは決して忘れることはないように思えているんだ」

 それにしても、学生時代にアメリカに留学し、心理学だけではなく、ロボット工学にまで食指を伸ばしたこの男に、沙織は興味が湧かないわけはなかった。

――この人とこれからもずっと会話を続けていけば、どうなるんだろう?

 お互いにどこまで接近するか、試してみたい思いは満々だった。その接近が、恋愛感情に繋がるものなのか、それとも、途中からお互いが、

「交わることのない平行線」

 になるということに気付くのだろうか?

 それとも、お互いに離れることのできない関係であることに、気付くのか。

 それぞれに重なっているところはあるが、決して同じ感情ではない。これも、相手に対して感じる感情の「段階」なのではないかと感じた。

 そして、これが他の人に感じることと同じであることは感じていた。それなのに、なぜか義之にだけはまったく別の感情が浮かんでくるのを感じていた。

「ロボット工学に関しては、途中で断念することになったけど、でも、勉強して無駄ではなかった。なぜなら、ロボットというのは、意志を持たないものだというのが、根底にあると思うんだけど、それは誰でも同じことだよね?」

「そうですね。少なくとも私も、同じことを想っています。誰もがその思いに疑いを持つことなどないと思いますよ」

「でも、その発想があるからこそ、SF小説などが成り立つんだよね。ロボット物の小説や映画は、意志を持たないロボットが感情を持ってしまったら? という発想でしょう?」

 確かにその通りだが、今の義之の話を聞いて、

――おや?

 という不思議な気持ちになった。

 義之は、微妙に「意志」という言葉と「感情」という言葉を使い分けた。最初は不思議な気持ちがどこから来るのか分からなかったが、分かってくると、

――この人がロボット工学の話をしたのは、このことが言いたかったからなのかも知れないわ――

 と感じた。

 沙織は義之の話が、自分の心の中に土足で入り込んできていることを分かっていた。だが、その中に、

――嫌だ――

 という感情はない。どちらかというと、くすぐったい気持ちになり、

――彼の心に触れているのではないか――

 と思っている部分が、自分の中で敏感になってきていることに気が付いた。

 さらに、義之は続けた。

「ロボット工学について研究していると、『孤独』と『寂しさ』の違いについて、考えさせられたんだよ」

「どういうことですか?」

 義之が言いたいと思っていることは、分かっているような気がしたが、言葉にして聞いてみると、本当に同じことなのか、どこか違っているのではないかと思うようになっていた。

「ロボットの相手をしていると、自分が一人ではないという錯覚を覚えることがあるんだ」

「それは仕方がないことでは?」

「いや、俺の場合は、今まで親友というものを持ったことがない。実は今もそうなんだけど、腹を割って話ができる人がいないんだ。もちろん、相手が女性であっても同じことで、だから今まで恋愛をしたという経験もない」

「でも、それはあなたがそう感じているだけで、相手の人は違うのかも知れませんよ?」

「そうなんだよね、だから余計に辛いんだよ。相手を一方通行にさせてしまうことは、この俺の罪じゃないかって思うんだ」

 思ったよりも、この人は繊細な考えを持っているようだ。

「義之さんは繊細な心をお持ちなんですね?」

「そうかも知れない。しかし、俺は孤独を好きな人間だと思っている。そこには矛盾のようなものがあり、だけど、そのおかげで心理学の方では幸いしたと思っているんだよ」

「そうなんですね。でも、考えすぎということはありませんか?」

 沙織の今の質問は、自分に対してもしていた。そして、ここからの会話には、多かれ少なかれ、自分に対しても質問しているように思えるのだった。

「考えすぎということはないと思う。なぜなら、俺は何かを考えている時、いつも堂々巡りを繰り返しているという思いを持っているんだよ」

「どういうことですか?」

「堂々巡りを繰り返していると聞くと、あまりいいイメージを持たないでしょう? でも俺の場合は、そうではない。堂々巡りの中にこそ、真実が含まれていると思うんだ」

「真実ですか?」

「そう、その真実というのは、まわり全体が正当性を感じるような広い意味での真実じゃないんだ。あくまでも俺自身の真実。それだけがあればいいと思っているんだ」

「それが、義之さんにとっての『孤独』という真実なのかも知れないですね」

「そういうこと。でもそのことを悟ると、自分が冷静になれるから不思議だった」

 一拍置いて、義之は話した。

「孤独と寂しさは違うものなんだよ。孤独だからと言って、寂しいわけではない。そして。寂しいからと言って、孤独というわけでもない。孤独だから寂しいという発想は、俺の中にはないんだ」

「それは一種の開き直りのようなものですか?」

 義之のこめかみがピクリと動いた。沙織には、この言葉が義之の頭の中にはない言葉であると思いながら、敢えて口にした。

――ひょっとすると、逆鱗に触れるかも知れない――

 という思いを感じながらであった。

「俺は予知能力を持つということは、何かきっかけが必要なんじゃないかと思うようになりました。自分もそうだったからです」

「義之さんはどういうきっかけだったんですか?」

「俺の場合は、『汚いものを見た時』というのがきっかけだったんです」

 沙織は意外そうな表情をしたが、その表情の奥には、

――疑念を持ってはいけない。その思いを顔に出してしまってはいけない――

 と、思った瞬間、義之はニコニコしながら、

「ね、そういう感情になるでしょう?」

「えっ、どういうことなんですか?」

 沙織は、義之に気持ちを見透かされていることは分かっていた。分かっていながら、それ以上どうすることもできなかった。

――彼は『そういう表情になる』とは言わなかった。あくまでも『そういう感情になる』と言ったんだわ――

 それは、相手の気持ちを見透かした後でも、さらにその深層心理の奥まで見つくしてしまおうとするかのように感じられ、最初は気持ち悪かったが、それ以上に彼の「潔さ」が、沙織の心を打ったのだった。

 人から自分の考えていることを見透かされるということは、自分だけに限らず他の人も嫌に思うだろうと感じていた。

「自分の城は自分で守る」

 という話を最初にしてくれたのは、香澄先生だった。

 先生は、その時、他にたとえ話をするわけではなく、唐突にそのことを言い出したのだ。

――急に唐突なことを言われても――

 と、いきなりだったことに戸惑ってしまい、理解しようとはしなかった。それを見て香澄先生はニコニコと微笑んでいたのを覚えているが、その気持ちの奥には、

――理解なんかしなくてもいいのよ――

 と言いたかったことを今なら感じることができる。

 その理由は、今なら分かる気がする。言葉にするのは難しいことなのだが、

「簡単に理解できることは、すぐに化けの皮が剥がれて、信憑性を感じられなくなるに決まっている」

 と言いたかったのかも知れないと感じた。

 特に比喩がおぼろげならおぼろげなほど、その奥には、

「ゆっくりと理解していかなければいけないのよ。なぜなら自分の身体で覚えたことでないと、自分を納得させられないんだからね」

 と言いたいに違いないと、今になってみれば感じることができるのだ。

 香澄先生のことを思い出していると、目の前にいる義之の考え方が次第に香澄先生に似ていることを思い出してくる。

 そういえば、香澄先生のことを「先生」と感じたことはあまりなかった。どちらかというと友達感覚だったからである。授業中は生徒と先生だったが、授業を離れると、学校内といえども、感覚は友達だった。

