幕間エピソード 白の想い——その2
冷静な素振りをしているが、誰が見ても顔が思いっきり緩んでいる。
何も知らぬ者が見れば、たしかにウブな少女に見えなくもない。
が……しかしそんなはずはない。
この者は強大な魔力を秘めたエルフ族の中でも高位に位置するものなのだから。
一見すればそこまでの魔力はないように見えるが、同じ境遇にあるわたしにはわかる。
このエルフの女は自分の魔力を隠している……いやそれともわたし同様に何らかの枷をはめられているのか……。
『ところでわたしがお前は見つけなかったら、あの後どこにいくつもりだったのだ?』
「……お前には関係のないことだ」
エルフの女は表情を戻して、再び殺気を込めた視線をわたしに向けてくる。
これこそこの女の本質に近いはずだ。
エルフの女は、おそらく主殿と別れた時に、ひとりで街に向かうつもりだったのだろう。
主殿に危害を加える可能性のある人族を自分一人の手で殲滅するために……。
だが、それを口にしてもしようがない。
わたしはあえて黙ったまま、話題を変える。
『お前と主殿が一緒に街に行ける方法をわたしが用意してやろう。しかも、暴力的ではないものをな。どうだ? 協力する気になっただろう?』
「……適当なことを言うな。そんな方法があればわたしは——」
『わたしは幻影魔法を使える』
本当ならば、秘密にしておきたかったのだが、主殿がこのエルフの女にご執心とあれば仕方がない。
エルフの女は一瞬驚いた後、すぐに表情を戻して、探るような目つきでわたしを睨む。
『信じていないようだな。まあそうだろうな。話しだけでは——』
わたしは、頭の中で人族の女をイメージする。人間のことなどあまり考えたくはないが……仕方がない。
数十秒後、わたしの視界には、目を大きく見開き、驚愕するエルフの女の表情があった。
これはこれで少し面白いな。
いつも仏頂面のこの女がここまで驚く様を見られるのは……。
そう思いながら、わたしは話しを続ける。
『自分の姿、形だけならばここまでの幻影を作ることができる。他者に対してはここまでのことはできないが、それでも……その耳を短く見せることは容易いぞ』
エルフの女は、その言葉に腹立たしさを感じたのだろう。
わたしをジロリと睨みつける。。
『お前にとっては承服しがたいだろうが、その耳を短くすれば人族と外見上はほとんど変わらない。つまり……わたしが幻影魔法を行使すれば、お前は主殿と平和裏に、仲睦まじく街で生活できるという訳だ』
エルフの女は視線を下にそらして、しばしの間何やらひとり考え事をしているようであった。
やがて、「確かに、そうなれればありがたいが……」と、含みをもたせながらも、うなずく。
『よかった。では……お互い利害が一致したようだな。それではしばし協力していこうじゃないか』
「ルドルフ様にはわたしのことで余計なことは——」
『安心しろ。主殿にはわたしの憶測は何もいわない。お前もわたしについての憶測は秘密にしおいてもらえると助かるのだがな』
「わかった。でも……もしもルドルフ様を——」
『主殿に対する忠誠はお前にも負けないと思うのだがな』
エルフの女は無言のままわたしをじっと見て、やがて視線をそらす。
「まさか、魔獣と一緒に行動をともにするなんて……ね」
エルフはそうため息を漏らす。
しかし、その態度とは裏腹に、エルフの女がまとっていた空気はだいぶやわらいでいた。
少なくともわたしに対して明確な敵意はもはや向けていない。
どうやらようやくこの疑り深い女も、わたしのことを最低限信用することにしたらしい。
とはいえわたしはそもそも魔獣なんぞではないのだが……。
まあ……あえて真実を話す必要はないだろう。
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