Spicy Hot Pot

女:綺麗に洗ったはずの鍋には、まだ昨夜のカレーの匂いがこびり付いていた。


(回想)

男「すまない」

女「…信じていたのに。信じてたのよ私、貴方を!誰よりも信じてた!貴方なら私を裏切らないって!今までの男とは違うって…信じてたのよ?」

男「すまない」

(間)

女「…謝るだけ、なんだ。何も言ってくれないのね。じゃあ、じゃあ聞くけど!私の事、本当にカモフラージュとしか思ってなかっ」

男「そんな事は無い!ずっと好きだったよ!愛してた···今まで出会った女性の中で一番さ!それは今も変わらない!…でも、僕は」

女「(涙を拭う)もういいわ。その言葉で、じゅうぶんよ。」

男「君には幸せになって欲しいと思っている!僕じゃない誰かと…君なら絶対に」

女「私は!…貴方と幸せになりたかったの」

男「…すまない」

女「仕方ないわよね。だって貴方はあの人といる方が幸せなんだから。あの人といる時の貴方、凄く輝いてるもの。悔しいけど、好きなのね。あの人も貴方を愛しているのね。」

男「すまない」

女「今までありがとう。」

男「…」

女「(涙を拭う)カレー、冷たくなっちゃったわね。温め直すわ。」

男「僕は、このままでいいよ。君のカレーは冷たくても美味しいから。」

女「私は、温かい方がいいわ…。」

(回想終了)


女:貴方が好きだと言ってくれたカレー。

スパイスを組み合わせて作る、私だけのカレー。

もう食べられないのよ?…いいの?


洗っても洗っても鍋にこびり付いた匂いは落ちない。

その鍋を使おうとすると、カレーの匂いに混ざってあの日の貴方を思い出す。

貴方の最初で最後の愛の言葉を。




✼✼✼おわり✼✼✼

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