 本当は先生なら、

「せめて学校内にいる間くらいは、生徒と先生の間柄でいないといけない」

 と言われると思っていた。

 それが先生としての立場であり、そのことを生徒としても理解しなければいけないはずである。そこには「ケジメ」というものが存在し、一線を隠すことが、教育者としての壁なのだろう。

「だって、結界があるみたいで、何となく嫌でしょう?」

 あからさまに、香澄先生は言いきる。

 さらにビックリさせたのは、香澄先生の口から、「結界」という言葉が出てきたことだった。

「先生は、『結界』という言葉に、何か特殊な感覚を感じませんか?」

 と、沙織が聞いてみると、香澄先生はキョトンとした表情で、

「別に」

 と答えた。

 この短い言葉は、抑揚のない文字だけにすれば、きっと冷え切った言葉に見えるかもしれない。

 だが、香澄先生の声と抑揚で聞くと、冷たさの欠片も感じない。

「この言葉は、あっさりと言ってのける方が、むしろ自然でいいのかも知れない」

 と、沙織は感じた。

 香澄先生は、言動の中でも、「言」というよりも「動」の方に驚かされることの方が大きい。

 どちらかというと、能動的というよりも静かな感じが香澄先生の雰囲気なのでそう感じるのかも知れないが、香澄先生からは、言動の「動」が、自分にとっての存在意義のような雰囲気が感じられるが、仄かに甘い香水の香りが漂っているような気持ちになることで、思わず目を閉じてしまいそうになるのを感じていた。

 沙織は、甘い香水の香りを感じながら香澄先生のことを思い出していたが、それは一瞬のことだった。

 長い時間であれば、目の前にいる義之が声を掛けて現実に引き戻されてしまうように感じるのだが、彼は声を掛けようとはしなかった。それだけ一瞬のことだったのか、それとも、彼が沙織が正気に戻るのを待ってくれているのか、どちらなのだろうか考えた。

 さっきまであれだけ憔悴していた人が、そんなに相手の状態を待てるほど、自分の体調が戻っているとは思えないというところで、正気に戻るまでの時間が、彼にとってあっという間であったと感じた。

 沙織は義之をあまり待たせてはいけないという気持ちになっているのを、自分で感じていることが、自分本位の考えであることを分かっていたが、今の義之が相手であれば、そう思ってあげる方がいいのではないかと思っていた。

 下手に人に気を遣うことを、沙織は嫌っていた。

 子供の頃に、

「大人になんてなりたくない」

 と感じた時期があったが、それは、

「ほとんどの大人が、人に気を遣うということを勘違いしている」

 と感じたからだ。

 最近はあまり見かけなくなったが、喫茶店などでお金を払う時、

「ここは私が」

「いえいえ、奥さん、私が払いますわ」

 と言って、レジの前まで来て、気の遣い合いをしているのを見ると、ウンザリしてしまう。

 確かにワリカンにすると、精算に時間が掛かるというのはあるが、ここで余計な口論をしてしまえば、却って時間が掛かるし、時間を食えば食うほど、まとまるものもまとまらなくなる。

 時間を掛けるということは、余裕を持たせるようで、その余裕が却って、

――考えなくてもいいことを考えさせてしまう――

 という無駄な時間を生むことになる。

――無駄なことというのは、こういうことを言うんだわ――

 世の中に無駄なことというのは、ほとんどないと思っていたが、実際には、細かいところで結構点在していたりする。

「無駄なことというのはね。『無駄なことなんじゃないかしら?』って思っていることに対しては、決して無駄ではないのよ。却って無駄じゃないと思っていることの方がったりするのだと先生は思う」

 と、香澄先生は話してくれた。

「どういうことですか?」

「だって、無駄じゃないかって考えているということは、それだけ自分に対して真剣に考えている証拠でしょう? 先生は、自分のことを真剣に考えることが無駄だなんて思ったことはない。たとえ悪いことであっても、何も考えないよりもほどど有意義なことだって思うのよ」

 と、先生はその話をしてくれた時は、いつになく真剣に語っていたように思う。

「真剣に話をするということも、無駄ではないということですよね」

 と、ニッコリと微笑みながら答えると、

「そういうことよね。無駄だと思わないことほど、無駄な時間を過ごしているんだと先生は思うわ。だから、会話というのは大切なのよ」

 と、先生は話してくれたが、それから比べれば、大人になった今がどれほど会話が少なくなったというのだろう。本人にそれほど会話が減ったという意識はない。意識がないだけに、自分の中で

「言い聞かせている」

 という感覚がない中で、無意識に自問自答を繰り返しているのだろう。

 だから、寂しくはないが、我に返ると、孤独感はあるのだろう。

 自分との会話に気付くようになって、どうして自分が人に気を遣うことが嫌になったのか分かってきたような気がする。

 結局最後に返ってくる答えは、

「自分が納得いくかどうかの問題」

 だということなのかも知れない。

――それにしても、汚いものを見たから、予知能力を得ることができたというのもおかしなものだわね。私の場合は一体何がきっかけだったというのだろう?

 最初は義之のことから考えてみたが、なかなか自分のきっかけがなんだったのか、ハッキリとしてこない。

 ただ、自分が予知能力を持つのに気が付いたきっかけは、香澄先生がいたからだった。もし、香澄先生がいなければ、色に対して自分の感性はおろか、自分が感じていることを気にすることもなかったことだろう。それはそのまま自分が将来にわたって感じるはずのことを、すべて否定しかねないということに通じる。大げさかも知れないが、沙織はそれだけ香澄先生に感謝するとともに、自分の感性にも感謝していた。

――感謝する気持ちが、私にこの力を見せてくれたのかしら?

