魔法の瓶詰

【登場人物】

・川内:疲れたサラリーマン

・山田:可愛いOL

・店主:アジア系外国人、何となく怪しい。


---------- 以下本文 ----------


(オフィス内、ちょっと一息入れようとおやつタイム)

山田:星はガラス瓶の中でキラキラ輝いていた。

蓋を開け、その中の一粒を取り出し口に入れる。

レモンの香りをまとった甘さが、ゆっくりと溶けだしてくる。

川内「お、金平糖。懐かしいね。」

山田「良かったらいかがですか?」

(瓶から出す音)

川内「わ、こんなにいっぱい!いいの?君の分がなくなっちゃうよ?」

山田「いつも疲れた顔をしている川内さんにはこの位が丁度いいんですよ。目の下のクマ、また酷くなってますよ。眠れてないんですか?」

川内「あぁ…ちょっと最近、悪夢ばかり見てて。」

山田「悪夢ですか。現実で何か辛い事があると見てしまうとは聞きますが。」

川内「辛い事…か。思い当たる事は特にないんだけどなぁ。(カリとかポリとかいい音)…いちご風味!」

山田「この金平糖、一粒一粒味が違うんですよ。白はミルク、紫はブドウ、橙はミカン、青は…」

川内「ソーダ味だ。いいね、これ。何処で売ってるの?」

山田「すぐ近くの公園にキッチンカーが来ていて、そこで。」

川内「キッチンカーか。今度行ってみるよ。いつでもいるのかな?」

山田「…そうですね。川内さんなら会えると思いますよ。夜もやってるそうですから良かったら。…残業、程々にしてくださいね。」

川内「そうだね、たまには早く帰るよ。」


川内:とは言ったものの…気付けば時計の針は八時をさしていた。間が悪い、要領が悪い、どちらともとれる嫌な性格だと、自分でも思う。

(机の上を片付ける)

川内「あとは明日…。流石にもういないよなぁ。」


(帰路)

川内:いないと分かっていつつも、通り道の方向だったので足を運んでみた。

川内「え、こんな時間まで?」

川内:山田さんに教えてもらったキッチンカーはまだ営業をしていた。

表の棚には、中身の違うたくさんの瓶が並んでいる。あの金平糖の瓶もあった。干したイカゲソ、これはかりん糖かな?こっちはビー玉みたいな飴だ。

駄菓子屋さんなのかな…。

店主「イラッシャイマセ。」

川内「こんばんは。同僚にここの事を教えてもらいまして。」

店主「ソウデスカ。アリガタイデス。」

川内:車内の奥から現れた店主はアジア系外国人だった。彼はニコニコ笑いながら表に並んだ瓶の一つを差し出した。

店主「アナタニハコレがオススメデス。」

川内:そう言って渡された瓶の中にはゼリービーンズが入っていた。レモンイエローに、スカイブルー、ライムグリーン、そしてオレンジ。

いつか行った南国の夕暮れを思い出す色合い。

店主「コンナオソクマデオシゴト、オツカレデショウ?悪夢ヲミルコトモオオイノデハ?」

川内「え、あ、…じつは。はい。」

山田「この店が売るものはね、『今その人にとって必要なもの』なんですよ。川内さん、やっぱり残業したんですね。」

川内「山田さん!…どうして。」

山田「私、英会話教室に通ってて、その帰りなんです。」

川内「そうなんだ。」

山田「何を買ったんですか?というか、何をすすめられました?」

川内「これ」

山田「ゼリービーンズですね。ふふ…南の島の色。これを食べればきっと、いい夢が見られますよ。」

川内「なんだか俺も、そんな気がするよ。君が食べてた金平糖も何か言われがあるの?」

山田「ふふ、そうですね。川内さん、もしよろしければ一緒に晩ご飯でもいかがですか?ここのカレー、すごく美味しいんですよ。」

川内「本場の味ってやつか。」

山田「はい。」

店主「マイドォ~。アツアツカレェ二人前デスねぇ。」


(外のテーブルにて)

川内「ぉお、熱っ!本場のカレーって手で食べるから温いんじゃなかった?」

店主「アツアツのお二人さんにはアツアツカレーがよろしいかと!」

川内「いやいや、そういうのじゃないから。こんなくたびれたオジサンとそんな風に思われるなんて申し訳ないよ~。」

山田「そんなことないですよ!ふー、ふー、…おいしぃ~♡」

川内「え」

山田「星に願いを、って言うじゃないですか?」

川内「うん、言うね。」

山田「金平糖って星に似てません?」

川内「似てるね…(一口食べる)お、辛っ!でも美味っ!」

山田「私、ずっと川内さんの事好きだったんですよ。」

川内「ふー、ふー…え。」

山田「あ、恋愛的な意味でですよ、勿論。」

川内「…で、でも俺、こんなんだよ。要領は悪いしダサいし…。」

山田「要領が悪いんじゃなくて、川内さんは優しいんですよ。子どもが産まれたばかりの疋田さんのお仕事手伝ってあげたり、皆が聞きたくない課長の長話を聞いてくれたり…。」

川内「あ…えっと。」

山田「給湯室の換気扇、綺麗にしてくれたのは川内さんですよね。」

川内「あれは…課長がコーヒー入れてたらホコリが降ってきたって言ってたから。」

山田「プリンターが調子悪い時も直してくれたし。」

川内「業者に頼むまでもなかったからね。」

山田「…そう言って、自分の仕事以外も引受けて。」

川内「いいんだよ、そんなのは。」

山田「良くないですよ。少しは自分にも優しくしてください。」

川内「(間)…ありがとう。なんかさ、なんでもない様な事だけど、山田さんが見てくれてたって思うと報われたっていうか…。やって良かったなって思えるよ。」

山田「川内さん…。」

川内「(にっこり)彼女ができたら残業なんてしてられないなぁ…なんて。」

山田「彼女にしてくれるんですか?」

川内「星に願い事、してくれたんだろう?」

山田「はい!(嬉しそうに)」


川内:白い砂浜、エメラルドグリーンの海。オレンジ色の太陽が手を繋いだ二人を照らす…そんな幸せな夢を見た。

月明かりの窓辺、南の島の風景がガラス瓶のなかでキラキラと輝いていた。




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