第21話 クレアの懸念

 かなりのレアキャラって訳か……。

 

 それにしても、魔法を使えるだけでこの世界のタブーに触れる存在なのに、さらに魔獣も使役していたら、俺は完全にここでは異端の存在という訳か。

 

 まあ……もともと俺は異世界から来たのだがまさにその通りではあるのだが……。

 とはいえ、この世界で生きていく以上、この世界のタブーに触れて、住民をいちいち敵に回していてはどうしようもない。


 魔獣を配下にしているというのは隠すしかないだろう。

 しかし……森にいる間はいいが、街に着いたら白はどうすればいいのか。

 さすがに大きな犬や狼と言っても通じる訳がないだろうし。


 かと言ってせっかく臣下になってくれた白を森に捨て置くというのもなあ……。

 

 俺がそんな感じで考えあぐねていると、白が立ち上がり「グルゥ! グルゥ!」と吠える。


 どうやら俺等の誤解が解けたものだと思い、尻尾を振り回して、何やら嬉しそうにしている……ように思える。


「な!? コイツ! 何を!」

 

 が……そう思ったのは俺だけで、クレアは白の突然の行動に警戒感をあらわにする。

 

 うーむ……。

 俺が魔獣使いとして白を使役していると思っているクレアでもこの有様だからなあ……。

 まあ……しかし、今アレコレと考えても仕方がないのかもしれない。

 

 森を抜けた時に考えるとするか。

 なんかやはり我ながら考えがかなり前向きというか楽天的である。

 きっと固有値が上がっている影響だろうなあ。

 そう思いながら俺はとりあえずクレアをなんとか宥めて先へと進むことにした。


 

 それからの行程は比較的というか、かなり順調に進んだ。

 森の中で一夜を過ごしたり、言葉に出すのもはばかられる衛生的な問題が発生したりと……実際のところかなり色々あったはあったがまあそれは置いとくとしよう。

 

 ただ一つ言えることは、風呂、シャワー、トイレが当たり前にある以前の生活というのは非常に贅沢だった……ということだ。

 

 まあ……色々と文句をいっても仕方がない。

 とりあえず命は無事なのだから……。


 白との遭遇以降、あいかわらず魔獣の気配はそこかしこに感じはするが、戦闘になることはなかった。


 もしかしたら、人と魔獣が一緒にいるという光景が、魔獣たちからしても異様に感じられ、避けられているのかもしれない。


「これだけ街道から外れた森の中に一日以上いるのに、魔獣と一度しか遭遇しないなんて……」


 クレアもそう驚いていた。


「白のおかげかもな」


 俺はそう言い、白を見る。

 白は「グルゥゥ!!!」と吠え、嬉しそうにしている。


「……まあ確かにそうかもしれませんが……」


 クレアはしぶしぶそう言う。

 それにしても……森に入った当初から思っていたことだが、改めて実感した。

 クレアが、かなり旅慣れをしていて、サバイバルスキルがあるということを……。


 魔獣が闊歩する森の中を慣れた様子で進んでいくし、これだけ視界も方向感覚もない森の中でも、クレアは迷わずに進んでいく。

 

 実際俺は森の中に入ってからというもののずっとクレアの指し示す方向へと向かっている。


 俺自身は今自分たちがどのあたりにいるのか全くわかっていない。

 クレアがいなかったら間違いなくこの広大な森で遭難していただろう。

 

 クレアのような少女でもエルフはみなこういう能力を持っているのだろうか。

 それとも、クレアが特別なのか。

 

 結局、俺はまだクレアのこともエルフのこともまるでよくわかっていない。

 これから徐々にそうした知識も得ていかないといけないな……。

 

 そんなことを考えながら、クレアの方を見ていると、彼女は俺の視線を怪訝に感じたのか、

「……どうされましたか?」

 と訝しげな表情を浮かべる。


「い、いや……その……街はまだ遠いのかな」

「そうですね。大分近づいてきたと思います。おそらくそろそろ街道に出るはずです」

「そ、そっか……。やっと」

 

 俺は街が近いと聞いて思わずほっとする。

 この魔獣ひしめく森で過ごす時間は短いにこしたことはない。


 しかし……クレアはというと何故かどこか悲しげな顔を浮かべていた。

 

 クレアの言う通り、それから小一時間ほど進んでいくと、徐々に周りの景色は変わっていった。

 

 鬱蒼と茂っていた森の密度は段々と薄くなっていき、地面はようやく道というのにふさわしい装いへと変わっていく。


 今まではどうみても人のものとは思えない足跡しかなかったが、今は慣れ親しんだ形——人——の足跡が目に入る。


 そうこうしている内にあきらかに道幅が大きくなり、遠目にはついに街道と呼ぶにふさわしい大きさの道と合流しているのが見て取れる。


「おお……ついに森を抜けたのか」

「そう……ですね」

 

 俺は思わず小躍りしたくなるようなテンションであったが、クレアは先程よりもさらに物憂げな……いや思い詰めたような表情を浮かべている。

 さすがに心配になり、

「クレア……大丈夫?」

 と、声をかける。


「え……は、はい。大丈夫です」

 

 そう言うクレアだが、どう見ても大丈夫とは思えない。

 心ここにあらず……そんな様子である。

 

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