「超能力というのは、誰でも持っているものだ」

 という話が通説になっていることは知っていた。

「人間が持っている力を百としたのなら、実際に使っているのは、その五パーセントくらいで、残りは潜在能力として持っている」

 ということらしい。

 太古の神話の世界であれば、

「神は力を潜在させてはいるが、それを使われては、自分たちの立場が危うくなるということで、覚醒させないように、精神面も封じ込めている」

 と言えるかも知れない。そう考えれば、人が時々記憶を欠落させたり、忘れっぽかったりする人がいるのも納得できる。

 勘が鋭い人なら、すぐにでも自分の能力に気付くかも知れない。それを阻止するために、忘れっぽかったり疑心暗鬼にさせることで、覚醒させないようにしているのだと思えば、繋がっていなかった線と線が繋がって考えることができる。

 ただ、これも、一部の人間にだけ「許された」考えなのだろう。

 さっき感じた、

「感謝する気持ちが、力を与える」

 という考え方であるが、沙織はすぐに否定した。

 神話の発想をしてしまったからだというのもその一つだが、それよりも、力が備わるにしては、少ししょぼい気もしてきた。その程度のことで超能力が備わるなどというのであれば、誰にでもそれなりの能力は備わっているに違いない。

――私が知らないだけで、本当は皆、特殊能力を備えているのかも知れない――

 もちろん、大小の差はあるだろうが、備わっている能力に対して、別に疑問を持たない人、中には、

「同じ能力を誰もが持っていて、ただ黙っているだけなんじゃないか?」

 と思っている人もいるだろう。

 人に対して、最初から信用していない人もいるだろうし、逆に、そんな余計な意識を一切持っていない人もいるはずだ。そんな人は、他人を信じないのではなく、自分が信用できないだけなのだ。

 もっとも、自分を信用できない人が、他人を信用できるわけもない。まわりから、天邪鬼のように見られていても、それでも構わない。却って、まわりから自分を敬遠してくれる方が、気が楽だというものである。こっちから人を寄せ付けないというのも、結構精神的に疲れたりする。それをまわりが勝手にやってくれるのだから、苦労もないというものだ。

 ただ、それでも一人になると感じるだろう「寂しさ」は拭いきれるものではない。その時に、

「私は孤独なんだ」

 と、思うことができれば、「寂しさ」を払拭することができる。「孤独」を辛いことではないと思えるようになることができるのだ。

 沙織も「孤独」を「寂しさ」から分離することができた。その時に予知能力を備えたのかも知れないと感じた。

――やっぱり、自分が何かを感じることが、特殊能力を持つためには必要不可欠なことなんだ――

 と感じるようになった。

「『孤独』が寂しくないと思うようになった時に、香澄先生と出会ったんだ」

 思い返してみると、そういうことになるのだが、香澄先生との出会いが、沙織の中でどういう意味があったのか、考えてみたが、ハッキリとした答えが出るわけではなかった。

――これだけいろいろ考えがまとまってきたのだから、香澄先生との出会いも分かってきそうなものだけど、それが分からないということは、そこには見えない壁のようなものがあって、どうしても越えられない壁が存在しているのかも知れない――

 ただ、沙織はそれを「結界」だとは思わない。「結界」だと思ってしまえば、今まで見えていた香澄先生の姿を、自分で否定しなければいけない時がやってくる気がしたからだった。

「実は俺……」

 義之は、ふと声を掛けてきた。

 義之は、沙織の態度をじっと見ていて、声を掛ける瞬間を探っていたのかも知れない。沙織は声を掛けるには、重たい空気を作っていた。それは、小さな「結界」のようなものだったに違いない。

 沙織が自分のことを考えている時間が長かったと思っていたが、義之にとってどれほどのものだったのだろう? 実際の時間は思っていたよりも短いものだった。

「はい、どうしたんですか?」

 今まで義之の方からの会話に違和感がなかったのは、すべての質問に自信があったからだ。しかし、今から話そうとしていることに対して、自分の中で、何か疑問を持っているように思えてならない。

 その義之が、まるで奥歯にものが挟まったかのような言い方をすることに恐怖すら感じた。

――一体、何を言いたいんだろう?

 本当のことであれ、ハッタリであったにしても、自信を持って話をしてくれるのであれば、それを信じて聞いていればいい。もし違ったとしても、

――その時は信じるしかなかったんだ――

 ということで、諦めのようなものもある。

 もちろん、それでいいというわけではないが、少なくとも、

――最善の選択をした――

 思うことができる。

 言葉では諦めだと言っているが、決してそれだけではない。

 もし、その時傷ついて後悔があったとしても、次回があることであれば、次回への糧になるはずだからである。

――私が、こんなことを感じるなんて――

 普段は、余計なことを考えないようにしようという思いから、考えたとしても、無意識だったはずなので、考えたという意識はない。だが、今回は考えたという意識があるということは、どういうことだろう?

 一つ考えられることとしては、

――相手への意識が強い――

 ということだった。

 初めて出会った相手なのに、

――前にも会ったことがあるような気がする――

 という思いに至った。

 それは、義之の話が自分に密着した話であること、そして、その話に説得力を感じ、惹きつけられる感情を有していると感じるからだった。

 沙織が義之に返事をしてから、なかなか義之は口を開こうとしなかった。ただ、視線は沙織を捉えて離さない。沙織もその視線を浴びているうちに、次の一声を自分から挙げることはできないと思っていた。

「俺はさっきも言ったように、アメリカに留学していたんだけど、その時に心理学の勉強をしていて、ロボット工学の教授と知り合ったって言ったでしょう?」

「ええ」

「その時、僕はある種の実験をするのに、手伝わされたことがあったんです」

「はい」

――一体何が言いたいのだろう?

「元々心理学と、ロボット工学というのは、あまり関係のないものだと俺は思っていたんだけど、そうでもなかったんですよね。ただ、俺は子供の頃からロボットに興味があった。子供向けの特撮番組やアニメをよく見ていたりしていたんだけど、俺には他の連中と少し違った見方があったんだ」

「どういうことですか?」

「実際に、皆ロボットの形態や性能についていろいろ論議をしたり、それがバトルに変じた時の、強弱に繋がるんだけど、それが、ロボットアニメや特撮の醍醐味でもある。それは俺にも分かるし、そういう視点でも見ていたのも事実なんだよ」

「私も多分、男性だったら、同じ見方をすると思います」

 義之は、さらに続ける。

「でも、ロボットものというのは、それだけしか見ていないと、それ以上の見方に発展はないんですよ。あくまでも、『アニメ、特撮ファン』、あるいは『オタク』で終わってしまうんですよ」

「じゃあ、あなたは違う視点で見るようになったんですか?」

「ええ、他の人とは違う視点で見るようになりました。ロボットアニメにしても、特撮にしても、同じロボットでも、人間型ロボットと、戦闘型ロボットの二種類があるでしょう? たぶん最初にロボットものを製作した人が、そういう発想で作ったことが、一般的になったのかも知れませんがね」

「ええ」

「でも、俺はその最初の発想が重要だと思っているんですよ。つまりは、ロボットものは、よくも悪くも、結局は人間中心に考えられているんですよね。つまりは、ロボットものというのは一番『人間臭い』ものではないかと思うんです」

「それは、疑似ドラマのような感覚ですか?」

「そうですね。ロボットというのは、どうしても人間に近い形で創造されている。ドラマとして作るには、作る側からすれば、格好のアイテムなのではないかと思うんです。だから、ドラマやアニメの世界のロボットと、実際に開発する側から見るロボットというのとではまったく違った様相を呈しているのではないかと思うんですよ」

 この男性が一体何を言いたいのか、分かってきたような気がするが、まだどこかはぐらかされているように思えてならない。

「ええ」

 沙織はそう言って、相槌を打つしかない自分に、少しじれったさも感じながら、なるべく表情を変えないように、それでいて、必要以上に真剣なまなざしにならないようにしようと考えていた。

