殺人癖 Ep.?

 ――血みどろに染まった世界。

 おしゃれな部屋の内装にまるで似つかない、朱く染まった部屋。


 Ep.? 殺人癖 


 どうしてだろう。視界が歪む。

 さっきまでみんなとカードゲームで耳が痛くなるほど馬鹿騒ぎしてたのに。

 あの騒がしさはもう居ない。

 この静寂に包まれた部屋で、

 立っているのは僕一人。

 僕一人だけがこの静寂に立っているんだ。


 何があったっけ。何をしたんだっけ。

 どうしてあんな愛おしい騒がしさが、五月蝿さが消え去ってしまったのだろう。


 嗚呼...そうだ。僕はどうしても我慢できなかったんだ。

 隠すべき衝動を。抑えるべき衝動を。

 あの騒がしさに載せられないように。あの楽しさにガタが外れてしまわないように。

 我慢できなかったんだ。ああ、本当に良くないな。次は我慢しなきゃ。次は抑えなきゃ。あまり良くないくせで、へきなんだからさ。


 でもさ、仕方がないと思うんだ。

 だって、どうしても我慢できなかったんだから。どうしてもそうしたかったんだから。


 ああも楽しく笑うあの子を、無表情で無機物なものにしてみたくなってしまったんだ。

 あんなに白くて艶めかしい肌を赤い血で飾って見たくなってしまったんだ。

 ああやって強がるあいつを絶望の淵に叩きつけられたような顔にしてみたくなってしまったんだ。




 ――嗚呼、いいなぁ。嗚呼、本当にいいなぁ!!!!!




 血みどろに染まった世界。

 おしゃれな部屋の内装にまるで似つかない、朱く染まった部屋。


 さっきまで使っていたトランプは赤い染みがついて大半が使い物にはなくなってしまった。

 飲み物が入っていたコップは倒れ、紅を吸い、水か血かさえもわからなくなっていた。

 血を吸ったカーペットは赤い液体でぐちょぐちょになっていた。

 そして


 ずっと笑顔で騒いでた元気なあの子は、今はもう無機質な表情で床に横たわっている。

 きれいな肌が美しいあの子は、その肌を大量の赤い液体とグロい傷で飾っていた。

 意地っ張りなあの子は、絶望に沈んだ表情をその顔に浮かべたまま息絶えていた。


 ああ、なんていいんだ。

 ああ、なんていいんだ!!!!!





 そういって、その子は...そいつは...いや、“それ”は

 まるで、美しい作品に出会った芸術家のように。

 まるで、おもちゃを買ってもらえた純粋無垢な子供のように。

 まるで、好きな人に出会えた青春を謳歌する青年のように。


 そう、笑っていた。微笑っていた。咲っていた。哂っていた。呵っていた。


 恍惚に表情を歪め、純粋無垢の笑みを浮かべ、思い浸るようにニヤけ。


 幼稚に、稚拙に、幼く。

 笑う。狂気に、無様に。




 その様子は、その表情は。


 皮肉にも、血みどろな世界に、恐ろしいほどに、似合っていた。

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