第15話 クレアと魔獣ひしめく森へ
俺はその様子に思わず感心してしばし眺めていたが、
「く、クレア。持たなくてもいいからさ。俺が持つから」
と、あわてて声をかける。
クレアの表情は淡々としているが、やはり少女が重い荷物を背負っているのは、男らしさとは無縁の位置にいる俺でもさすがに放置できない。
しかも、持っている荷物はおそらくほとんど俺のものなのだ。
「ルドルフ様。こちらの財貨が入っている小袋はわたしは持ちませんから、ご安心ください」
と、冷静に返答されてしまう。
「い、いやそうじゃなくて。荷物重いだろうし、俺は男なんだからこれくらい持つよ」
そう言い、荷物を半ば強引にもぎ取り背負う。
お、重い……。
その言葉が思わず出そうになるほど、見た目どおりの重量であった。
「だ、大丈夫ですか。かなりの重さですが……」
ここまで格好をつけていて、「やっぱり重いから一つもってくれ」とは言えない。
それにクレアのおかげで固有値が底上げされている状態でもこの体感なのだ。
今は固有値が俺以下のクレアでは実際かなりの負担だったに違いない。
「だ、大丈夫。慣れればなんてことないから」
そう歯を食いしばりながら、無理やり笑顔を作る。
と、その時、遠くから獣の咆哮のような音が複数回聞こえた。
「あのさ。クレア。やっぱり森の中って魔獣とかいたりするのかな?」
「えっ? はい。それはいます」
クレアは何を当たり前のことを聞いているんだと言った様子で返答する。
この世界の基準では、森の中に虫っているよね?と聞いているようなものなのかもしれない。
「あの……ルドルフ様。ご安心ください。この森は比較的人が居住しているエリアに近いので、強力な魔獣は基本的には生息していませんから」
俺の顔はきっと大分青ざめていたのだろう。
クレアが、慰めるようにそう言う。
さらに続けて、
「……たとえ魔獣と遭遇しても、わたしが対処しますから」
と、さらりと言う。
「……お、俺も闘うからさ」
そう俺は声を裏返しながら答えるが、精一杯だった。
「そう……ですか」
と、クレアは相変わらず無表情のままだ。
まあ……信頼されていないんだろうな。
なんとも先行きが不安な船出となってしまった。
さあ……いよいよ異世界での冒険の始まりだ。
と……俺がよく読んでいた小説ではそうなるところではあるのだが、当然ながらそんな高揚した気分はまるでない。
耳には獣の咆哮が聞こえて、目の前は真っ昼間にも関わらず薄暗い深い森の中。
ついでに背中にはズッシリと思い荷物がある。
とはいえ、一人で見知らぬ異世界の森の中をかけずりまわるよりははるかにマシだろう。
同行してくれるのはこんなに綺麗で性格の良い女性なのだし、文句を言ったらバチがあたる。
俺はそんな風に半ば強引にポジティブな思考に切り替えて、森へと足を踏み入れるのだった。
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