涙の恋は聖夜に


≪登場人物≫

きみこ×とおる:二人掛け合い(性別に縛りなし、方言等も自由に)


------------- 以下本文 -------------


きみこ:冬には匂いがある。

とおる:冬にも色がある。

きみこ:私達の出会いは十二月。

とおる:二人の恋が終わった夜。


(クリスマスの繁華街)

とおる「え、ちょ…まなみ!待てって。それどういう事だよ!?…は?本命は別に…って。いや、待て、待てってば!(一方的に通話が終わる。スマホを見てため息)…はぁ。何も今日じゃなくても…。」

きみこ「(その隣で)好きな人とうまくいきそうだからもう付き合えないって…私ってあなたの何だったの?…待ってよ!今日はクリスマスイブなのよ!?…行かなきゃいけない…って。ちゃんと説明してよ!(一方的に通話が終わる)…信じられない。なんで、なんでよ…。最高の、(泣き出す)クリスマスにしようねって…(泣く)あれは、嘘だったの?…う、うぅ…。」


(間)


とおる「あの…」

きみこ「ぐすっ、なんですか?」

とおる「これ、良かったら。(ポケットティッシュを渡す。)」

きみこ「…すみません。ありがとうございます。…ぐすっ」

とおる「あ、あと。これも、良かったら。(紙バックを渡す)」

きみこ「は?」

とおる「俺、実は今しがた彼女に振られてしまいまして。捨てればいいんでしょうけど…いい値段だったから勿体ないし。かといって女性用だから自分で使う事も出来ないし…で。」

きみこ「え、いえ、そんな、受け取れません!その方のために選んだんでしょ?それを見ず知らずの私なんかが受け取れません。」

とおる「見ず知らずだからこそ、と言うか…。受け取るだけ受け取って捨てていただいても。」

きみこ「だったらご自分で…。」

とおる「はは…ですよね。(だよね、そうだよね。としょげる。)」

きみこ「じゃ、じゃあ!これと交換、ではどうでしょう?(と同じく紙袋を渡す)」

とおる「それは彼氏さんの為に選んだのでは?」

きみこ「聞いてましたよね?私もたった今振られたんです。…貴方と一緒です。」

とおる「はい、…実は聞こえちゃいました。理由も一緒だったような…」

きみこ「他に好きな人が…ぷ…ふふふふふ(なんかおかしくなって笑い出す)。なんですか、これ。」

とおる「嫌な偶然ですね。」

きみこ「ほんとに(泣笑)」

とおる「こんな綺麗な人を振るなんて」

きみこ「は?…実は新手のナンパ、なんですか?」

とおる「誓って違います。」

きみこ「ふふ…。貴方だって。こんな素敵な人を振るなんて、どうかしてますね。」

とおる「でしょ?」

きみこ「ふふ…謙遜しないんですね。」

とおる「しませんよ、だからショックなんです。」

きみこ「本命…って言ってたってことは二股をかけられた?」

とおる「(ため息)はぁ、みたいです。「あなたなら直ぐに他の人が見つかるだろうから」とかなんとか。俺は本気だったのに。結婚まで想像したのに…。」

きみこ「…私もですよ。この人なら、そう思ってました。完全な片思いだったみたいですけど。」

とおる「(きみこの表情を見ながら、少し考えて)…あの、これは提案なんですが。」

きみこ「はい」

とおる「ここにいても身体が冷えますし…とは言え俺はまだ貴女と離れ難い。」

きみこ「奇遇ですね、私もまだ貴方とお話したいです。」

とおる「場所、変えましょうか。」

きみこ「賛成です。」


とおる:とは言えその日はクリスマス。男女で行くような洒落た店は全部、ハッピーを顔に書いたようなお客で埋まってる。

きみこ:恋に敗れた二人が行くなら、気楽に入れるお酒と肴の美味い大衆居酒屋が一番いい。


とおる「(紙袋を開けて)あっ、この手袋、店で見る度に良いなぁって思ってたんですよ。でも昨年買ったばかりだったからためらってしまって。…いいんですか?もらっちゃって。」

きみこ「もちろん。その色、貴方によくお似合いですよ。」

とおる「そうですか?実はこういう感じのダークブルー、一番好きな色なんですよ。俺のも、どうか開けてみてください。」

きみこ「(自分ももらった紙袋を開ける)…あ、この香水!私このブランドの香りが大好きなんです。でもちょっと高いから自分ではなかなか手が出なくて…本当にいいんですか?」

とおる「もちろんですよ。複雑ですけど、喜んでいただけたなら良かった。」

きみこ「ふふ、本当に。でも、なんだかお互いのために用意してたみたい。」

とおる「そうですね。」


きみこ:そう言って微笑んだあなたを見て、私は悲しみが薄れていることに気付いた。

とおる:あんなに好きだったはずなのに、元カノのことは遠い記憶になった気がした。


きみこ「そんな雰囲気じゃないなって思って言えなかったんですけど」

とおる「俺も実はそう思って言えないでいました。傷ついてる人に“素敵なクリスマスを”なんて。」

きみこ「ふふふ、なんだかもうそんな気遣いはいらない気がします。」

とおる「俺もそう思います。…あの、もしよろしければまた会っていただけますか?」

きみこ「喜んで。私もそれ、言おうと思ってました。」

とおる「はは…貴女に会えてよかった。」

きみこ「わたしも。楽しい夜になりました。それでは…」

とおる・きみこ :メリークリスマス!


*** おわり ***

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