経過と劣化

目覚めるとそこは知らない天井

昨夜何があったっけ?


美味しそうな....これは味噌汁の匂い

知らない背中がキッチンに立っている。


「おはよう、気分はどう?」


爽やかに微笑み、貴方は振り返る。

とても素敵な人。

だめだ…思い出せない。


「目玉焼きは半熟?それとも固めが好き?」


じゃあ半熟で

…なんて悠長に答えてる場合じゃないんだけど。


「了解。もう少しでできるから、顔を洗っておいで。」


私はベッドを下りて足の赴くまま、洗面所へ。

何故か場所を知っている。

ここに来るのは初めてのはずなのに。

鏡の前に並ぶ、二人分の歯ブラシ。

私が普段使っている化粧品。


「スッキリした?さ、座って。」


促されるまま、椅子に座る。

テーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいる。


「いただきます。」


い、いただきます。

…ってそれより、貴方は誰?

私はどうしてここに?


「…覚えてないか。」


貴方が悲しそうな目で私を見つめる。


「僕はね、君の…」


…あれ?聞こえない。

目の前もだんだんぼやけていく。



貴方がまた遠くなる。

貴方がまたいなくなる。


待って…!いや!!



「…すみません、最近調子が悪くて。長く使ってれば…ってそりゃ。夫婦ですから。長く使いたいに決まってるじゃないですか?…そうなんです、電池がすぐ切れるようになっちゃって。記憶も、無くなっちゃうんですよね。…え、交換?…いえ、彼女がいいんです。妻は彼女だけですから。…は?何言ってるんですか?『人間と同じ』を謳い文句として売っていたのはそちらでしょう?」



目覚めると、そこは知らない天井。

ここはどこ?

どうして貴方は泣いているの?




✼✼✼ おわり ✼✼✼


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