 義之はさらに続ける。

「昔のロボットマンガというのは、根本は悪の秘密結社と戦うという路線には変わりはないけど、人間型のロボットには必ず『心』が存在した。そして、もう一つ言えるのは、最初は、そのロボットが『未完成』であったということです。それは人間で言えば、『未熟』という言葉と類似していると思いますが、回が進むにしたがって、成長していく物語ですね。ただ、それが普通の人間ではなくロボットだということで、人間とは違った葛藤が存在する。さらに、これも人間のエゴなのかどうか分からないんですけど、人間と違ってロボットの方が、『弱い』精神を持っているという設定になっているんですよ。もちろん、物語上、その方がインパクトもあるし、書き手からすれば、書きやすいというのもあるかも知れませんね」

「何となくですが、言いたいことは分かる気がします」

 沙織は義之の話を聞いていて、さっきまで少しモヤモヤしていた感覚が晴れてきたのを感じていた。

「ロボット工学の教授は、そのことを俺が今語ったように話してくれました。人間型のロボットの話、ロボットの話は一番『人間臭い』物語りだということ。そして、ロボットにも人間と同じような感情があって、自分の中で葛藤を繰り返しながら成長していくということ。さらには、成長しながらでも、どうしても人間よりも精神が『弱い』ということ。でも考えてみれば、最後の精神が『弱い』というのは当たり前のことなんですよ。そしてこの考えがまるで禅問答のようで、話が堂々巡りを繰り返し、袋小路に入りこませる要因にもなっているんですよ」

 沙織は、そこで初めて、表情を変えたような気がする。きっと怪訝な表情になっていたに違いない。

「どういうことなんですか?」

「ロボットというのは、人間が作り出したものなんですよ。そのロボットが、人間以上になるということは、許されることではないと思いませんか?」

 その話を聞いて、さっき自分が怪訝な表情をした原因が分かった気がした。

 さっきまで普通に話をしていて、ただ聞いているだけの沙織だったのに、初めて彼の話に気分が変わったのだ。

 それもいい方に変わったわけではない。明らかに悪い方に変わった。しかも、聞いていて、

「気分が悪いわ」

 と、感じたのだ。

 それまでの話が普通に受け入れられ、共感していた部分が多かっただけに、たった一言で、ここまで気分が悪くなるなど、沙織はビックリさせられた。

 露骨に嫌な表情になったが、それも彼には分かったようだ。彼はにこりともせず、沙織を見つめた。

「その発想って、まるで聖書のようですね」

 沙織は、反論なのか、いきなり聖書の話を持ち出した。

「どういうことなんだい?」

「聖書では、人間を作ったのは神だということになっていますが、その物語の根源は、神が作ったはずの人間が、神の考えていることと違ったことをすれば、必ず一度世の中を滅ぼしていますよね。そして、そのテーマは『神は絶対で、人間には逆らうことができない』ということだと思うんですよ」

 というと、すかさず、義之が反論してきた。

「でもね、聖書と同じような神の話を書いている神話というものは、神は確かに全知全能なんだけど、わがままで、自分の思うようにならないと、人間相手に容赦ないのも事実なんだ。でも、全知全能なくせに、神の世界でも階級があって、ゼウスには絶対に逆らえないとかあるんですよね。そういう意味ではロボットの世界では、人間が神に当たり、ロボットは、人間に当たるんだよね」

「でも、決定的な違いもありますよね」

 沙織はそれについて義之が自分が考えているのと同じ回答を返してくれると思って疑わなかった。

「そう、その通り。決定的な違いというのは、『力』なんだよね。でも、それは人間のエゴが作り出した諸刃の剣、つまりは自業自得とも言えるんだよね」

「確かにそうですね。人間には、ロボットが心を持って襲って来ればそれに対抗する術はありませんものね。『自分たちが利用するために作り出した』、それがロボットなんですよね」

「神がなぜ人間を作ったのか、その真意は分からないけど、決して人間を『利用しよう』とは思っていない。だから、人間に善悪の判断や、そこから派生する考える力を与えたのかも知れませんね」

「でも、それも、ロボットを自分たちが利用するために作り出したのと変わらないんじゃないですか?」

「いや、もっと罪作りかも知れないね。感情を持った人間を、自分たちの思い通りにならないからと言って滅ぼすんだからね。確かに道徳的に滅ぼされても仕方がないのかも知れないけど、その中には、善人もいたかも知れない。数人だけを助けたとしても、それは神が勝手に選んだ人間だけでしょう? それを思うと、『神も仏もないものか』って感じますよね」

「でも、ロボットだって、中には人間よりも、優れた精神を持っている人だっているんじゃないですか?」

 沙織は、今自分の口からロボットのことを、「人」と言ってしまったことで、思わず口元に手をやってしまった。思わず、

「キャッ」

 と声を出しそうになるのを堪えた。

 そのことに義之が分かったのかどうか分からないが、気付いていないかのように、会話の腰を折ることはなかった。

「確かに優れたやつもいるだろうね。でも、それは、彼の精神を深く抉ることに他ならないんだよ。苦しめるだけになってしまう。精神の強さというのは、人間を中心にするから出てくる発想で、人間もロボットも同じように、袋小路に入り込んで、堂々巡りを繰り返す。人間だったら、他の人に聞いてもらったり相談できたりするんだろうけど、そのロボットは、精神面の強さという意味では一番強いわけだよね。誰に相談するというんだい? 

まさか人間に相談できるわけはないよね? だから、禅問答だというんだよ。きっとそのロボットにだって、自分が一番精神が強いロボットだということは分かっているはずなんだ。なぜなら、作った人間がそこまで計算して作っているはずだからね。そうでもなければ、精神の強いロボットなど作れるはずがないからさ」

「……」

 沙織には、もう反論することができなかった。

「ロボットは聖書や神話の中に出てくる人間とは違うんだよ。明らかに人間の意志が働いている。何しろ自分たちが利用するために作っているわけだから、性能面などは、使用用途に従ったものに作り上げられているに違いない。そして、一番大きなことは、『個性がない』ということだ」

「個性がない?」

「うん、だって、使用用途がしっかりしているわけだから、第一号が出来上がれば、二号から先は大量生産によって作られる。設計図に基づいて、決められた数だけ同じものが作られるんだよ。そんな彼らがもし『精神を持ったら』なんて考えると、どうなるんだろうね? 同じ考えのロボットが出来上がって、どんな世界になるというのか、俺には想像もできないし、したくないんだ」

 義之の熱弁は最高潮に達しているかのように思う。

「私には、少し考えられるような気がしますね。だって、人間社会だって、そんなに変わらないんじゃないですか? 人間臭いって、そういうことなんじゃないかって私は思うんですよ」

「じゃあ、沙織さんは、人間もロボットもそれほど大差はないとお考えですか?」

「ロボットが感情を持てば、変わりがないロボットも出てくるかも知れませんね。でも、いくら人間に限りなく近づいたと言っても、人間になれるわけではない。非常に近い距離に見えて、本当は果てしなく遠いものなのかも知れない。それは人間に近づいているロボットにしか分からないものなんでしょうね。そういう意味では、どうしても想像の域を出ないということになります」

