第9話 スキルの進化と魔法の習得

 おお! やはり俺の固有値もメチャクチャ上がっている。

 自分の固有値を見て、興奮しているとまた例の通知が目の前に表示される。


『臣下の忠誠度が50%に達しました。統治者スキルのレベルが2になりました。臣下の固有値を倍カウントで上乗せします』

 

 つまり、今の俺の統治者スキルは……


 ・臣下の忠誠度に応じて固有値が上乗せされる。

 ・忠誠度が50%を超えると上乗せされる固有値が倍カウントされる。


 ということか。

 この固有値上昇のおかげなのか、俺の気分もかなり上向いていた。


 まあよく考えてみたら身体能力が数倍……いや数十倍になったのだから精神的にも高揚するのは当然といえば当然か。

 それ以外は特に今のところ固有値向上による実感はないが……。


「それにしても……助かってよかったです。酷い傷だったからてっきりもう……」

 

 クレアが神妙な面持ちで俺の方を見ている。

 そう……俺はあのクソ兄貴のカールに斬られたのだ。

 クレアの態度や魔法の威力、俺の固有値向上やらに意識が行って、肝心なことをすっかり忘れていた。


 なぜ俺が助かったのか、ということを……。


 斬られた直後は死を覚悟するほどの傷だったはずなのだが、今はすこぶる調子が良い。

 おそらく……俺の固有値が上がったことが原因な気がするが……。

 しばし、考えを巡らせていると、ふと、さらに通知があることに気付いた。


『魔力値が一定値を超えたため、以下の基礎魔法を習得しました』

『習得魔法……ファイアボール、アイスニードル、ライトニング、ヒーリング』

って!? 俺魔法も使えるようになったのか!?


 実感は全くないが……。

 それにしても、やはり属性のようなものがこの世界にもあるのか。


 回復魔法もあるってことは……俺が助かったのはクレアが回復魔法をかけてくれたおかげなのか。


「クレア、ありがとう。クレアが魔法で俺の体を癒やしてくれたんだろ?」

「いえ……わたしには回復魔法の素養はないのです。ですから、ただ見ているだけしかできませんでした」

 

 クレアは、申し訳なさそうにそう言う。

 じゃあ……俺が助かった理由は……。

 俺が、腕を組んで考え込んでいると、


「その……ルドルフ様は……魔法の素養があるのですか」

 

 クレアはややためらいがちに言う。

「えっと……なんでそう思ったのかな?」

「……勘違いであれば申し訳ないのですが……ルドルフ様が倒れた後に、体が光に包まれて……。あれは……その治癒魔法の一種のように見えました」

 

 クレアの言う通りたしかに通知によれば俺は回復魔法と思われる『ヒーリング』を習得している……ようだ。


 しかし、自分で唱えたつもりは全くなかったのだが……。

 もしかしたら生命の危機に瀕して自動的に習得していた回復魔法が発動したのかもしれない。

 そこはおいおい確認していくしかないか。

 回復魔法を使う機会はできればこれっきりにしたいが……。


 どちらにせよ俺が助かったのはやっぱりクレアのおかげであることには変わりはない。

 クレアの俺に対する忠誠度がなぜ突然こんなに高くなったのかはわからないが、そのおかげで固有値がバク上がりして助かったのだ。


「やっぱりクレアのおかげだよ。俺が助かったのは。本当に感謝しても感謝しきれない」


 俺は目の前にいるこのメイド姿の美しい少女に深々とお辞儀をした。


「え!? な!? そ、そんな……。お、お顔を上げてください。わたしは何も……魔法を使って、屋敷を壊してしまっただけなのですから」

 

 クレアは顔を紅潮させて、困ったように両手をパタパタさせている。

 長い美しい耳まで赤く染まっていて、その姿がもうすさまじく可愛らしい。

 俺はしばらくこの可愛らしい様子のクレアを見ていたかったのだが、


「そ。その……る、ルドルフ様。これからどういたしましょう?」

 

 クレアはそう咳払いをして、無理やり話をそらして、すぐにいつもの冷静な顔に戻ってしまう。


「この屋敷もそうですけれど、わたしはカール様に大して魔法を使用してしまいました。すぐに調査のために兵士がやってくるでしょう。それにカール様もあそこまでされて黙ってはいないと思います……」


 思い出したくもない男の顔が脳裏に浮かび、俺は思わず顔をしかめる。


「ルドルフ!! いるのか!!」


 と、そこに耳障りな野太い男の声が聞こえてくる。

 噂をすれば……というやつである。

 まったくタイミングがいいのか、悪いのか。

 声がする方向に目をやると、そこにはやはり……カールがいた。

 カールは、穴が空いた壁の向こうに立っているが、今度は一人ではない。

 5、6人の武装した兵士を引き連れていた。


「ルドルフ! 貴様! 役立たずのクズの分際のくせに領主の正当後継者たるこの俺を弑逆しようと目論むとはな! しかもそのために薄汚いエルフの女の手を借りるなど! 恥を知れ!」


 カールは自身が勝手に脳内で妄想したであろう訳のわからない言い分を偉そうにがなり立てている。


 そもそもお前が俺にいきなり斬りかかってきたんだろうが……。

 俺は呆れ果てた視線をカールに向ける。


 カールは、口調も態度も当初と同じく高慢極まるものであったが、よく見ると大分様子が異なる。

 視線はチラチラとクレアの方を見ており、明らかに彼女を警戒しているのが見て取れた。


 カールが身につけている武装もよく見ると、さっきより明らかに重武装をしている。

 はっきり言ってカールがクレアに対して心底ビビっているのがよくわかった。

 カールのその情けない様子は滑稽ではあったが、笑っていられる状態ではない。


 なにせ周りの兵士たちもカールと同様にクレアに対して完全警戒モードだからだ。

 クレアが少しでも動いたら、即座に斬りかかる……そんな一瞬即発とも言えるような空気が場には漂っていた。


「お待ち下さい!」


 凛としたクレアの声が場に響き渡る。


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