バグ Ep.?

 ――この世界の不具合バグは?


 Ep.? バグ



 この世界は無限の「選択肢」によって構成されている。それは言い方を変えれば無限の可能性とも言うが、まさしくそれである。

 この世界は無限の選択肢によって構成されており、その度に多くの世界が生まれている。その世界は所謂フィクションの世界だったり、この現世と似て非なるものだったり様々で、割と魔法などのファンタジーの話もたった一つの選択肢によって淘汰され、また生まれる世界でもあるのだ。

 人はそれを『並行世界パラレルワールド』と呼ぶそうだが...そんな並行世界パラレルワールドだが、無数に生まれるが故の世界の疲弊か、はたまた気まぐれか。僕にはそれは知りようのない話ではあるのだが、そんな無数に生まれる世界の中で稀に不具合バグと呼ぶに相応しい世界が生まれることがある。

 それは選択肢AとBが混ざりあったような、選択肢Aの末の世界、A-aのあとに選択肢B-aの選択がされたような世界が生まれる事があるのである。



 そんなバグの世界を僕は歩いてる。

 この世界のバグは一見わかりにくいバグだ。だけど、少し歩けばこの世界の異常性にすぐ気づくはず。

 この世界は割りと現世に似た世界で信号や道路や建物、団地、etc.erc...

 まさにパッと見ただけでも普通の静かな、どこにでもある街並みだった。

 しかし、その街はどうにも寂しかった。いや

 無限に広がる街並みだが、そこには人っ子ひとりいなかった。それどころか、ポイ捨てされたゴミ、使いかけの農具、使って摩耗した道具達など、なにかの選択肢によって人間が消えてしまった世界、というよりこの世界には初めから人間なんて生物は存在していなかった、という方が正しい世界だった。

 しかし、人間は存在しないはずなのに真新しい街並みや建物は存在している。

 ホントならこの世界はなんの手も加わっていない静かで美しい荒野に成るはずなのに、ここには人間の跡がある。


 それがこの世界のバグだ。


 バグだなんて不穏な単語でできたこの世界だけど、僕はこの世界が大好きだ。

 だって、この世界には人間がいないんだもの!!

 人間だなんて傲慢で、自己中心的で、気持ちの悪い生物がいない。たったそれだけでも最高の世界なのに、人間の産物がどんどん壊れていく、人間のあとが消えていく。

 これほどまでに清々しいことがあるものか。これほどまでに気持ちのいいものがあってたまるものか!!

 人間の痕はいろんな動物や植物がが侵食し、そこは立派な生き物たちの住処へと成り上がる。そうして世界は元々あるべきはずのカタチに戻っていく。

 それに、いつだって滅びの産物はきれいなものだ。

 滅ぶからこそ万物が美しく見え、その刹那性が儚いのだ。


 だか、だからこそ

 創造を好み、繁栄に飢え、滅びを忌み嫌い拒む

 まるでこの世界を我がものと思ってるが如くの行動を、思考をしてる傲慢な人間なんて生物は嫌いなのだ。滅ぶべきなんだ。


 ...そんな僕は何者なのだろう。

 こうして傲慢に思考を巡らせる、愚かに賢い僕は?


 好奇心と、恐怖心。

 たったその2つの心情だけ。たったそれだけなのに。


 ――もしかしたら気づくべきではなかったのかもしれない。

 どうして僕の心情はここまで鮮明で、繊細で、複雑で、大きいのか。

 そんな思考をする生物が、何だったか。






 鏡の奥に立ってる僕は

 二足歩行の、黄土色の毛がないサル。

 一番忌むべき存在。


 それだった。


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