「う~ん」

 義之は唸った。

 その唸りが、自分の想像を超えた発想を沙織がしたからなのか、沙織がそんな発想をするなど、最初から考えていなかったことへの唸りなのか、自分でもよく分かっていないのかも知れない。

「私はロボットの側から見てみたいと思っただけなんです。生意気なことを言ってしまったようですけど」

 今度は、義之が笑みを浮かべた。

「そうなんですね。僕も、沙織さんにロボットの側から考えてほしいと思っていたんですよ」

「そう思っていただければ嬉しいですね。私はただ、義之さんが人間の側からのお話ばかりだったので、ロボットの側から話す人がいなければ、会話にならないと思ったからなんです。それ以上の他意はありません」

「なるほど、そういう意味ですね。では、俺もロボットの側から話をしてみましょうか?」

「というと?」

「『ロボット工学基本基準』というのが存在するのはご存じですか?」

「いえ、知りません」

「これは、あるSF作家が、ロボットの従いべき命令として定めたものらしいんですがね。まず、『第一条は、ロボットは人間に危害を加えてはいけない』とあります。これは普通、当然のことですね」

「ええ」

「第二条は、『ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければいけない。ただ、第一条に反する場合は、この限りではない』とあります」

「はい」

「第三条は、『一条、二条に関わらないことを原則に、自己を守らなければならない』とあります。どう思われますか?」

「非常に人間にとって都合のいい基本基準ですよね。これを聞いた上でさっきのお話をすると、また違った議論になるような気がしますね」

「そうですよね。でも、私の発想は少し違いますね」

「どういうことですか?」

「この基本基準には、優先順位が存在するということです。一条が一番高く、その次に二条、そして、その次が三条。なるほど、うまく作られている基本基準でしょう?」

「ええ」

「でも、これに第零法則というのも存在するらしいんです。考えてみれば、あって当然のものなんですけどね」

「というのは?」

「第一条は人を傷つけてはいけないということですよね? それは絶対条件であって、疑う余地がないものに見えますが、考えてみれば、人を殺そうとしている人が目の前にいた時、殺そうとしている人を傷つけないと、殺される人を見殺しにすると考えた場合、どうなります? SF小説では、殺されそうになっている人を、人類全体だという発想にしてしまっていたようですけどね。考え方は変わりませんね」

「それって?」

「そうです。堂々巡りを繰り返しているように思うでしょう? そこが難しいところであり、面白いところでもあると思うんですよ。それはロボットと人間に限ったことではない。差別化されているものすべてに言えることではないかと思うんですよね」

「本当に難しいですわね」

「ええ、それにさっきあなたが、ロボットの側から考えているって言ってたけど、今の基本基準を聞いても、ロボットの側から考えていると言えますか?」

 沙織は絶句してしまった。

 自分ではロボットの側から考えているつもりだったが、ここまで差別化されている世界のことを、容易に発想できるはずもない。

――私が甘かったんだわ――

 としか考えられないではないか。

 ロボットに対して同情というものが存在しえるかどうか、沙織には分からない。同情したとしても、その感情が伝わるとは限らない。

 もし、ロボットに意志があったとしても、人間の気持ちがどこまで分かるというのだろう。ロボットは人間に奉仕するために開発され、作られたのだ。それ以外に彼らの生きる道はなく、下手に感情や意志などを持ってしまうことは、却って彼らを苦しめることになるだけだ。

 そんなテーマで作られたアニメやドラマが、きっとロボットものでは主流になっていることだろう。

「ロボットって、本当にそんなに悲しいものなんでしょうか?」

「俺もそれについては考えたことはある。だけど、しょせん、人間の側からしか考えることができない俺たちには、悲しいものとしてしか映らないんだ。ロボットについては、かなり昔から、開発は別にしても、小説やドラマになっているんだけど、ロボット工学基本基準が考案される前は、人間に危害を加えることをテーマにしたものが多かったようですよ」

「ということは、ロボット基本基準というのは、ある意味で、人間に対しての安全装置のような働きがあるんでしょうか?」

「まさしくその通りだよ。開発した人間が自分の身を守るために、ロボットの電子頭脳に対して、基本基準を埋め込むことで、ロボットの安全性を確立させようとしたんだろうね。そうでなければ、ロボットは力が強力なだけに、利益よりも危険の方が数倍も強くなるでしょう」

 沙織は、また考え込んでしまった。

 人間と同じように、ロボットも悩むというのだろうか。ただ、それも、電子頭脳が埋め込まれたロボットにのみ言えることで、人間が中に入ったり、遠隔装置を使って操作するものは、この限りではないだろう。

 ただ、それにしても、どこからこんな難しい話になったというのだろう。

 義之とは、さっき会ったばかりだったはずだ。会ったその日に、ここまでの話を本当にしたのだろうか?

 確かに何年も経ってから思い出すことであり、初対面のインパクトはかなりのものだったに違いないだけに、記憶が交錯していたとしても、それは仕方のないことではないかと思っている。

――それから、どんな話になったんだっけ?

 と、さらに思い出してみた。

「結局、ロボットは自分の意志を下手に持たない方がいいんじゃないかって発想が生まれてくるわけでしょう? だから、一般の人が、ロボットと聞いて、何も考えずに最初に思うことというのは、『感情や意志を持たない人間の役に立つもの』だという意識が強いわけですよ。それって、ある意味、ロボット工学基本基準に準じていると思いませんか?」

「そうですね、紆余曲折を繰り返して、ここに戻ってきたって感じですよね」

「ロボットに限らず、人間は紆余曲折を繰り返して、堂々巡りを繰り返すものなんですよ。だから、ロボットは人間の鏡のように感じている人もいるようです。ロボットが感情や意志を持つこともありえると……」

「そうなると、また堂々巡りを繰り返してしまうことになりますよ」

「そうなんだよ。結局繰り返すことになる堂々巡りなんだけど、それこそ、永遠のテーマですよね」

「というのは?」

「『タマゴが先かニワトリが先か』というテーマに通じるものがある。そこまで発想が進展してくると、先が見えてくるというよりも、迷走してしまっているということに気付かされた気がしますね」

「ところで、義之さんは、どうして私にロボットの話をしたんですか? それにさっき何か言いかけたことがあったようですが、それとロボットのお話は繋がりがあるんでしょうか?」

 と、思い切って聞いてみた。

 義之は、また少し考え込んでいたようだが、

「関係はあるよ。俺の話をする前に、ロボットというものがどういうものなのかということを知っておいてほしかったというのが、今の本音だね」

「ロボット工学というのは、現在いろいろな国で研究は薦められているんだろうけど、限界がありそうな気がする。そこで考えられたのが、発想の分散というものなんだ。国家が一つの重大プロジェクトを立ち上げるというよりも、いろいろなところで、水面下での研究が続けられているんだ」

「それは、大学とか、個人の研究所とかいう意味でですか?」

「そうだね。極秘裏に進められていると言っていいだろうね」

「アメリカには、国営ではなく、民営というには少し異色の組織も結構存在します。それは、沙織さんが想像しているよりも、多いかも知れませんね」

「義之さんはいくつかご存じなんですか?」

「実は、私はそのうちの一つに少し関わっていたんですよ。それぞれの研究所では、セキュリティも万全だったので、その存在を知る人は、ほとんどいないと思います」

――そんなにセキュリティがしっかりしていて、存在を明かしてはいけないものであるなら、この男はどうしてこんな話を私にするのだろう?

