EP2 畏怖(?)

 僕を囲む人々の輪が、段々と近づいてきているのが分かった。

 当たり前だ。仮にバナナが蒸発する様を見ていなかったにせよ、地震騒動の件で僕を怪しんでここに来たのだろうから。


 そのうち、食事を食べ損ねたことに気付いた。

 喉も乾いてきた。折角だから、今度はリンゴにしよう。


 再び、ポンとリンゴを創造。

 それを、落とさないように添えた手でキャッチ。

 形を崩さないように、口元まで持っていって。

 ゆっくりとかじりつく。


 歯がリンゴに接する瞬間、みずみずしい果汁が溢れる。

 まるで、同時に、森の匂い——木からもたらされる栄養と、周りの空気を存分に吸った新鮮なリンゴが放つ、自然——が口の中に広がる。


 夢中になってかじりつく。自分が衆人環視の状況下にあることなどお構いなし。

 これは…うまい。この芸術作品を芯まで堪能し尽くしてやろうと、リンゴを持つ手に自然と力が入り、持っている部分からも果汁がにじんでくる。


 やがて、その至福の時間は終わった。と同時に、自分が衆人環視の状況に置かれていることを、今更ながら思い出す。


 彼らは、体型を確認することが出来る距離まで近づいていた。それで気づいたのは、彼らの耳がぴょん、ととんがってる事。所謂エルフというやつだ。

 同時に、話し声が聞こえる。

「食べ終わったのか?」

「そうだ。しかし何をするでもなく立っている。」

「何者か訊ねに行こう」

「待て。さっき、バナナを出現させ、すぐに消した。もしかすると、『お前らも下手なことをしたらこうなるぞ』という警告かもしれない」

 エルフ達は大体そんなことを言った。


 いずれにせよ、ここでじっと立っているだけではらちが明かない。何か、声を掛けてみようか?でも何と?少しでも下手な言動を取れば、たちまち毒矢で射抜かれてしまうかもしれない。

 …やはり、彼らをよく観察しよう。そう思った時だった。


 一人の若者が、すぐ近くに寄って来た。

 何を思ったのか、手には木の枝をたずさえて。


 彼女はおそるおそる近づいてくる。

 まるで、僕が未知の次元から来た宇宙船から出てきた存在で、何とかしてその宇宙人とコミュニケーションを取ろうとしているみたいに。


 清流の聞こえてくるような澄んだ碧眼がこちらを捉えている。丁寧に梳かされた薄い金色の髪が、丁寧に緩く結われている。白いローブが風で微かになびく間から、色とりどりの宝石を嵌め込んだ装飾品が見える。

 周りのエルフたちは、先ほどの喧騒はどこへやら、二人が相対するのをただ静かに見守っている。


 この人(?)は、ひょっとするとエルフの中でも偉い人なんじゃないだろうか、というように見える。

 もしそうなら、何か聞き出せるかもしれない———僕は、改めて背筋を張って、彼女と向き合った。


 …でも。

 何と切り出せばいいんだろう。


 言葉に詰まり、沈黙の中ただ見合っていたが、彼女ははおもむろに木の枝でこちらの顔を突っついてきた。


「ちょ、ストップ…」

 思わず声が出た、その瞬間。


「喋ったぞ!」

 誰かが叫ぶのを皮切りに、再び騒がしくなる。

「何と言ったんだ?」

 だの、

「いや分からない。気を付けないと、襲われるかもしれない。私たちはここから見て居よう」

 だの、とにかく僕を邪魔しようとしたがっているんじゃないかと思うくらいしつこい。


 何と言うか…やりづらい。段々、苛立ちが募ってくる。

その僕の感情に応えるかのように、空が暗くなっていき———


稲光が走る。

同時に、大粒の雨が降り出した。

エルフ達はこの現象に腰を抜かしたのか、一目散に逃げだした。


…これから先、上手くやっていけるんだろうか。

つづく

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世界中の神様たちから一つずつ能力をもらったら、全知全能になりました 鳥猫 @tori-nyan

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