ボク Ep.?

「ボクはボクなのに」


 Ep.? ボク




 ーーこの町には、「ボク」がたくさんいる。

 あそこのお店にも、あそこの公園にも、あそこの道路にも、あそこの道端にも。

「ボク」がお買い物して、本を読んで、ブランコで遊んで、寝っ転がって、歩いて、生きてる。

 でもね、ほんとはみんな「ボク」じゃないんだよ。


 あそこのボクは猫の耳があって

 あそこのボクは目の形がおかしくて

 あそこのボクはぐにゃぐにゃで

 あそこのボクは頭がなくて

 あそこのボクは狂ったように嗤っていて

 あそこのボクは赤い液体を吹き出して倒れてる


 ほら、こんな気持ちの悪いのが「ボク」な訳がないだろう?

 でも、みんな自分のことを「ボク」って言うんだ。

 どれだけ気持ち悪くても「ボク」を名乗り、語り、存在し、主張し、話し、生きてるんだ。


 …でもさ、「ボク」って、こんなに要るかな?

 こんな気持ち悪い「ボク」とか、いっぱいいる「ボク」なんて要るかな?

「ボク」は「ボク」だ。「ボク」は一人だけでいいんだ!!こんなに「ボク」は要らないさ!!

 だから、消したんだよ。殺したんだよ。失くしたんだよ。


 ー君みたいな気持ち悪い「ボク」が「ボク」なわけがないだろう!!

 ー「ボク」は一人でいいんだ!君は要らないんだ!「ボク」じゃないんだよ!


 ーー「ボク」は「本物のボク」の「ボク」たった一人でいいんだよ!!!!!ーー


 …あれ?お腹がいたいよ?凄く凄く痛いよ…!

 死んじゃいそうな位痛いよ!!!

 あれ…?まだ、「ボク」は居たんだ…消さなきゃ…失くさなきゃ…

 …なんで、この「ボク」は笑ってるの?

 …なんで、この「ボク」はいっぱいいっぱい「ボク」って言ってるの?

 …なんで、ボクのお腹から赤い物が出てるの?


 ー要らない「ボク」は消えちゃえ!


 ーー違うよ?君が要らない「ボク」なんだよ?

 ボクが、本当の「ボク」なんだよ?


 ー失敗作の「ボク」なんか要らないんだ!「ボク」は「ボク」一人でいいんだ!!


 ーー違うよ!君が出来損ないで、失敗作の要らない「ボク」なんだよ!!


「ボク」はそうほざきながらいっぱいボクを痛くしたんだ。

 …あれ?なんで、夜が来てるの?なんで、世界が暗くなってるの?

 …おかしいよ。「ボク」は「ボク」で「ボク」だから「ボク」で「ボク」「ボク」「ボク」!!



「ボクはボクなのに」






 ーーまた、要らない「ボク」を消したよ。殺したよ。失くしたよ。

 だって「ボク」は「ボク」だけでいいもんね!

 他の「ボク」は、出来損ないの「ボク」は、失敗作の「ボク」は要らないもんね!!



 だって、「ボク」は「ボク」一人でいいだろう?

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