 沙織は矛盾を感じた。

 話していて、義之は頭が切れるのは間違いない。あまりにも唐突で、ロボット工学などまったく意識したこともない沙織にいきなりこんな話を聞かせて、一体どういうつもりなのかと考えてみたが、最初は全然繋がっていなかった話だったにも関わらず、わずか数時間程度の話で、完全に理解できないまでも、興味を持たせて、漠然としてではあるが、共感できるところもあると感じるまでに話を持って行ったことは、さすがというべきではないだろうか。

 彼の話術には、一定の法則があるように感じるが、その法則がどういうものなのか、考えれば考えるほど、ぼやけてくる。それが彼の話術の真髄なのかも知れないが、必ずその一つ一つには緻密な計算が含まれているように思える。

 今、秘密結社に話が移った時、いきなり彼がセキュリティも話をしたのも、何かの計算に違いない。

 今までの彼から考えれば、いきなり相手に疑問を感じさせるような話し方をするはずはない。

――私が疑問を抱かないとでも思ったのかしら?

 と感じたが、そうでもないようだ。

 その証拠に言葉が途切れた瞬間に、彼の口元が怪しく歪んだ気がした。その表情は、それまでの会話の中にも随所に見られたが、その時の笑みには、今までにない確信めいたものを感じた。

 してやったりの表情というところであろうか。

 少し間があったが、義之が話を続け始めた。

「アトランタの奥深くに大学があると言ったけど、本当は大学の中にある秘密結社の研究所が、奥深くにあったのさ。雑木林に囲まれて、人の入り込むこともないその場所は、伝統的に大学が秘密研究をするために、人工的な要塞として、昔からあったものらしい。俺が大学で尊敬していた教授が、その研究所の所長をしていて、気が付けば手伝うようになっていたんですよ」

「そんな簡単に手伝えるものなんですか?」

「最初は、研究所側にも抵抗があったみたいだけど、何度か話を進めて、この俺が相手の条件を飲むことで、成立した補佐役だったんだけどね」

「そこで、ロボット工学の研究でもしていたんですか?」

「それに近いものを研究していたのは事実だね。特に問題になったのは、例の『ロボット工学基本基準』だったんだよ」

「本当にそんなものがあったんですか?」

「ええ、実際にはロボットと言っても、すべてのロボットに適用されるものではない。特に、機械に近いロボット、つまりは、人が中に入って操縦したり、外からリモートコントロールされるものは、その限りではないですからね」

「それは、『意志を持たない』という観点からですか?」

「そうですね。操縦されてその通りに動くロボットには、基本基準は元々存在しませんからね。何と言っても、ロボット工学基本基準は、人間に対しての安全装置ですからね」

 確かに彼の言う通りだった。人間に危害を加えず、きちんということを聞く相手に、安全装置の意味がないからである。

「アンドロイドのような感じですかね?」

「最初に話した、人間型ロボットはアンドロイドと言えるでしょうね。でも、そこから戦闘用に変身したりした場合、そこから先はアンドロイドとは言えないような気がしますね」

「でも、戦闘用のロボットが存在するということは、人に危害を加えないという条項に違反しませんか?」

「そうでもないでしょう? 第三条には、自己は自分で守らなければいけないとある。しかも、戦闘型と言っても、戦うのは人間とは限らない。相手もロボットを使ってくれば、ロボット同士の戦いになりますよね。しかも、それは、自分の主を守ることになる。逆にそこで何もしなければ、主を見捨てたことになり、結局は第一条に違反することになりますよね」

「でも、そんな難しいことを、ロボットに判断できますか? しかも、緊急時には、一瞬にして判断しなければいけないですよね?」

「そこなんですよ。ロボット工学基本基準を忠実に守るロボットを開発しようとすれば、今言ったような緊急時にパニックを起こしてしまいかねない。絶対条件の基本基準を電子頭脳に埋め込まれているわけだから、従わなければいけないという絶対命令、目の前で目まぐるしく移り変わる状況に、さらには、その時に先を見通さなければいけない能力を、ロボットは備えていないと、ジレンマからパニックに陥るんですよ」

「先を見通す……」

「そう、一瞬の判断だけではなく、そこから先を予知できる能力が備わっていなければいけない。それが、ロボット工学基本基準と一緒になって、初めて人間への安全装置としての機能を果たすことになるんですよ」

――予知能力――

 沙織は、自分に備わっている能力を、目の前にいる今日初めて出会ったばかりの男性に、看破されてしまったような気がした。

――この人は、一体どんな能力を持っているというのだろう?

 沙織は、義之に対して、何でも見透かされてしまうことで、気持ち悪いという気持ちよりも、頼もしいという気持ちの方が強くなっていた。

――本当に、今日初めて会ったのかしら?

 と疑いたくなる。

 そう考えてみれば、最初の出会いも印象的だ。話を聞いてみれば、あれは偶然ではなく、出会いのきっかけとして作られた演出だったんじゃないかと思うと、次第にその信憑性に疑う余地はなくなってきた。

「もっと、ロボット工学基本基準について知りたいですね」

 本当はロボット工学基本基準だけではなく、もっといろいろ知りたいのだが、話の根幹になっているのが、ロボット基本基準だということを自分が分かっているというつもりで、義之に告げた。

 義之の表情は相変わらずだったが。またしても、唇が怪しく歪んだ。

 同じ怪しく歪んだ唇だが、その雰囲気は微妙に違っている。

 最初は、不気味さを感じ、次に頼もしさを感じた。そして、今度はそれに加えて、優しさを感じたのだ。

「ロボット工学基本基準は、限られたロボットだけに言えることではあるんだけど、その幅は結構広い。実際に公に研究されているロボットの中にも基本基準を埋め込まれたものも存在します。市販されているのも中にはあるかも知れませんね」

「でも、私にはまだ架空の話で、SF小説や、特撮やアニメでしか想像はできません」

「特に女性は、SF関係は苦手でしょう?」

「そうでもないですよ。私はSF小説を読むのは好きですし、結構私のまわりには、女性でもSF小説が好きな人がいたりします」

「『類は友を呼ぶ』と言いますからね。それももっともなことだと思います」

 また一息あって、さらに義之が続けた。

「ロボット工学基本基準は、結構矛盾を孕んでいるところがあります。その解釈はいろいろ分かれていて、ロボットを作る側でも、統一化されていないんですから、埋め込まれたロボットからすれば、溜まったものではないですよね」

