第22話 クレアの失踪と疑心暗鬼
さすがのコミュ障の俺でもこう何度も同じ表情を見ているとさすがに学習する。
クレアは間違いなく何かを俺に隠している。
そして、それが原因でクレアは心を悩ませているに違いない。
しかし、なんと言えば、クレアはその悩みを俺に話してくれる気持ちになるのだろうか。
俺はチラチラとクレアの様子を伺いながら、ずっと使っていなかったに違いない対人関係を司っている俺の脳の一部を必死に働かせる。
慣れないことをしたせいか、俺はいつのまにか「うーん」と大きな唸り声まで上げていた。
はっと気づいた時には、クレアの大きな瞳が俺の目の前にあった。
クレアは無言のままただ俺を見つめている。
「え……クレア……ど、どうした?」
俺はしばし呆気にとらわれて、クレアの瞳から目が離せなくなった。
というのも、クレアのその緑の双眸があまりにも儚くて悲しげな色を帯びているように思えたからだ。
どれくらい互いに見つめ合っていたのか……。
クレアは、しばらく俺の様子を見た後で、不意に視線を反らす。
そして、突然踵を返すとスタスタと街道とは反対の方角へと向かっていく。
「ちょ……ちょっと待って。クレア。どうしたんだ?」
俺は慌ててクレアの後を追う。
が……クレアの歩みは速くて、あっという間に彼女の姿は森の中へと消えてしまった。
当然俺もすぐにその後を追って、森の中へ分け入るが、そこには既にクレアの姿はなかった。
「な……クレア。どうしたんだ」
俺は突如として、クレアがいなくなってしまった事態を前にして、頭が混乱してしまった。
俺はやみくもに森の中を探したが、全くクレアの痕跡を捉えることはできなかった。
時間が経てば経つにつれて、俺はますます混乱……いやもはや狼狽していた。
そして、ついに完全に冷静さをすっかり失った俺は、その場で膝をつき、森の中へ向かってただ「クレア。どこにいったんだよ……」そう嘆くことしかできなかった。
そんなことをおそらく数十分くらい続けていたのだろうか。
俺はすっかりまいってしまい森の中で一人突っ伏していた。
その時ようやく俺は傍らに白がいることに気がついた。
白は、「グウゥ……」と悲しげな表情を浮かべていて、俺を慰めようとしているのかその大きな顔を擦り付けてくる。
その様子を見て、俺はやっと我に返る。
わけも分からずただ嘆いていても仕方がない。
「……心配かけてゴメンな。いい歳した大人の男が取り乱しても情けないだけなのにな……」
俺は、そう自嘲し、白の額を撫でる。
白の態度を見ることにより、俺は自分の情けない姿を客観視できたのか、いくばくか冷静さを取り戻すことができた。
相変わらず混乱はしていたが、それでもまずは今の状況を考えようと頭を巡らせるくらいの理性は取り戻していた。
なぜクレアは突然消えたのか。
何かに巻き込まれた訳ではない。
明らかにクレアは自発的に俺の前から消えた。
じゃあ……もう答えは決まっているじゃないか。
単純に俺に愛想をつかして消えただけだ……。
いや……でも……。
俺はにわかにそれを信じられなかった……いや信じたくなかった。
たしかにクレアが俺を見限る理由はすぐにでも思い尽くし、理由を上げればきりがない。
でも……今まで一応は一緒についてきてくれたのに、いきなり見限られて、突然消えるほどの失態を先ほどしたとは思えない。
それに……さきほどのあの彼女の表情は……。
ああ……やっぱり訳がわからない。
人の気持ちってのは……。
俺は心の中で思わずそう絶叫していた。
人の心がゲームのデータのように数値化できればいいのに、そうすれば悩まなくてすむのに。
と……俺はそこでようやくある事実——今の俺には数値を見れること——に気づく。
すぐに自分の固有値を目の前に表示させる。
「名前」・・・ルドルフ・ヴィスマール
「力」・・・77(+10×3、+23×2)
「魔力」・・・382(+67×3、+90×2)
「体力」・・・105(+16×3、28×2)
「幸運」・・・21(+4×3、+4×2)
「スキル」・・・鑑定
「ユニークスキル」・・・統治者レベル2
「臣下」・・・二人(クレア、白)
『クレア』の名前は臣下の中にまだ残っていた。
そして、『クレア』の名前に視線を集中させると、『忠誠度』も表示される。
『クレアの現在の忠誠度は75%です』
俺はそれを見てほっと胸をなでおろす。
が……すぐに訳がわからなくなってしまう。
この表示を信じる限り、クレアは今も一応俺を見限った訳ではないようだ。
だがそれなら尚更クレアが突然消えた理由がわからなくなってしまう。
無理やり連れ去られた訳でもない。
明らかに最後に見たクレアは自分の足で歩き、そして姿を消している。
わからない。全く……。
いや……そもそも俺のこの固有値の表示は本当に正しくクレアの気持ちを反映させたものなのか……。
一度疑いだせばキリがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます