コンコンバス
寝過ごしちゃったっ!ここどこっ!「お客さーん終点ですよー降りてくださーい」と言われるまま、あたふた降りたら完全に見知らぬ土地!炙羅華山(あぶらげやま)?聞いた事ないんだけど!
「次は二時間後かぁ…はぁ」
私は溜息をつきながらバス停のベンチに座った。持っていた水筒のお茶を一口飲む。屋根がかかっているとはいえ暑い。このままここで二時間過ごすのはキツいと思った私は、スマホで位置情報を検索する。十一時四十分。どこかお昼ご飯を食べられる所はないかしら。しかし見渡す限り何も無い。あるのは山と、山と、畑と、バス停と山。畑があるということは民家はあるはず…だけど。
「げげっ!電波ないじゃんっ!」
どうしよう、二時間我慢するしかないのかなぁ。電波がなきゃ電話も出来ない。
その時、エンジンの音がした。今時の車にしては随分ガタガタうるさい。古い軽トラックか何かかな?と思って立ち上がって見ると、それはバスだった。雑誌のレトロ雑貨特集で見たような、ランプが丸い、ごろっとした可愛らしいバスだ。バスの行き先表示には私が戻りたい町の名前が書いてある。
私の目の前で止ると、ドアが錆びた音を立てながら開いた。中から小さな子ども達が次々と降りて来る。校外学習か何かだろうか。お礼を言いながら最後に先生と思しき女性が降りて来た。その服装は、どこか昭和を感じさせる。
「あの、このバスの行き先って…!」
戻れるものなら戻りたい。バス停には書いていなくても、こういった辺鄙な場所に住む人達の為に特別に運行するバスがあるとテレビで見た事がある。現役を引退した路線バスが使われるって聞いた事があるから、きっとそれに違いない。
私の問いに先生はニッコリと微笑み、こくんと頷いた。やったーっ!帰れる!私はすぐにバスに乗り込んだ。座席に座ると、バスはゆっくりと動き出した。窓の外を見ると先程の子どもたちがこちらに向かって手を振っていた。…え、う、嘘でしょ?子どもたちはみんな、狐のお面を被っている。先生は…。私は息を飲んだ。先生だと、人だと思っていたそれは
「きゃぁあ…っ!」
え、え?どういうこと!?っていうことは、このバスは?恐る恐る、運転席を見る。するとそこには
「お客さん、立ってちゃ危ないよ」
普通の人間のオジサンが鏡越しにチラリとこちらを見る。
「あのっ、今降りた子どもたちって…」
「?」
オジサンはなんの事だと言わんばかりに首を傾げ、私を変なものを見るような目で見る。み、見えてなかったの?私はへなへなと座席に腰を落とした。
窓の外に目をやるといつの間にか景色は霧に霞んでいた。霧が晴れると、見なれた街並みが木々の向こうに見える。私は胸を撫で下ろした。
安心したらまた、眠気が襲ってきた。…だめだ、瞼が重い。私は睡魔に負けた。振り出しに戻る。
・・・おわり・・・
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