「たとえば?」

「第一条にある、人間に危害を加えてはいけないという項目ですが、もし、自分の主が他の人間から殺されそうになっていて、相手に危害を加えなくても守れる時、主はロボットに対して、『絶対に私を守りなさい。相手を殺しても構わない』という命令を下したとして、その命令は、第二条に当たりますよね。このロボットは、主を守るという警護ロボットだったとしましょうか」

「ええ」

「でも、第二条は、人間に危害を加えることに対しては、人間の命令を守ることはその限りではないと謳っていますよね」

「……」

「ということは、優先順位からすれば、主の命令は聞くことができないということになる。でも実際には、主が危険に晒されることになるわけですよね。主からすれば、ロボットは自分の命令に従わなかったと思うでしょう。いくらロボットが、相手を傷つけなくても守れる自信があっても、本人には分からない。そこで関わってくるのが、第三条の条文です」

「第三条というと、確か、自分の身は自分で守るということですよね」

「ええ、そうです。でも、ロボットに対して主は、疑問を持った。最終的に助かったとしても、自分の命令に従わなかったこと。そして、本来の警護という任務が、結果論として助かったというだけで、全うされなかったことで、ロボットを壊しても構わないという発想になる」

「ロボットからすれば、溜まったものではないですよね。完全な誤解だったわけで、しかも、自分の中にあるロボット基本基準の機能は、主が埋め込んだもののはずだから、自分を怖そうとするのは、あまりにも虫が良すぎることになりますよね」

「はい」

「でも、それでも、ロボットは壊されることを拒めない。第三条で、自分の身は確かに自分で守るということを謳っていますが、それも、第一条、第二条に違反しない場合だけです」

 さらに、まくしたてるように義之は続ける。

「ロボットは第二条に違反したことになっている。主からすれば、ロボットには自己防衛の権利はないという判断になりますね」

「……」

 沙織は黙って、俯いていた。

 明らかにロボットに対して自分が同情していることが分かっているからだ。

――どうして、こんな気持ちになったのかしら?

 今までの沙織は、自分が人に対して同情することは、偽善だと思っていた。同情することで余計な気を回すことは自分にとって、損になること、それなのに、相手がロボットで、しかも、想像上のことである。

――いや、逆に想像している架空の状態だから、同情できるのかも知れない――

 彼の話を聞いていて、それだけ人間が理不尽なのかを思い知らされた気がする。

 そもそも、沙織は人間が好きではなかった。孤独が自分には似合うと思っていて、孤独を寂しいとは思わなかったのは、それが原因だと思っている。

 沙織は、義之の話を聞きながら、自分の中にも、

「ロボット基本基準が埋め込まれているのではないか」

 という錯覚に陥っていた。

 そんな沙織を見ながら、今度は唇を歪めることもなく、義之はじっと見つめている。

「大丈夫ですか?」

「えっ?」

「かなり顔色が悪いようですが」

 と、義之に言われて、初めて自分の意識が虚ろになっていたことに気が付いた。

「少し、顔が熱いです」

 頬に手をやると、今までにあまり感じたことのないほどの熱さを感じた。

「風邪ではないですか?」

「そういえば寒気もします」

「俺が、引き留めちゃったかな?」

「ところで、義之さんの方は大丈夫ですか?」

「ええ、だいぶいいです」

 と言って、義之が時計を見ると、午後八時を回っていた。

「もうこんな時間だ。すみません。拙い話で長々と」

「いえ、私も聞いてみたい話だったので、よかったと思います」

 少し話が中途半端だったこともあり、それは義之にも分かっていたようで、

「今度、またお話の続きをさせてください」

「ぜひ」

 と言って、二人は連絡先を交換した。

 普段であれば、連絡先を交換するなど、初めて会った人に対しては考えられなかったが、沙織の中で彼との出会いで、何かのスイッチが入ったような感じになっていた。

――スイッチが入った? さっきロボットの話をしたから、そんな気分になったのかも知れないわ――

 と思わず、二コリとなった沙織だった。

「ロボットのことをこれからも、沙織さんは意識し続けていくような気がしますね」

 と、義之は言った。

「誰のせいなんでしょうね?」

 と悪戯っぽく言ったが、

「俺のせいだよね」

 と、言って、義之は、初めて声を出して笑った。

 その表情は今までに感じた彼への表情にさらに、もう一つ違ったものを感じさせた。それはまるで、

――一皮剥けた――

 と言えばいいだろう。

 再会を楽しみにしながら、沙織はその日一日が終わったことを感じていた。

――一日の終わりを感じるなんて、今までになかったわね――

 と感じていた。

 部屋に戻ると、いつものようにすぐに眠たくなってしまうことはなかったが、気が付けば眠っていた。

「もう、朝なのかしら?」

 と思って時計を見ると、まだ夜中の三時だった。

 夜中の三時に目が覚めることは、今までにも時々あった。何か夢を見ていた意識はあるのだが、どんな夢なのか、まったく分からない。

 楽しい夢だったのか、怖い夢だったのかというのも、普段なら分かるはずなのに、その時は、どちらだったのかということも分からなかった。

 その時、部屋はキチンと閉め切っていたはずなのに、どこからか、すきま風が入り込んでくるのを感じた。

――おかしいわね――

 寒気がしていた時だったので、余計に身体に重たさを感じ、寒いにも関わらず、身体の奥から汗が滲み出てくるのを感じていた。

――本当に風邪を引いたのかしら?

 前の日までは、そんな兆候はまったくなかったはずだった。それなのに、入ってくるはずのないすきま風を感じたり、寒いのに、汗が滲んでくるのを感じたり、時間も真夜中ということで、心細さを感じていた。

 沙織は目が覚めてくるにしたがって、昨夜のことを思い出していた。

――ロボット工学基本基準だなんて、一体どうしたのかしら?

 沙織は、自分の中に失われた記憶があることに、以前から気が付いていた。そんな時、「ロボット工学基本基準」という言葉を聞いた時、失われた記憶があることに確信めいたものを感じていた。

――いつ聞いたんだっけ?

 初めて聞くはずの言葉を、疑いもなく、以前にも聞いたことがあると感じ、「いつ」を思い出そうとするのだから、失われた記憶に対して確信を持ったとしても、それは当然のことである。

 その言葉もただ聞いたというだけのものではなかった。

――まるで、本当に自分の心の中に埋め込まれているかのようだった――

 という感情があった。

 それにしても、義之という人は、どうしてあそこまでロボットのことを語れるんだろう? だが、二人の話の中で、ロボットの側から見ていたのは沙織の方だと義之は指摘した。

 ロボットの側から見ているという意識はなかった。

 ただ、義之が人間の側から見ているように見えたことで、

――私がロボットの側から見なければ――

 と感じたのだった。

 冷静に考えてみれば、義之は別に人間の側から見ていたわけではなかった。それなのに、どうしてロボットの側から見ないといけないと感じたのか、自分でも分からない。

 きっと、ロボット工学基本基準を聞いて、ロボットに同情したのかも知れない。

――ロボットは意志を持ってはいけないんだ――

 と、無意識に感じた。

 しかし、考えてみれば、なまじ意志を持つと、その分「責任」というのも生まれてくる。「責任」をこなせる人はいいが、こなせない人には重荷でしかない。そういう意味では意志を持たずに、命令だけを忠実にこなしているロボットは、人間社会の中で揉まれている人間から見れば、却って羨ましく見えるのではないだろうか。

 ロボット側から見れば、

「人間になりたい」

 と思っているかも知れないが、

 人間の側から見れば、

「ロボットになりたい」

 と思っている人も少なくはないだろう。

 ロボットというのは、言いなりになるだけが、本当にロボットなのだろうか?

