【戦花】夏雲の白、突撃

戦時下の若い男女の会話


---------- 以下本文 ----------



A:贅沢は敵だと書かれた張り紙がやたらと目につく町の一角で、

  その極みともいえよう婚礼の準備は粛々と行われていた。


A「B、結婚おめでとう!」

B「ありがとう!!わぁ凄い!これ並ばなきゃ買えなかったんじゃない?」

A「朝から並んで手に入れたんだぜ!お前食いたいって言ってただろ?」

B「凄くうれしい。ありがとう、A。」

A「しかしBもとうとう人妻かぁ。こんな風に気軽に会えなくなるわけだ。」

B「…うーん、やっぱりちょっと寂しいな。」

A「ちょっと?俺は、めちゃくちゃ寂しいんだけど…。」

B「ははは、そんなに?…って言ってもさ、そんなに会うことなかったよね?私達。」

A「お前が俺の誘いを断るからだろ?その日は家の手伝いだとか、約束があるとか。」

B「Aが…間が悪かっただけだよ。」

A「それに何より、俺はお前から誘われたこと、ない。」

B「そうだっけ?」

A「そうだよ、いつも俺が一方的に誘ってた。」

B「そうだっけ」

A「そうだよ…嫌われてんのかなって悩んだこともある。」

B「まさか、私がAを嫌うなんて。」

A「じゃ、俺の事、好きだった?」

B「うん。」

A「え」

B「好きだったって言うか、今も好きだよ。Aは最高の友達!一緒にいると凄く楽しいもん!」

A「…じゃ、じゃあなんでだよ!なんで俺じゃない奴と…結婚、するんだよ。」

B「…仕方ないでしょ。」

A「政略結婚なんてどうせ上手くいかねーよ。俺にしろよ。」

B「…あの人、すごく優しいんだよ。」

A「二十も離れてりゃ優しくもなるだろ。」

B「…あの人なら私を幸せにしてくれる。」

A「そりゃとんでもねぇ金持ちだもんな。一生金に困ることはないだろうよ。」

B「そういうことじゃない。」

A「そういうことだよ。幸せかどうかなんて金のあるなしだろ?」

B「違うよ。私、あの人がお金持ちじゃなくても愛せる自信あるもん。」

A「は?」

B「好きなの。」

A「っ、本気で言ってるのか?」

B「本気」

A「…なんで、なんで俺じゃだめなんだよ。俺の方がお前を幸せにできる!絶対そうだ!金だって…あいつには劣るけどある。あいつなんて、金持ってるだけのハゲオヤジじゃねぇか!身の程を知らずに若い娘を好きにしようなんて、とんでもねぇ下衆だ!…何より俺の方がお前を好きな気持ちは勝ってる!…それなのに、それなのに。」

B「そういうところだよ。あの人、Aみたいに酷い言葉を並べたことは一度もない。人をバカにするような事も言わない。いつも私の事を気にかけてくれるの…今日だって。あの人が言ってくれたんだよ、会いに行ってもいいって。付き合ってる時だって普通、他の男の人と二人で会うなんて許されないのに…幼馴染だろ、特別なんだろって言ってくれるの。本当は不安に思ってるの。私がこのまま帰ってこないんじゃないかって。でもね、信じるって、私の事信じるって言ってくれるのよ。Bみたいに一方的に自分の思いをぶつけるようなことはしない。」

A「…なんだよ…なんだ、よ。…すっかり毒されているじゃねぇか!」

B「これは毒なんかじゃない。私はね、あの人といると綺麗なものになれそうな気がするの。」

A「…おまえはずっと綺麗だよ。」

B「A、今までありがとう。あなたもいつか…。」

A「B…。」



A:綺麗なBは綺麗なまま、暑過ぎる夏の日、空から落ちてきた爆弾に命を奪われた。俺に『いつか』は訪れていない。でもこれでいいんだ。だって俺は今から君の元へ行くのだから。自分の思いをぶつけることしかできない、なるほどその通りだ。ぶつけて散ったその先で、俺はまた君に会う。


(特攻の飛行機が上昇する)

  



*** おわり ***

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