生きたくもなし死にたくもなし
栗ご飯
お試し読み
『パパ、ママへ。今までありがとう。さようなら』
シンプルで、それでいて人の心を掴む文章。一緒に載せる写真は今回は大量の睡眠薬のやつにしよう。今まで散々病みツイートをしてきたおかげで、このアカウントも無事万アカになった。
あっという間投稿はいいね、リポストで拡散されだした。数時間もすると、リプ欄はインプレゾンビの意味のない絵文字で埋め尽くされる。
引用欄に避難した人々の投稿をみると、いつものように私に寄り添う内容と非難するもので荒れていた。
『今は辛くても生きていればいつかいいことがあるよ』
『ニート歴十年で親にも嫌われてるけど俺は元気に生きてるよ』
こういう上から目線のやつら、マジで嫌い。弱ってる人に手を差し伸べてあげる自分カッケーってか?きめえんだよクソが。
『こういう奴がいるから本当に辛い人の言葉が届かなくなる。マジで不快』
『お前だけがキツイと思うなよ』
こういう説教野郎どももチョー嫌い。絶対お前らが過去に言われたこと言ってるだけだろ。イカ臭すぎて見てらんないわ。
いずれにせよ、この投稿に反応してしまった時点でこいつらは私の術中にハマっている。
「ばかでしょこいつらw!死ぬわけないじゃん!」
こんなことをしているのは、ただ承認欲求を満たしたいからにすぎない。
人間って愚かだ。こんな見え見えの嘘に引っかかって聖人面したり説教を始めたりする。そのことに気がついた中三の秋以降、私は定期的にこれを繰り返している。
「あーいいもん見た。もう寝るか」
カーテンを閉めようと窓に近づく。そこから見える夜景が本当の夜景ではないことに気づくのには少し時間がたった。
まず普段見えている建物が全く見えないことに気づき、そして夜の闇だと思っていたものが何やら布のようなものであると気づく。最後に本来月があるべき場所にある頭蓋骨に気づいた。……頭蓋骨?
動きが止まった私を気まずそうに見つめてから、頭蓋骨が口を開く。
「あのー、死なないって、マジですか?」
白骨の手の中で鎌が鈍く光る。あまりの非現実的な状況に、私は危うく死にそうになった。
これが、私と死神の初めての出会いだった。
生きたくもなし死にたくもなし 栗ご飯 @BanSoTan
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