 確かにロボット工学基本基準は、人間に対して言いなりになることを示している。あくまでも中心は人間であり、人間の害になるものは、抹殺されても構わないという発想である。

 ただ、ロボットは、人間にできないような強い力を必要とする作業をこなすための冷静さ、そして強靭さを要求される。基本基準では、その部分にしっかりと触れている、もし、自分がロボットだったら、承服できるだろうか?

「俺、最近ロボットの気持ちが分かるような気がしてきたんですよ」

 ふいに、義之の声が聞こえてきた気がした。

 義之と別れた記憶は残っている。するとこれは夢なのだろうか?

 だが、寝ていて目が覚めた。時計を見れば午前三時。あれからまた寝入ってしまったということであれば、今感じているというのは、夢の中ということになる。

――そういえば、昨日、別れた時の記憶が曖昧だったが、今から思えば、義之はまだ何か言いたげだったような気がしていたわ――

 と感じていた。

 彼の熱弁は、時間を感じさせることなく、あっという間に過ぎて行った。だが、そういえば途中で、奥歯にモノが挟まったような気がしていたが、それもすっかり忘れてしまうほどの会話だった。

 あの時、義之に色を感じた気がした。

――何色だったのだろう?

 赤でなかったことは確かだった。

――緑掛かった黄色だったような気がする――

 沙織の中では、優先順位的には大きなものだっただろう。

 色の優先順位は、大きくなればなるほど、緊急性や危険性を孕んでいるような気がする。緑に近い黄色ということは、危険度のレベルからすれば、結構高いものだ。その気持ちがあるから、夢に見ているのかも知れない。

 さらに夢の中だということで、これが予知能力に繋がっている可能性も高い。元々、義之との出会いも、疑問のままではないか。

 義之が夢の中に出てきて、ロボットの話題を出す。そこに不自然さはなかった。さっきの会話の続きのようで、沙織には違和感がなかった。

「ロボットの気持ちが分かるというのは、『意志を持った』ロボットということですか?」

「そういうことになるね。さっき俺が話したように、ロボットというのは、まだ自分で意志を持つところまでは行っていないので、分かるというのも、おかしなものだよね」

 義之は照れ笑いをしているが、それは自分の発言についての照れ笑いではない。笑ってはいるが、目は真剣だ。口にした言葉の気持ちにウソはないようだ。

――照れ笑いはフェイクなのかも知れないわね――

 彼に裏表はないと、ずっと思っていたが、小賢しい真似くらいはできるようだ。彼の話は、最初こそ唐突で、

――この人はどんな人なんだろう?

 と思っていたが、話をしていると、沙織は自分の考えと似ていることに気が付いた。似ているというよりも、

「共鳴できる」

 というところである。

 似ていることよりも、共鳴できる方が、よほど会話に花が咲く。似ているだけでは相手の気持ちの奥を見ることができても、その先を見ることはおろか、見ようとすることも思いつかないに違いないからだ。

 夢の中に出てきた義之は、さっきまで会話していた義之とほとんど変わらない。夢であるということを意識さえしなければ、現実だとずっと思っていたことだろう。

 やはり、それは共鳴できる話題があるからではないだろうか。常々心理の奥の方で燻っていた感覚が、義之の登場で、現実化している。それだけ、今まで心を開いて会話ができる人がまわりにいなかったという証拠でもあるのだが、沙織の中で口惜しさがあった。

 その口惜しさは、今まで自分のまわりに心を開いて話ができる人がいなかったからではない。そのことに今まで意識がなかったことだ。

 無意識には感じていたのだろうが、意識していなかったということは、心の中で自分から、感情を封印していたのだろう。

――封印していた感情は、どこに行ってしまうのだろう?

 自分の感情をしまいこんでおく場所には限界があるはずだ。

 優先順位を自分の中で考えて、削除していくのだろうか? それとも、古い順から削除していくのだろうか?

 予知能力を感じるようになってから、「未来」ということに意識を感じるようになった。未来というものは、限界がないという考えを持っている。つまり無限ということだ。それは前提として、

――まだ見も知らぬことだから――

 という意識があるからだが、義之と会話をしていて、少し感覚が変わってきた。

「未来というのは、確かに無限の可能性があるが、それは、未来永劫という永遠的な考えではなく、気付かないところに結界があり、そこから外には出れないものだ」

 という発想である。

 結界をぶち破ることができるかどうかは分からないが、実際、未来について考える人はいても、真剣に想像できる人はまずいない。

「自分のことも分からないくせに、まわりの未来のことが分かるわけはないんだ」

 という発想が、根底にあるからだろう。

 確かに、自分のことも分からない。当然、分かるわけがないのだ。そこには、

「まわりがあっての自分だ」

 という意識があるからだ。

 まずは、まわりを固めてから自分を見つめるという発想なのだが、それは、さっきの発想とは矛盾している。

 では、どちらが、奥深いところにあるのかというと、それは先に自分のことを考える方であろう。

――本音と建て前――

 という考えでいくのなら、自分のことを先に考えるのが本音であり、建て前としては、まわりのことから先に考えるのではないかと沙織は思っている。

 だが、きっと他の人とこの話をするとすれば、逆のことをいうのではないだろうか?

 人間は、先にまわりのことを考えるのが正しいと思っている。

「自分のことよりまわりのこと」

 と考える方が、体裁としてはよく見えるし、何と言っても気が楽である。

 何かあっても、最終的に他人のせいにしてしまえば、自分が傷つくことはないという考えである。

「逃げ」といえば、逃げであるが、「人間」だと言えなくもない。だからこそ、本質は逆にあるのだろうと、沙織は考えるのだった。

 沙織は夢の中で再会した義之とどんな会話になるのか、ワクワクしていた。

 それが、自分が感じている予知能力に対して、考え方を深めていくことになり、さらに少し歪んだ考えになることをまだ分かっていなかった。

 夢の中に出てきた義之は、沙織に微笑みかけている。その笑みが何を意味しているのか、沙織は心の中で笑みを返すことで理解しようとしているようだった。ここから先、義之を自分がどういう目で見ながら、そして、ひいては、同じ視線で自分を見返すことができるのか、そのことにワクワクしているのだった。

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